エロ絵師、江戸に飛ばされて春画描くってよ。

マンボウ

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第二幕 江戸の生活をシよう!

第三十二話 絵師の名は。

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 あんなにきつい性格でひどく俺を嫌っていたミツが、性感帯を刺激されては破廉恥で、あられもない好色を発光させている。本来ならば一刻も早く筆を持って春画を描かなければならない。ならないというのに、下半身に右手が伸びていく。

 なにをしているんだ! こんなことをしとる場合か! 俺の中にいる天使が舞い降りては、別にいいだろ減るもんじゃねぇよ! 写生ならぬ射精だって誤魔化せばいいんだよ! なんて囁く悪魔がレディー……ファイッ! 

「うう、ウジ虫……もう無理だ……股が……」

 やめろミツ、そんなウルウルとした色っぽい目で見るんじゃない!

 天使と悪魔の決着は未だつかない。心臓が爆発しそうなほど膨張していき、ぐるんぐるんと眩暈までしてくる。だけど指は一張羅の中へ入り込んでいく。これはもう……悪魔、という名の性欲が……っ、勝ってしまう……っ! 助けを求める生身の女の子を前にやるなんて人として、男として、いろんな意味で、どうなんだ!

 体中の巡りに血管がちぎれそうな力を与え、最後の最後まで悪魔に逆らっていれば、ヒュンと千代姫のにっこりとした顔が不意に閃いた。奇妙なことに性欲に負けそうな俺に頑張ってくださいとエールを送っているのだと解釈すれば悪魔が闇の炎に抱かれたかのように消滅。

「そうだ。俺は令和のエロ絵師、藤山スグル! 俺が握るのは肉棒じゃねぇ! この筆だ!」

 ありがとう、千代姫。覚醒した。家が吹っ飛ぶほどの大きな声を出しては筆を強く握りしめる。半紙とにらめっこなんてもうおしまいだ。描くんだ、春画を、緊縛を――!

 高ぶっていた性欲は全部描きたい欲へと変換された。ミツの身動きできずに感じている様を穴が空くほど見つめて右手が高速スピードで半紙の上を滑る。肌に吸い付く汗は小筆、感じているオーラは太い筆、顔の細かなシワは中くらいの筆で強弱をつけて自分がこれだと感じたものをサラサラと映していく。ときには被縛者へ問いかけも大事。

「なあ、見られている感想はどうだ?」

「ふざ、けるなっ! 早く私を起こせ!」

「おっ、いいね~! 今の顔つきで『くっ、殺せ』って言ってくれね?」

「あとで絶対に殺してやるウジ虫! くうっ、声を出したら余計に縄が食い込んで……っ、ひい……っ」

「悪い。しばらく集中すっから」

 ピクピクと小刻みに振動する太ももを擦り合わせながら抜け道のない絶頂を味わっているミツを放置して春画を完成させることを優先した。関係のない視界、聴覚はシャットアウト。思いのままエロを描いているとき、無意識に自分が笑っていることに気づいたのと、現代にいた頃の記憶が蘇った。

 楽しい、楽しい、楽しい。エネルギー? 幸福感? 大地から伝わってくるようなみなぎるパワーが伝わる。まとめれば、エロを描くこの瞬間がめちゃくちゃ大好きだ――!

 狭苦しい密室で男女がそれぞれの思いを感じた、世界でいちばん長い夜がひっそりと明けていく。
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