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第一幕 江戸にイこう!
第十三話 打ち首待ったなし!
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「え――?」
唐突すぎて事情が呑み込めなかった。それは周りにいた者たちも動きを捕らえることは同じだったらしい。見守る全員がハッと息をのめば、凍りついたように微動だにしないのが四方八方、目がなくても感じてくる。
恐ろしく速い日本刀捌き。衣でつっかえることもなければ、無駄な動きもなく、刃の中心部は美しいカーブを描きながら反っては先端を首の皮に当たるか当たらないかスレスレでストップ。これだけでもう十分伝わる、刀の扱いなんて朝飯前であって、何人もの首を斬っていると。
皮肉なことにこのときの刃分の波模様はこの上なく麗しく、こんな最悪の場面でなければ、じっくりと芸術鑑賞をしたいほど。
刀を、向けられている。夢じゃない、ドラマじゃない、現実で起こっているんだ。
背けたくて仕方のない現実が実際に起こっていると理解できたのは、刃を突き立てられて一分半のことだった。鼓動の音はもう聞こえない。大きすぎて、ではない。もう己の身に構っていられるほど冷静ではなくなった。知らぬ間に大量の冷や汗が涙のように下へ滴り落ちて、
「なんですか……これ……」
理由を尋ねるのでいっぱいっぱい。
嫌だ、死にたくない。まだ生きていたい。本当は、この三つのワードを泣きわめきながら拒みたい。けれどそうはいけない。この状態からいつ何時、刀が皮膚にサクッと切り込みられるのか分からないのだ。
「我が城を脅かす流れ者だと判断した。ただそれだけだ」
質問に対し、殿様は迷うことなく言い切った。
「そう、ですか……」
そっか、俺ここで死ぬのか。まあ、考えなくとも江戸時代側の人からしたらそうだよな。罪人だと前に転がされて、すぐに打ち首にせず、ちゃんと理由を聞いてくれた殿様はまだ殿様の中ででも優しい方だったんじゃないかって今になってそう思えてきた。だったら、機転が利かないこの頭の悪さが全部原因だ。家族も、知り合いも、帰る家も、江戸を生き抜く力すらないのだったらもう――死んでもいい。
「ご迷惑をおかけして、申し訳ございませんでした」
こんなことになるなら、ちゃんと就職して親孝行をして、友達とも遊んで、彼女も一度くらい作ってデートして、それでエロいイラストをもっと描いて、もっとネットに上げて、いろんな人のリクエストも描き上げて……最期だってのに走馬燈どころか理想の人生の映像ばかり流れていく。こんなときだってのに、俺ってバカは……本当にバカだ。
あれほど強く生きたいと望んでいた意思はもうどこにも残っておらず、絶望へと変わってしまった。一直線に額を地にゴツンと鈍い音を立てて、せめて斬る場面を瞳に映したくはない、人生で最期の悪足掻き。でもその下では、声を押し殺して、泣いていた。
「うむ、潔い」
刀を持ち直す仕草の音がわずかに聞こえた。残りわずかな時間を不満足ながら安定した気分で迎えようと、こぼしていた涙をとめ、歯を食いしばって覚悟を決めた。誰もが後は俺の公開処刑を見届けるのみだと思っていた。
ところがどっこい、
「お待ちなさい!」
聞きなれた可愛らしい脳みそがとろけそうな可憐な声が全体に轟いた。その正体は、言うまでもない。千代姫だった。
俺は即座に突っ伏した顔を上げて、千代姫に目を向けると不思議なことに松の木の上からのご登場。どこから逃げてきたのか息は上がって、髪は少しアホ毛が飛び出て乱れがあり、着物にもチラホラと泥がついていた。
正義のヒーローは遅れてくる的な感じの現れ方。昨日とのギャップがあまりにも大きく、お転婆ってレベルを軽く超えている。
唐突すぎて事情が呑み込めなかった。それは周りにいた者たちも動きを捕らえることは同じだったらしい。見守る全員がハッと息をのめば、凍りついたように微動だにしないのが四方八方、目がなくても感じてくる。
恐ろしく速い日本刀捌き。衣でつっかえることもなければ、無駄な動きもなく、刃の中心部は美しいカーブを描きながら反っては先端を首の皮に当たるか当たらないかスレスレでストップ。これだけでもう十分伝わる、刀の扱いなんて朝飯前であって、何人もの首を斬っていると。
皮肉なことにこのときの刃分の波模様はこの上なく麗しく、こんな最悪の場面でなければ、じっくりと芸術鑑賞をしたいほど。
刀を、向けられている。夢じゃない、ドラマじゃない、現実で起こっているんだ。
背けたくて仕方のない現実が実際に起こっていると理解できたのは、刃を突き立てられて一分半のことだった。鼓動の音はもう聞こえない。大きすぎて、ではない。もう己の身に構っていられるほど冷静ではなくなった。知らぬ間に大量の冷や汗が涙のように下へ滴り落ちて、
「なんですか……これ……」
理由を尋ねるのでいっぱいっぱい。
嫌だ、死にたくない。まだ生きていたい。本当は、この三つのワードを泣きわめきながら拒みたい。けれどそうはいけない。この状態からいつ何時、刀が皮膚にサクッと切り込みられるのか分からないのだ。
「我が城を脅かす流れ者だと判断した。ただそれだけだ」
質問に対し、殿様は迷うことなく言い切った。
「そう、ですか……」
そっか、俺ここで死ぬのか。まあ、考えなくとも江戸時代側の人からしたらそうだよな。罪人だと前に転がされて、すぐに打ち首にせず、ちゃんと理由を聞いてくれた殿様はまだ殿様の中ででも優しい方だったんじゃないかって今になってそう思えてきた。だったら、機転が利かないこの頭の悪さが全部原因だ。家族も、知り合いも、帰る家も、江戸を生き抜く力すらないのだったらもう――死んでもいい。
「ご迷惑をおかけして、申し訳ございませんでした」
こんなことになるなら、ちゃんと就職して親孝行をして、友達とも遊んで、彼女も一度くらい作ってデートして、それでエロいイラストをもっと描いて、もっとネットに上げて、いろんな人のリクエストも描き上げて……最期だってのに走馬燈どころか理想の人生の映像ばかり流れていく。こんなときだってのに、俺ってバカは……本当にバカだ。
あれほど強く生きたいと望んでいた意思はもうどこにも残っておらず、絶望へと変わってしまった。一直線に額を地にゴツンと鈍い音を立てて、せめて斬る場面を瞳に映したくはない、人生で最期の悪足掻き。でもその下では、声を押し殺して、泣いていた。
「うむ、潔い」
刀を持ち直す仕草の音がわずかに聞こえた。残りわずかな時間を不満足ながら安定した気分で迎えようと、こぼしていた涙をとめ、歯を食いしばって覚悟を決めた。誰もが後は俺の公開処刑を見届けるのみだと思っていた。
ところがどっこい、
「お待ちなさい!」
聞きなれた可愛らしい脳みそがとろけそうな可憐な声が全体に轟いた。その正体は、言うまでもない。千代姫だった。
俺は即座に突っ伏した顔を上げて、千代姫に目を向けると不思議なことに松の木の上からのご登場。どこから逃げてきたのか息は上がって、髪は少しアホ毛が飛び出て乱れがあり、着物にもチラホラと泥がついていた。
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