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第10話

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「大丈夫かいオリビア。もう泣かないでくれよ……」
「……」
「君がそんなに怖がっていたことを気がつかなかった。許してほしい……気が済むまで殴ってくれて構わないからね」
「……」
「僕は本当に自分が情けない……泣いている君の心を癒せないなんて……恋人失格だな」
「……はぁ?」
「どうしたオリビア?急に調子はずれの声を出して?」

オリビアは声を出さずに静かに泣いている。 この前の出来事は彼女の中ではトラウマに等しい悲しみの記憶。その恐怖の体験を彼は遊び半分で行ったのです。

大いに反省させられたアルフィは、オリビアの心の内を理解するように気遣って大事にする一面を見せていた。しかし精神的な苦しみは深く彼女は簡単に泣き止まない。

彼は自分が全て悪いことを認めている。だが淋しげに肩を震わせて泣いている彼女に、どうすることもできずに困り果てて無力感に打ちひしがれていた。

ところが、泣いていたオリビアはアルフィのある言葉に、思わず腹を立てたかのような場にそぐわない声を上げる。

「殿下、今なんとおっしゃいましたか?」
「えっ?……泣いているオリビアを慰められない自分が情けないって言ったのだが?それがなにか?」

項垂れるように顔を伏せて手で覆いすすり泣いていたオリビアは、アルフィに辛らつな視線を向けて素っ気ない口調で非難の意思表示をした。

さっきまで消え入りそうな声で泣いていたのに、突然スイッチが入ったように変貌して、今にも叱り飛ばす表情になり鋭い目つきで睨んでいる。

なんで彼女は怖い目をして自分を睨んでいるのか?彼は皆目見当がつかなくて前触れなく、迷宮に放り込まれたみたいに脳細胞がパニック状態に陥った。

ただ、自分に対して想像以上に怒っていることは、彼女の可愛く美しい顔が鬼のように怖く変化したのを見れば一目瞭然であろう。

「その後です!」
「君のボーイフレンドとして失格だなって……」
「殿下、私といつ復縁したのですか?」
「え!!」

不安が顔にくっついている様子の王子は、オリビアに急かされるまま、自分の発言した言葉を確認するように振り返る。

彼はまだ彼女が怒っている理由が欠片も分からなくて、真っ青になり手がみっともなく震え、悩みが膨れるばかりで心臓が破裂しそうでした。

すると迷いが消えた顔をしたオリビアが澄んだ美声で核心をついた。ん?自分は彼女の恋人として失格……。

オリビアからしたら、話し合いのどの場面でアルフィと元の恋人関係に戻ったのか訳が分からない。しかし彼女の予想に反して、彼はさらに驚いて頭に一撃食らった気持ちになる。
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