2 / 8
第2話
しおりを挟む
「ここで暮らしてるんだね」
「はい」
「けっこう散らかってる。掃除してるの?」
「時々してます」
「シンプルだけどいい部屋だね」
「そうですかね、家と違って使用人もいないので飾り気のない部屋にしたんですよ」
心がくすぐられたヴィオラは眼の届くまで部屋中をキョロキョロ見回しながら部屋の匂いをかいだ。
多少片付いていない事を指摘していたずらっぽく思わせぶりな視線で見るとハリーにとっては悪魔じみた誘惑で気持ちが揺れる。
メイドもいない一人暮らしをしているハリーのような学生はそれなりに多く掃除も面倒なので控えめな部屋に決めたと話す。
「お腹減らない?」
「そうだね」
「これ一緒に食べよ」
前触れなくヴィオラがお腹が減らないと言うとハリーも同意するように頷く。ヴィオラの手には大きな風呂敷に包まれた弁当を持っていて給仕係に用意してもらっていた。
今日は学園は休みで一緒にお昼を食べようとハリーの家に訪れたのです。食事は舌も喉もとろける美味しさで空腹の胃に染み渡り彼の顔は満足そうでヴィオラも晴れやかな笑顔になり心に充実感がみなぎる。
「お姉さんとご飯が食べれて嬉しいな」
「え……?」
甘い顔立ちのハリーは異性を惹きつけるかわいらしさがあり、思いがけない言葉にすぐに返事ができないヴィオラは戸惑いながらも胸の中に喜びの花が咲く。
「どうしたの?」
「なんでもないよ。いきなりそんなこと言われて驚いた…それに」
「それに?」
「そのお姉さんていう呼び方もまだ慣れなくて照れくさい感じがして」
「でも間もなく結婚して身内になるからね。今から慣れとかないと」
「うん」
無邪気な顔で質問をしてくるハリーにヴィオラは気恥ずかしい思いになり少しばかりはしゃいだ声を出す。お姉さんという呼ばれ方も少しはにかんだような表情を見せながら答える。
彼は息がかかりそうな距離に近づいてきて、あどけない笑顔でそのうち息を吸うように身について来ると返されるとつい口元がほころぶ。
「ちょっと、え?なに?」
「こうすると落ち着くよ」
突然肩に手を置かれてそのまま彼の胸に引き寄せられ頬が心臓の上につく。かなり動揺するヴィオラだがハリーにやましい気持ちは全くない。
学園ではスポーツ系のクラブ活動をしていて妙な触れ合いがあり試合前にこのように仲間内で抱き合って心臓の音を聞くと気持ちが鎮静するのだ。
最初は激しい鼓動を打っていた彼女のハートは徐々に緩やかになる。心の中心から体全体に広がってほのぼのとした表情になり安らぎに浸かっていた。
「はい」
「けっこう散らかってる。掃除してるの?」
「時々してます」
「シンプルだけどいい部屋だね」
「そうですかね、家と違って使用人もいないので飾り気のない部屋にしたんですよ」
心がくすぐられたヴィオラは眼の届くまで部屋中をキョロキョロ見回しながら部屋の匂いをかいだ。
多少片付いていない事を指摘していたずらっぽく思わせぶりな視線で見るとハリーにとっては悪魔じみた誘惑で気持ちが揺れる。
メイドもいない一人暮らしをしているハリーのような学生はそれなりに多く掃除も面倒なので控えめな部屋に決めたと話す。
「お腹減らない?」
「そうだね」
「これ一緒に食べよ」
前触れなくヴィオラがお腹が減らないと言うとハリーも同意するように頷く。ヴィオラの手には大きな風呂敷に包まれた弁当を持っていて給仕係に用意してもらっていた。
今日は学園は休みで一緒にお昼を食べようとハリーの家に訪れたのです。食事は舌も喉もとろける美味しさで空腹の胃に染み渡り彼の顔は満足そうでヴィオラも晴れやかな笑顔になり心に充実感がみなぎる。
「お姉さんとご飯が食べれて嬉しいな」
「え……?」
甘い顔立ちのハリーは異性を惹きつけるかわいらしさがあり、思いがけない言葉にすぐに返事ができないヴィオラは戸惑いながらも胸の中に喜びの花が咲く。
「どうしたの?」
「なんでもないよ。いきなりそんなこと言われて驚いた…それに」
「それに?」
「そのお姉さんていう呼び方もまだ慣れなくて照れくさい感じがして」
「でも間もなく結婚して身内になるからね。今から慣れとかないと」
「うん」
無邪気な顔で質問をしてくるハリーにヴィオラは気恥ずかしい思いになり少しばかりはしゃいだ声を出す。お姉さんという呼ばれ方も少しはにかんだような表情を見せながら答える。
彼は息がかかりそうな距離に近づいてきて、あどけない笑顔でそのうち息を吸うように身について来ると返されるとつい口元がほころぶ。
「ちょっと、え?なに?」
「こうすると落ち着くよ」
突然肩に手を置かれてそのまま彼の胸に引き寄せられ頬が心臓の上につく。かなり動揺するヴィオラだがハリーにやましい気持ちは全くない。
学園ではスポーツ系のクラブ活動をしていて妙な触れ合いがあり試合前にこのように仲間内で抱き合って心臓の音を聞くと気持ちが鎮静するのだ。
最初は激しい鼓動を打っていた彼女のハートは徐々に緩やかになる。心の中心から体全体に広がってほのぼのとした表情になり安らぎに浸かっていた。
12
あなたにおすすめの小説
その言葉、今さらですか?あなたが落ちぶれても、もう助けてあげる理由はありません
reva
恋愛
「君は、地味すぎるんだ」――そう言って、辺境伯子息の婚約者はわたしを捨てた。
