彼女よりも幼馴染を溺愛して優先の彼と結婚するか悩む

佐藤 美奈

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第36話

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私は、天を仰ぐ代わりに大きなため息をつき、心の中で思い悩んだ後、ゆっくりと彼の前にしゃがみこんだ。

「……本当に、あなたは、救いようのない、大馬鹿者ですわね」

その言葉は、決して拒絶のものではなかった。むしろ、諦めとどうしようもない愛情が絡み合った深い肯定の言葉だった。私の心の中で、言葉では表現できない感情が交錯していた。そして、どこか冷静に諦めたような気持ちが湧き上がった。

「……もし、もしもまた繰り返すのなら、その時こそ、あなたのそのを、私自身の手で、えぐり出して差し上げますわ。それでも、よろしいの?」

その言葉には、私なりの最大限の妥協が込められていた。もはや、心の中でどこかで決めていた。もう一度信じようと。その覚悟が、すべてを突き動かしていた。

アンドレは、驚いたように目を見開き、アクアマリンの瞳が少し震えた。やがて、涙で顔がぐしゃぐしゃになり、その表情は幼子のように、何も考えずに純粋に幸せそうに微笑んだ。

「……ああ。望むところだ! また俺がキャンディを溺愛して優先したら、その時は俺のを君になら喜んで差し出すよ!」

その言葉には、痛々しいほどの真剣さが込められていて、彼の覚悟がしっかりと伝わってきた。どれだけ愚かで、どれだけ無鉄砲でも、彼の愛はそれほどまでに真摯で私を引き寄せてやまないのだ。

月夜の魔法が解けた朝。私、ニーナ・フォン・ローゼンベルクは恐る恐る目を開けた。隣で眠るアンドレの、穏やかな寝顔がそこにある。ああ、夢じゃなかった。昨夜の馬鹿げた、でもどうしようもなく真剣だった告白も、情熱的なキスも全て現実だった。彼は頭が悪いけれど、キスの達人でベッドの上では天才的だ。

私がそっと彼の髪に触れると、アンドレがゆっくりと目を開けた。まだ夢の中にいるような、とろりとした瞳が私を捉える。

「……おはよう、俺の女神様」

その甘いささやきに私の頬が熱くなる。これからの恋の始まりは、今までで一番柔らかく甘い朝だった。

朝食の後、アンドレは真剣な顔で私に向き直った。

「ニーナ。今日、全てを終わらせてくる」

「終わらせるって……何を?」

「キャンディとのことだ。もう、あんな風に君を傷つけさせない。俺たちの間に、幼馴染の影がちらつくのは、今日で終わりにする。本当のけじめをつけてくるよ」

彼の瞳は、もう揺らいでいなかった。そこには、固い決意があった。私は、少しだけ不安を感じながらも、彼のその言葉を信じて黙って頷いた。

「……待ってるわ」

彼を信じる。それが、私の新しい誓いなのだから――

アンドレが子爵邸の扉を叩いた時、キャンディは鬼のような形相で彼を待ち構えていた。昨夜、アンドレが自分の元に帰ってこなかったことで、彼女の不安と怒りは頂点に達していたのだ。

「どこに行っていたのよ! 昨夜、あの女のところに行っていたでしょ! 何を吹き込まれてきたの!」

ヒステリックな彼女の叫びにも、アンドレは動じることなく冷静だった。彼は、冷酷非情にきっぱりと言い放った。

「キャンディ、これからお前には冷たく接することに決めた。お前とは今後、さまざまなイベントで顔を合わせることがあるだろう。でも俺は、ニーナと幸せに過ごすからな。お前がどう叫ぼうと、どう泣こうと無駄だ。お前には厳しく接する。お前にニーナとラブラブする姿を見せつけて悔しがらせてやる!」

「……何、言ってるの? アンドレ、頭おかしくなったんじゃないの!?」

アンドレの言葉は、容赦ない一撃だった。キャンディは激しい怒りから驚愕へ、そして絶望へと変わっていった。彼女はガツンと頭を殴られたようなショックを受けた。愛情あふれていた幼馴染の変わりように、ただ呆然と彼を見つめることしかできなかった。
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