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第41話
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私たちの世界が、新しい色で輝き始めた。その一方で、音を立てて崩壊していく世界もあった。
フレックスとユリアの世界だ。事件のきっかけは、フレックスの莫大な借金だった。ユリアの、際限のない散財を支えるために、彼は手を出してはいけない所に手を出していた。その事実が、ある日、王宮に押しかけてきた柄の悪い金融業者によって、国王夫妻の知るところとなったのだ。
国王の雷が落ちた。
「フレックス! 貴様、これは、どういうことだ! 説明しろ!」
父親である国王の激しい怒号が飛ぶ。
「王家の人間が、このような得体の知れない輩から借金をするなど! 我が家の名を、どれだけ汚せば気が済むのだ!」
フレックスは、顔が真っ白になり、震えが止まらなかった。
「一体、何に、これほどの金を使ったのだ!」
問い詰められ、追い詰められたフレックスは、ついに白状した。ユリアの名前を出した。すぐに、ユリアは王宮に呼び出された。
「ユリア嬢。君の、その身を飾る宝石やドレスは、全て我が息子の汚れた金で買われたものだということか」
国王の冷たい声に、ユリアも言葉を失う。
「あなたのような虚栄心の塊の娘を、息子の婚約者として認めた我々も愚かだった」
王妃は、美しい顔を歪ませて怒りに満ちた眼差しで二人を責め立てた。
その夜、王宮の一室でフレックスとユリアは、醜い責任のなすりつけ合いを始めた。
「全部、君のせいだ! 君が、あれもこれもと、ねだるから!」
「なんですって! それを買ってくれたのは、あなたでしょう!」
「君さえいなければ、僕の人生は……」
「それは、こっちのセリフよ! 甲斐性のない男ですこと!」
罵り合いが続いていたその時、静かな音を立てて部屋のドアが開いた。ドアの向こうに立っていたのはカイルだった。彼は軽蔑しきった目で二人を見下ろした。
「……みっともないな」
「兄上……」
「フレックス。お前のことは、もう弟だとは思わん。お前は、王家の恥だ。二度と俺の前に、その顔を見せるな」
その言葉は、どんな激しい罵倒よりも無慈悲で重く、フレックスの心を深く打ちのめした。兄弟の絆が、完全に断ち切られた瞬間だった。
そして、全てを失ったユリアは、最後の悪あがきに出た。彼女は、カイルが一人でいるところを見計らって廊下で行く手を塞いだ。
「カイル様……」
潤んだ瞳で上目遣いに彼を見上げる。彼女の得意の武器だ。
「わたくし、フレックス様とは、もうダメになってしまいましたの。でも、わたくし、ずっと、カイル様のことをお慕いしておりました。わたくしを、あなた様のお側に、置いていただけませんでしょうか……?」
その哀れな芝居に、カイルは心底うんざりしたという顔をした。彼は、虫けらでも見るような冷たい目でユリアを見下ろすと、はっきりと言い放った。
「悪いが、お前は昔から、全くタイプじゃない」
ユリアの顔が凍りつく。
「俺が愛しているのは、お前のような虚飾と嘘で塗り固められた中身のない人形じゃない。エリーゼだ。昔も、今も、これからも永遠に」
それは、何の情も込められていない無情な事実の羅列。だからこそ、それはどんな凶器よりも鋭く、ユリアのプライドを引き裂いていった。
「そ、そんな……」
ユリアは、その場に、へなへなと泣き崩れた。
フレックスとユリアの世界だ。事件のきっかけは、フレックスの莫大な借金だった。ユリアの、際限のない散財を支えるために、彼は手を出してはいけない所に手を出していた。その事実が、ある日、王宮に押しかけてきた柄の悪い金融業者によって、国王夫妻の知るところとなったのだ。
国王の雷が落ちた。
「フレックス! 貴様、これは、どういうことだ! 説明しろ!」
父親である国王の激しい怒号が飛ぶ。
「王家の人間が、このような得体の知れない輩から借金をするなど! 我が家の名を、どれだけ汚せば気が済むのだ!」
フレックスは、顔が真っ白になり、震えが止まらなかった。
「一体、何に、これほどの金を使ったのだ!」
問い詰められ、追い詰められたフレックスは、ついに白状した。ユリアの名前を出した。すぐに、ユリアは王宮に呼び出された。
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国王の冷たい声に、ユリアも言葉を失う。
「あなたのような虚栄心の塊の娘を、息子の婚約者として認めた我々も愚かだった」
王妃は、美しい顔を歪ませて怒りに満ちた眼差しで二人を責め立てた。
その夜、王宮の一室でフレックスとユリアは、醜い責任のなすりつけ合いを始めた。
「全部、君のせいだ! 君が、あれもこれもと、ねだるから!」
「なんですって! それを買ってくれたのは、あなたでしょう!」
「君さえいなければ、僕の人生は……」
「それは、こっちのセリフよ! 甲斐性のない男ですこと!」
罵り合いが続いていたその時、静かな音を立てて部屋のドアが開いた。ドアの向こうに立っていたのはカイルだった。彼は軽蔑しきった目で二人を見下ろした。
「……みっともないな」
「兄上……」
「フレックス。お前のことは、もう弟だとは思わん。お前は、王家の恥だ。二度と俺の前に、その顔を見せるな」
その言葉は、どんな激しい罵倒よりも無慈悲で重く、フレックスの心を深く打ちのめした。兄弟の絆が、完全に断ち切られた瞬間だった。
そして、全てを失ったユリアは、最後の悪あがきに出た。彼女は、カイルが一人でいるところを見計らって廊下で行く手を塞いだ。
「カイル様……」
潤んだ瞳で上目遣いに彼を見上げる。彼女の得意の武器だ。
「わたくし、フレックス様とは、もうダメになってしまいましたの。でも、わたくし、ずっと、カイル様のことをお慕いしておりました。わたくしを、あなた様のお側に、置いていただけませんでしょうか……?」
その哀れな芝居に、カイルは心底うんざりしたという顔をした。彼は、虫けらでも見るような冷たい目でユリアを見下ろすと、はっきりと言い放った。
「悪いが、お前は昔から、全くタイプじゃない」
ユリアの顔が凍りつく。
「俺が愛しているのは、お前のような虚飾と嘘で塗り固められた中身のない人形じゃない。エリーゼだ。昔も、今も、これからも永遠に」
それは、何の情も込められていない無情な事実の羅列。だからこそ、それはどんな凶器よりも鋭く、ユリアのプライドを引き裂いていった。
「そ、そんな……」
ユリアは、その場に、へなへなと泣き崩れた。
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