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第2話

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「オリビア!待ってくれ!」

誰が倒れているのか頭の中で分かったアルフィは腹の底から声を出す。

「オリビアお姉様!?」

寝ぼけていたエリーも焦りが背筋を走り、夢からさめた表情で姉の名前を口にする。

彼と妹の呼びかけは間違いなくオリビアの耳に届いていますが、無視して立ち上がりして悩み悲しみが混じった顔で早足に去る。風の如くアルフィはベッドから飛び出して来る。

アルフィはこの世に生まれたままのすっぽんぽんの状態で真剣な目つきで駆け寄る。

「触らないで!」
「待ってくれ!これは誤解だ!」
「言い訳は聞きたくない!」

裸で追いかけてきたアルフィはオリビアの腕を掴む。オリビアは力いっぱいはげしく叫び夢中で手を振りほどいた。特に意識せずに幻想的に輝くガラス細工を手に取るとアルフィにぶつけた。

「あぅ!」

運が悪いことに、鳥の形のガラス細工はアルフィの股間の最も大事な箇所にヒットした。思わず苦痛の声を上げて下腹部を手で押さえ気の毒に思うほど痛みに耐えている。

「お姉様……」

争うような声や物音にベッドの上にいるエリーは、自分の体を抱くようにしてブルブルと震えている。

オリビアは部屋の外に飛び出し、涙を流しながら歯を食いしばって駆け出した。アルフィは両ひざをついて痛みをこらえるので精一杯。

「アルフィ……あなた何してるの?お姉様は?」
「違うんだよ。あそこに当たって……痛くて動けないんだ」
「はぁ?」

彼のみっともない姿に、エリーはわけのわからない憤りが胸の奥にわいて不機嫌に眉をしかめた。


オリビアは友人の家に避難していた。現在は高鳴る心臓の響きを落ち着かせている。誰かに追われているような余裕のない顔でやって来た。部屋から近いことを思い出し、親友にすがろうとする切羽詰った想いでした。

「オリビア大丈夫?ゆっくりと話してくれたらいいから」

男爵令嬢のシエナがオリビアの気持ちを思いやる。親友の言葉に思わず泣きそうになります。心の不安は緩やかに鎮静していく。

アルフィ殿下とは婚約していた。今は気持ちがすれ違っていたけど、記憶を探ると彼の嬉しそうに輝く屈託の無い笑顔に切ない思いに駆られる。

まさか信頼していた妹と彼が一つに溶け合っていたなんて体の芯まで血の気が引く。本当にショックで悲しすぎます。
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