おしゃべりロボットの秘密 ―中に人はおりません?―

皇海宮乃

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おしゃべりロボット ステノ(2)

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「そうですか、会社で働くというのは大変ですね」

「そうなのよ、話のわからない上司がいてさあ」

 気がつくと、紅緒は仕事の愚痴をロボット相手に吐露していた。会話の内容を聞いて遠慮したのか、近くにいたアシスタントの青年は少し距離を置いて聞き耳をたてないようにしている。

「ステノはどう? 大変?」

「僕はロボットですから」

 最初に名乗った時に、自分の事を『私』と呼んでいたはずが、いつのまにか主語が『僕』に変わっている事に紅緒は気づかなかった。

「私も自分をロボットだと思えたらラクになるのかなあ」

「今の仕事は嫌いですか?」

「嫌いじゃないけど、まあ、食べる為にやってるという部分はあるかなー」

「紅緒さんはどんな仕事をしたかったんですか?」

「本当は、星や宇宙にまつわる仕事がしたかったんだよね、学校は材料系なんだけど、昔の宇宙飛行士ってペイロード・スペシャリストって言って、材料系の実験をする人がけっこういてさ、大学も研究室によってはそういう進路もあったんだけど……」

 気がつくと、紅緒は日常のくったくを全てステノに話てしまっていた。

「なんか、一方的にしゃべっちゃった、おかしいね、壁に向かってしゃべってる、って感じじゃないんだけど、ロボット相手でも受け答えをちゃんとしてもらえるとうれしいのかな、言葉尻をとらえて返しているだけなのかもしれないけど」

「そんな事ないよ」

「え?」

「紅緒さん、もしよければまた来て欲しいな」

「一方的に話しているだけなのに?」

「紅緒さんの話、また聞きたいな」

 なんだろう、こういう会話ロジックって、何だかホストみたい。と、紅緒は思ったが、企画展示の夜間入場料で話を聞いてもらえるなら安いものか、とも思えた。

 そこで、館内にホタルのヒカリが流れ始めた。閉館時間になってしまったのだ。

「じゃあ、待た来ようかな」

 紅緒がつぶやくと、ステノは答えた。

「うれしい、待ってるよ」

 会話の終了を見て取ったのか、アシスタントの青年が近づいてきて、展示終了を告げた。

 紅緒はどこか後ろ髪を惹かれる思いで来た道を戻っていった。

 そういえば、どういう仕組みで動くロボットなのか結局聞かなかったな、と、思いながら、駐輪場へ向かう。

 駐輪場から見上げると市街地にしては周囲が暗いのか、星がよく見えた。そういえば、土日に天体観測会をやってるんだっけ。

 そう思い立って、紅緒は一旦入り口まで戻り、受付のラックから月間スケジュールを一枚抜いた。

 再び駐輪場へ戻ろうとした紅緒は、通用口から出て来た青年三人を追い抜いた。大学生だろうか、会社員という感じでは無かった。その内一人がじっと紅緒の方を見ていたような気もしたが、多分気のせいだろう。

 また明日も来ようと思いながら、紅緒は天体観望会のスケジュールを通勤用のバッグに入れて、自転車を漕ぎ始めた。

 今夜はいつもよりも軽やかにペダルを漕げているような気がした。
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