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第9話
そんなある日、私は中庭で妹のユリアに捕まってしまった。彼女はいつものように、無邪気にとびきりの笑顔を浮かべながら、腕にはフレックスを絡ませている。その姿は、何かを企んでいるかのように見えた。
フレックスの笑顔がそのまま不安の予兆となり、私は思わず心の中でため息をついた。最悪の組み合わせだと感じながらも、逃げることもできず、ただその場に立ち尽くすしかなかった。
「お姉様、ごきげんよう」
「……ええ」
「ご覧になって? フレックス様が、わたくしのために新しいブローチを買ってくださったの。素敵でしょう?」
見せびらかすように、ユリアは胸元の宝石を指でゆっくりと撫でながら私に視線を向けてきた。その動作がどこか挑戦的で、あからさまに自己満足を感じさせるものだった。
フレックスは、彼女の隣でその光景を楽しむように、嫌らしい笑みを浮かべている。その笑みの中には、何か得意げなものが滲み出ていて私は思わず顔をしかめた。
「そう、良かったわね」
私がそれだけ言って立ち去ろうとすると、背後から冷たい声が響いた。
「――それが何だ?」
カイルだった。いつの間に現れたのか、ユリアとフレックスを凍てつくような目で見下ろしている。
「あ、兄上……」
「俺の女に、何か用か?」
え? “俺の女”その言葉に、周りにいた生徒たちが息を飲むのが分かった。ユリアの顔から、さっと血の気が引いていく。
「なっ……お姉様が、カイル様の……?」
「そうだと言ったら?」
カイルは、私の肩を優しく抱き寄せると、突然ぐっと自分の方へ引き寄せた。その瞬間、彼の腕の中に包まれると、思わず深呼吸をしてしまうほど驚くほど安心感が広がった。彼の温かな体温と力強い腕に支えられ、全ての不安や緊張が消え去ったような気がした。
彼の存在が、何もかも忘れさせてくれるような、そんな心地よい感覚が広がっていく。これから先、どんな困難が待ち受けていても、この腕の中なら何も怖くないと感じさせてくれた。
「くだらないことで、こいつを煩わせるな。フレックス、次はないぞ」
精神的に追い詰めるような声が響いた。その声には、圧倒的な力強さと冷徹さが込められていて、フレックスはその言葉に反応し、完全に怯えた様子を見せた。顔面が蒼白になり、視線を逸らすことすらできない。カイルは、そんな彼に冷たく視線を向けるだけだった。
その眼差しには、言葉すら必要ないような威圧感があった。そして、私をしっかりと抱き寄せたまま、彼は一切の躊躇もなくその場を去っていった。周囲の空気が重く静まり返る中で、私はその腕の中に包まれたまま動けなくなった。
「……あ、ありがとう」
「気にするな」
「でも、みんな見てた……」
「ちょうどいい。牽制になっただろ」
彼は、何事もなかったかのように悪びれもせずに言う。しかし、そんな彼の言葉には、少しだけ胸が温かくなる感覚があった。なぜなら、彼が私を守ってくれたことが、心のどこかで嬉しかったからだ。
公衆の面前で、あの堂々とした声で俺の女だと宣言してくれたことも、実は彼と親密だと彼に思いを寄せる令嬢たちに知られたくはないけれど、心の中で密かに喜びを感じていた。
その夜、カイルは剣の訓練でフレックスを完膚なきまでに叩きのめしたらしい。もちろん、あくまで『訓練』として。彼の手加減など少しもなく、その剣の一振り一振りがフレックスに与える痛みと恥を重ねていったことだろう。
次の日、学園でフレックスと目が合った瞬間、彼は私から逃げるように目を逸らしていた。その姿を見たとき、少しだけ胸がすっとした。これで少しは彼が私に対して、妹と一緒に無礼な態度を取ることもなくなるのだろうと思うと心が軽くなった。
カイルなりの不器用な復讐。その私を守るその行動が、たまらなく愛おしく感じた。
フレックスの笑顔がそのまま不安の予兆となり、私は思わず心の中でため息をついた。最悪の組み合わせだと感じながらも、逃げることもできず、ただその場に立ち尽くすしかなかった。
「お姉様、ごきげんよう」
「……ええ」
「ご覧になって? フレックス様が、わたくしのために新しいブローチを買ってくださったの。素敵でしょう?」
見せびらかすように、ユリアは胸元の宝石を指でゆっくりと撫でながら私に視線を向けてきた。その動作がどこか挑戦的で、あからさまに自己満足を感じさせるものだった。
フレックスは、彼女の隣でその光景を楽しむように、嫌らしい笑みを浮かべている。その笑みの中には、何か得意げなものが滲み出ていて私は思わず顔をしかめた。
「そう、良かったわね」
私がそれだけ言って立ち去ろうとすると、背後から冷たい声が響いた。
「――それが何だ?」
カイルだった。いつの間に現れたのか、ユリアとフレックスを凍てつくような目で見下ろしている。
「あ、兄上……」
「俺の女に、何か用か?」
え? “俺の女”その言葉に、周りにいた生徒たちが息を飲むのが分かった。ユリアの顔から、さっと血の気が引いていく。
「なっ……お姉様が、カイル様の……?」
「そうだと言ったら?」
カイルは、私の肩を優しく抱き寄せると、突然ぐっと自分の方へ引き寄せた。その瞬間、彼の腕の中に包まれると、思わず深呼吸をしてしまうほど驚くほど安心感が広がった。彼の温かな体温と力強い腕に支えられ、全ての不安や緊張が消え去ったような気がした。
彼の存在が、何もかも忘れさせてくれるような、そんな心地よい感覚が広がっていく。これから先、どんな困難が待ち受けていても、この腕の中なら何も怖くないと感じさせてくれた。
「くだらないことで、こいつを煩わせるな。フレックス、次はないぞ」
精神的に追い詰めるような声が響いた。その声には、圧倒的な力強さと冷徹さが込められていて、フレックスはその言葉に反応し、完全に怯えた様子を見せた。顔面が蒼白になり、視線を逸らすことすらできない。カイルは、そんな彼に冷たく視線を向けるだけだった。
その眼差しには、言葉すら必要ないような威圧感があった。そして、私をしっかりと抱き寄せたまま、彼は一切の躊躇もなくその場を去っていった。周囲の空気が重く静まり返る中で、私はその腕の中に包まれたまま動けなくなった。
「……あ、ありがとう」
「気にするな」
「でも、みんな見てた……」
「ちょうどいい。牽制になっただろ」
彼は、何事もなかったかのように悪びれもせずに言う。しかし、そんな彼の言葉には、少しだけ胸が温かくなる感覚があった。なぜなら、彼が私を守ってくれたことが、心のどこかで嬉しかったからだ。
公衆の面前で、あの堂々とした声で俺の女だと宣言してくれたことも、実は彼と親密だと彼に思いを寄せる令嬢たちに知られたくはないけれど、心の中で密かに喜びを感じていた。
その夜、カイルは剣の訓練でフレックスを完膚なきまでに叩きのめしたらしい。もちろん、あくまで『訓練』として。彼の手加減など少しもなく、その剣の一振り一振りがフレックスに与える痛みと恥を重ねていったことだろう。
次の日、学園でフレックスと目が合った瞬間、彼は私から逃げるように目を逸らしていた。その姿を見たとき、少しだけ胸がすっとした。これで少しは彼が私に対して、妹と一緒に無礼な態度を取ることもなくなるのだろうと思うと心が軽くなった。
カイルなりの不器用な復讐。その私を守るその行動が、たまらなく愛おしく感じた。
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