彼が選んだのは、華やかで社交界の華と謳われる侯爵令嬢。
絶望の淵にいたわたしは、道で倒れていた旅人を助ける。
彼の正体は、なんと隣国の皇帝だった。
「君の優しさに心を奪われた」優しく微笑む彼に求婚され、わたしは皇妃として新たな人生を歩み始める。
一方、元婚約者は選んだ姫に裏切られ、すべてを失う。
助けを乞う彼に、わたしは冷たく言い放つ。
「あなたを助ける義理はありません」。
婚約破棄が私を笑顔にした
夜月翠雨
恋愛
「カトリーヌ・シャロン! 本日をもって婚約を破棄する!」
学園の教室で婚約者であるフランシスの滑稽な姿にカトリーヌは笑いをこらえるので必死だった。
そこに聖女であるアメリアがやってくる。
フランシスの瞳は彼女に釘付けだった。
彼女と出会ったことでカトリーヌの運命は大きく変わってしまう。
短編を小分けにして投稿しています。よろしくお願いします。
事故で記憶喪失になったら、婚約者に「僕が好きだったのは、こんな陰気な女じゃない」と言われました。その後、記憶が戻った私は……【完結】
小平ニコ
恋愛
エリザベラはある日、事故で記憶を失った。
婚約者であるバーナルドは、最初は優しく接してくれていたが、いつまでたっても記憶が戻らないエリザベラに対し、次第に苛立ちを募らせ、つらく当たるようになる。
そのため、エリザベラはふさぎ込み、一時は死にたいとすら思うが、担当医のダンストン先生に励まされ、『記憶を取り戻すためのセラピー』を受けることで、少しずつ昔のことを思いだしていく。
そしてとうとう、エリザベラの記憶は、完全に元に戻った。
すっかり疎遠になっていたバーナルドは、『やっと元のエリザベラに戻った!』と、喜び勇んでエリザベラの元に駆けつけるが、エリザベラは記憶のない時に、バーナルドにつらく当たられたことを、忘れていなかった……
『婚約破棄はご自由に。──では、あなた方の“嘘”をすべて暴くまで、私は学園で優雅に過ごさせていただきます』
佐伯かなた
恋愛
卒業後の社交界の場で、フォーリア・レーズワースは一方的に婚約破棄を宣告された。
理由は伯爵令嬢リリシアを“旧西校舎の階段から突き落とした”という虚偽の罪。
すでに場は整えられ、誰もが彼女を断罪するために招かれ、驚いた姿を演じていた──最初から結果だけが決まっている出来レース。
家名にも傷がつき、貴族社会からは牽制を受けるが、フォーリアは怯むことなく、王国の中央都市に存在する全寮制のコンバシオ学園へ。
しかし、そこでは婚約破棄の噂すら曖昧にぼかされ、国外から来た生徒は興味を向けるだけで侮蔑の視線はない。
──情報が統制されている? 彼らは、何を隠したいの?
静かに観察する中で、フォーリアは気づく。
“婚約破棄を急いで既成事実にしたかった誰か”が必ずいると。
歪んだ陰謀の糸は、学園の中にも外にも伸びていた。
そしてフォーリアは決意する。
あなた方が“嘘”を事実にしたいのなら──私は“真実”で全てを焼き払う、と。
【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい
三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。
そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。
最後に一つだけ。あなたの未来を壊す方法を教えてあげる
椿谷あずる
恋愛
婚約者カインの口から、一方的に別れを告げられたルーミア。
その隣では、彼が庇う女、アメリが怯える素振りを見せながら、こっそりと勝者の微笑みを浮かべていた。
──ああ、なるほど。私は、最初から負ける役だったのね。
全てを悟ったルーミアは、静かに微笑み、淡々と婚約破棄を受け入れる。
だが、その背中を向ける間際、彼女はふと立ち止まり、振り返った。
「……ねえ、最後に一つだけ。教えてあげるわ」
その一言が、すべての運命を覆すとも知らずに。
裏切られた彼女は、微笑みながらすべてを奪い返す──これは、華麗なる逆転劇の始まり。
【26話完結】日照りだから帰ってこい?泣きつかれても、貴方のために流す涙はございません。婚約破棄された私は砂漠の王と結婚します。
西東友一
恋愛
「やっぱり、お前といると辛気臭くなるから婚約破棄な?あと、お前がいると雨ばっかで気が滅入るからこの国から出てってくんない?」
雨乞いの巫女で、涙と共に雨を降らせる能力があると言われている主人公のミシェルは、緑豊かな国エバーガーデニアの王子ジェイドにそう言われて、婚約破棄されてしまう。大人しい彼女はそのままジェイドの言葉を受け入れて一人涙を流していた。
するとその日に滝のような雨がエバーガーデニアに降り続いた。そんな雨の中、ミシェルが泣いていると、一人の男がハンカチを渡してくれた。
ミシェルはその男マハラジャと共に砂漠の国ガラハラを目指すことに決めた。
すると、不思議なことにエバーガーデニアの雨雲に異変が・・・
ミシェルの運命は?エバーガーデニアとガラハラはどうなっていくのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる