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君の名前は?
つかみどころの無い六年生(1)
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千錦寮開放はつつがなく終わり、早希達の軽食コーナーも概ね好評で、あてにしていた残り物が出ずに、全品完売になった。残ったら皆で食べようと言っていた料理の数々が一つも残らず、責任を感じたのか、早希が宅配ピザをとってくれた。
「やっぱり悪いですよ、割り勘にしませんか」
志信と和美が言ったが、出ないと思っていた利益が出てしまったので、おすそ分け、という事だった。
納涼祭の時にも、また何かやるから、その時はお客として来てね、と、早希は笑っていた。
納涼祭というのは、夏休みに入る前に寮内で行う暑気払い、というか、その名の通り夏祭りらしい。今行っている新歓イベント同様、実行委員がたち、出店や企画が開催されるそうだ。(そして、その時は保健所に申請もするらしい)
そして、翌日、話題にあがった例の真尋さんの元へ行くべく、志信と和美はスタンプ帳を手に、一刻寮へ向かう為、ロビーをてくてくと歩いていた。前回の反省を活かし、鍵が必要の無い早めの時間を心がけ、午後一の、まだ明るい時間帯だ。
千錦寮は今日も開放日だが、そちらは、早希と佳織が部屋にいるので、今日は二人は一刻寮を周る事にさせてもらった。
二人は、いきなり本丸、というか、目的地というか、ラスボスへ向かわず、まず、ジョージ達の部屋へ行った。ジョージは、他の部屋へ行っているという事で不在だったが、同室の上級生である馬橋慎吾(まはししんご)が在室していた。
慎吾は、志信の事を覚えていた。
「ジョージのあの格好ちゃんと見たのは、もう、あの入寮手続きのメンツと佳雅丸さんだけだな」
慎吾は、佳雅丸のように、何か勝負をもちかけるでなく、読書していた手を止めて、あっさりスタンプを捺してくれた。慎吾が読んでいたのは、先月発売されたミステリだった。
志信が興味ありそうな様子を見せると、慎吾が言った。
「読みたかったら貸すよ? っても、俺の後にあと三人くらいいるけど」
貧乏学生が多い寮内は、本の回し読みが多いという事に、最近志信は気づいた。先日の佳雅丸の部屋にあった本棚も、近隣の住人が入れ替わり立ち替わり本を借りて行くようだし、千錦寮の図書自習室の方にも、卒業した先輩が代々残していったという古いベストセラー本などが残っている。
既に志信も和美も、そこから数冊借りて読んでいた。
空いたらジョージに言うから、と、慎吾は志信の連絡先を聞いたりはしなかった。
そして、真尋の部屋へ行くのだと言うと、慎吾はうれしそうにして言った。
「へえ! 真尋さんとこに行くんだ、いいと思うよ、あの人、ああ見えて話好きだし、来るものは拒まずの人だから」
そして、続けた。
「ただ、ちょーーーっと見た目の印象から、人から距離を置かれる可能性が高いんだけどねえ」
ぱっと見の印象はとっつきにくいかもしれないけど、とって食ったりはしないから、と、慎吾は言い、しかし、まあ、がんばって、と、送り出された。
真尋さん、こと、鶴来真尋の部屋は、佳雅丸と違って、外観からして目立つような扉では無かった。
冊子に描かれていた絵から見るに、さぞかし部屋の方も凝っているのだろうと思って来た志信と和美は、少しばかり意外に感じて、少しばかり逡巡した。
部屋に間違いが無いか確認もした。
233号室。
間違っていない。
和美が、無言で、志信を見て、ノックするそぶりをした。
志信が頷くのを確認してから、和美が軽く二回、ノックをすると、短く、
「どうぞ」
と、答えがあった。
「やっぱり悪いですよ、割り勘にしませんか」
志信と和美が言ったが、出ないと思っていた利益が出てしまったので、おすそ分け、という事だった。
納涼祭の時にも、また何かやるから、その時はお客として来てね、と、早希は笑っていた。
納涼祭というのは、夏休みに入る前に寮内で行う暑気払い、というか、その名の通り夏祭りらしい。今行っている新歓イベント同様、実行委員がたち、出店や企画が開催されるそうだ。(そして、その時は保健所に申請もするらしい)
そして、翌日、話題にあがった例の真尋さんの元へ行くべく、志信と和美はスタンプ帳を手に、一刻寮へ向かう為、ロビーをてくてくと歩いていた。前回の反省を活かし、鍵が必要の無い早めの時間を心がけ、午後一の、まだ明るい時間帯だ。
千錦寮は今日も開放日だが、そちらは、早希と佳織が部屋にいるので、今日は二人は一刻寮を周る事にさせてもらった。
二人は、いきなり本丸、というか、目的地というか、ラスボスへ向かわず、まず、ジョージ達の部屋へ行った。ジョージは、他の部屋へ行っているという事で不在だったが、同室の上級生である馬橋慎吾(まはししんご)が在室していた。
慎吾は、志信の事を覚えていた。
「ジョージのあの格好ちゃんと見たのは、もう、あの入寮手続きのメンツと佳雅丸さんだけだな」
慎吾は、佳雅丸のように、何か勝負をもちかけるでなく、読書していた手を止めて、あっさりスタンプを捺してくれた。慎吾が読んでいたのは、先月発売されたミステリだった。
志信が興味ありそうな様子を見せると、慎吾が言った。
「読みたかったら貸すよ? っても、俺の後にあと三人くらいいるけど」
貧乏学生が多い寮内は、本の回し読みが多いという事に、最近志信は気づいた。先日の佳雅丸の部屋にあった本棚も、近隣の住人が入れ替わり立ち替わり本を借りて行くようだし、千錦寮の図書自習室の方にも、卒業した先輩が代々残していったという古いベストセラー本などが残っている。
既に志信も和美も、そこから数冊借りて読んでいた。
空いたらジョージに言うから、と、慎吾は志信の連絡先を聞いたりはしなかった。
そして、真尋の部屋へ行くのだと言うと、慎吾はうれしそうにして言った。
「へえ! 真尋さんとこに行くんだ、いいと思うよ、あの人、ああ見えて話好きだし、来るものは拒まずの人だから」
そして、続けた。
「ただ、ちょーーーっと見た目の印象から、人から距離を置かれる可能性が高いんだけどねえ」
ぱっと見の印象はとっつきにくいかもしれないけど、とって食ったりはしないから、と、慎吾は言い、しかし、まあ、がんばって、と、送り出された。
真尋さん、こと、鶴来真尋の部屋は、佳雅丸と違って、外観からして目立つような扉では無かった。
冊子に描かれていた絵から見るに、さぞかし部屋の方も凝っているのだろうと思って来た志信と和美は、少しばかり意外に感じて、少しばかり逡巡した。
部屋に間違いが無いか確認もした。
233号室。
間違っていない。
和美が、無言で、志信を見て、ノックするそぶりをした。
志信が頷くのを確認してから、和美が軽く二回、ノックをすると、短く、
「どうぞ」
と、答えがあった。
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