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バイトしない?
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三角大学は、三角市の文教地区の片隅にそびえ立っている。敷地内には大学の他にも付属小学校、中学校、図書館、そして三角市少年少女科学館があった。
そんな三角大学には学生寮があり、男子寮を一刻寮、女子寮を千錦寮といい、遠方から進学してきた学生たちの受け入れ先となっている。男子寮三百名、女子寮七十名というなかなかの規模ではあったが、築年数が古く、相部屋である為、定員の少ない女子寮はともかく、男子寮の方は定員を割る事も多い。
耐震工事の為、近年は建て替えが検討されていた。
男子寮、二棟あるうちの大きい方は、管理上中央の階段を挟んで東寮、西寮と名付けられた西寮の一角に、彼らは居た。
試験の終わった秋休み、最近はシルバーウィークなどと呼ばれる連休に入る前日の事。
西棟二階、辰巳譲二の部屋は、一年生の溜まり部屋と化していた。夕方ともなると、誰共なく集まってきて、ゲームをする者、漫画を読むものなどがたむろしている。譲二は、自分のプライベートスペースが実質ベッドの中だけになってしまっても、この部屋で良かったと思っている。誰かしらいるので寂しくないし、特別話をするでなくだらだらと過ごす時間は、家族とはまた少し違った距離感で気楽だった。相部屋で上級生の馬橋は帰省中の為、一年生達は気兼ねなくのびのびくつろいでいた。
馬橋は気のいい性格だし、上級生だからといって日頃から気詰まりになったりもしないが、そうはいっても多少は気を使っていたのだなと、不在だからこそ気づく。
その日譲二は、同じ学年の鮎川登弥と鴨田圭吾と、夕方のニュース番組を流しながら、それぞれ好き勝手をしていた。
そろそろ晩飯どうしようか、と、譲二が言い出すと、何か作るか食べに行くかで話し合いが始まった。寮には食堂があって、事前に予約さえしておいて、決まった時間に行けば格安に食事をする事ができるが、秋休みの今は、食堂も休みだったのだ。
適当に野菜を持ち寄って鍋をするのも悪くないか、と、思いつつ、既に空腹を感じ始めていて、どことなく料理をするのがおっくうでもあった。
そこへ、ふいにノックの音がして、扉が開いた。入ってきたのは同じエリアの名物上級生、一部では一刻寮の主などとも言われる六年生の鶴来真尋だった。
外から帰ってきたようで、室内着の着流しでは無く、細身の黒っぽいパンツにグレーのニット姿だった。細身の真尋がそういう格好をするといっそう華奢に見える。
そして、真尋は、一人寮内ではあまり見かけないスーツを着た男を連れていた。
「おー、やっぱここに集まってたか」
部屋でまったりしている一年生三人を見て真尋が言った。
「あ、真尋さん、チーっす」
ふいに現れた上級生に特別かしこまりはしなかったが、三人は体を起こして挨拶をした。
もちろん、寮内には修士課程、博士課程の院生もいるので、そうした者達と比べれば真尋は若い方なのだが、大学院に在籍している寮生は学業、研究に忙しく、寮内の付き合いはやや疎遠になりがちだ。
一方真尋は、六年生ではあるが、未だに研究室に所属していない為、既に単位については必修をいくつか残すのみ(というかむしろ意図的に残しているようなフシがある)の為、平時はアルバイトで日銭を稼いでいるという、昔懐かしい高等遊民のような学生だった。
「おー」
真尋はそう言って部屋にいる人数を数えた。
「三人か、ちょうどいいな」
そう言って、一緒に入ってきたスーツの男に言った。スーツの男が頷くと、真尋が言った。
「お前ら、暇? いいバイトがあるんだけど」
そう言って、真尋とスーツの男は不敵に笑った。
そんな三角大学には学生寮があり、男子寮を一刻寮、女子寮を千錦寮といい、遠方から進学してきた学生たちの受け入れ先となっている。男子寮三百名、女子寮七十名というなかなかの規模ではあったが、築年数が古く、相部屋である為、定員の少ない女子寮はともかく、男子寮の方は定員を割る事も多い。
耐震工事の為、近年は建て替えが検討されていた。
男子寮、二棟あるうちの大きい方は、管理上中央の階段を挟んで東寮、西寮と名付けられた西寮の一角に、彼らは居た。
試験の終わった秋休み、最近はシルバーウィークなどと呼ばれる連休に入る前日の事。
西棟二階、辰巳譲二の部屋は、一年生の溜まり部屋と化していた。夕方ともなると、誰共なく集まってきて、ゲームをする者、漫画を読むものなどがたむろしている。譲二は、自分のプライベートスペースが実質ベッドの中だけになってしまっても、この部屋で良かったと思っている。誰かしらいるので寂しくないし、特別話をするでなくだらだらと過ごす時間は、家族とはまた少し違った距離感で気楽だった。相部屋で上級生の馬橋は帰省中の為、一年生達は気兼ねなくのびのびくつろいでいた。
馬橋は気のいい性格だし、上級生だからといって日頃から気詰まりになったりもしないが、そうはいっても多少は気を使っていたのだなと、不在だからこそ気づく。
その日譲二は、同じ学年の鮎川登弥と鴨田圭吾と、夕方のニュース番組を流しながら、それぞれ好き勝手をしていた。
そろそろ晩飯どうしようか、と、譲二が言い出すと、何か作るか食べに行くかで話し合いが始まった。寮には食堂があって、事前に予約さえしておいて、決まった時間に行けば格安に食事をする事ができるが、秋休みの今は、食堂も休みだったのだ。
適当に野菜を持ち寄って鍋をするのも悪くないか、と、思いつつ、既に空腹を感じ始めていて、どことなく料理をするのがおっくうでもあった。
そこへ、ふいにノックの音がして、扉が開いた。入ってきたのは同じエリアの名物上級生、一部では一刻寮の主などとも言われる六年生の鶴来真尋だった。
外から帰ってきたようで、室内着の着流しでは無く、細身の黒っぽいパンツにグレーのニット姿だった。細身の真尋がそういう格好をするといっそう華奢に見える。
そして、真尋は、一人寮内ではあまり見かけないスーツを着た男を連れていた。
「おー、やっぱここに集まってたか」
部屋でまったりしている一年生三人を見て真尋が言った。
「あ、真尋さん、チーっす」
ふいに現れた上級生に特別かしこまりはしなかったが、三人は体を起こして挨拶をした。
もちろん、寮内には修士課程、博士課程の院生もいるので、そうした者達と比べれば真尋は若い方なのだが、大学院に在籍している寮生は学業、研究に忙しく、寮内の付き合いはやや疎遠になりがちだ。
一方真尋は、六年生ではあるが、未だに研究室に所属していない為、既に単位については必修をいくつか残すのみ(というかむしろ意図的に残しているようなフシがある)の為、平時はアルバイトで日銭を稼いでいるという、昔懐かしい高等遊民のような学生だった。
「おー」
真尋はそう言って部屋にいる人数を数えた。
「三人か、ちょうどいいな」
そう言って、一緒に入ってきたスーツの男に言った。スーツの男が頷くと、真尋が言った。
「お前ら、暇? いいバイトがあるんだけど」
そう言って、真尋とスーツの男は不敵に笑った。
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