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幼子たちからの洗礼(4)
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ガガッ! ザザザざざざ!!!
ステノのカメラとマイクから送られてくる映像と音声にひどいノイズがかかった。
扉の内側で待機していた登弥と圭吾は、スピーカーから出てくる異音に驚いて耳をふさいだ。あきらかにマイクに近すぎて大きな声がするのだが、近づきすぎて音がひろえず、何を言っているかがわからない。
かろうじてわかったのは、その声が子供のものという事だけだった。
「ちょっと、ちょっと待って、近い近い!」
譲二が、ひきはがしたのか、マイクに向かって叫んでいたと思われる子供の姿がディスプレイに映しだされた。中央に一人、画面のはしにかかっている手は別の子供のものだろうか、距離感からいって正面の子供のものとは思えない。
そして、中央の少年の隣にもう一人。
カメラからの映像で判断するに、三人の子供が、今ステノの前にいるのだという事が予想できた。
やおら、バンバンとステノの本体を叩くような音がする。どうやら譲二がひきはがしたのとは別の子供が、ステノの頭あたりを叩いているようだ。
「ダメダメ! 叩かないで!」
叫ぶようにして、ついに譲二は子供たちとステノの間に割って入ってきた。カメラから送られてくる映像には、譲二が着ているスタッフジャンパーの背中辺りが写っていた。
「……び、ビックリした」
唐突な音の暴力がやんで、登弥と圭吾は外で恐れていた事態が起きてしまっているのを感じた。だがもう後戻りはできないのだ。覚悟を決めたような顔をして、登弥は自らインカムを持った。
「私はおしゃべりロボット ステノです 乱暴しないで下さい」
外では子供たちが驚き、再び近づいてステノのボディを蹂躙しようとしているのを、譲二が必死で止めているようだった。
「順番に並んで下さい」
登弥が言うと、先ほどとは打って変わった従順さで、子供たちは整然と並び始めた。どうも、譲二が少々食い止めようとするよりは、ステノからの言葉の方が子供たちには届くようだった。
そうなると、譲二と連携がとれるといいのだが、譲二とやりとりする手段を決めておかなかった。そうなると、こちらは二人、外は一人、譲二には悪いが、ステノの言葉を聞いて、アドリブでがんばってもらう他無さそうだ。折を見て、二人の内どちらかが従業員スペースを利用して、別の扉から出て行ってコンタクトをとる事にして、今は目の前の子供たちをさばくことに専念する他なさそうだ。
「ねえねえ! 一億万たす一億万は?」
唐突に、一番前に並んだらしい子供から質問が来た。
言葉通りにいうならば、二億万という事になるのかもしれないが、残念ながら億万という単位は多分無い。
「一億万っていう単位はないよ」
答えている登弥の横で、圭吾がスマホで検索を始めていた。
「あー、クレヨンしんちゃんがそんな事言ってんな」
ぼそっと圭吾がつぶやくのと同じタイミングで、
「一億万たす一億万もわかんないのー? こいつバッカでーーーーー」
容赦の無い罵声が飛ぶ。登弥は一瞬イラっとしたが、声には出さず、
「一億万っていう単位はないよ」
と、できる限り平静を保つようにして繰り返した。
最初に質問した子供は、気が済んだのか、どこかへ立ち去っていった。
ステノのカメラとマイクから送られてくる映像と音声にひどいノイズがかかった。
扉の内側で待機していた登弥と圭吾は、スピーカーから出てくる異音に驚いて耳をふさいだ。あきらかにマイクに近すぎて大きな声がするのだが、近づきすぎて音がひろえず、何を言っているかがわからない。
かろうじてわかったのは、その声が子供のものという事だけだった。
「ちょっと、ちょっと待って、近い近い!」
譲二が、ひきはがしたのか、マイクに向かって叫んでいたと思われる子供の姿がディスプレイに映しだされた。中央に一人、画面のはしにかかっている手は別の子供のものだろうか、距離感からいって正面の子供のものとは思えない。
そして、中央の少年の隣にもう一人。
カメラからの映像で判断するに、三人の子供が、今ステノの前にいるのだという事が予想できた。
やおら、バンバンとステノの本体を叩くような音がする。どうやら譲二がひきはがしたのとは別の子供が、ステノの頭あたりを叩いているようだ。
「ダメダメ! 叩かないで!」
叫ぶようにして、ついに譲二は子供たちとステノの間に割って入ってきた。カメラから送られてくる映像には、譲二が着ているスタッフジャンパーの背中辺りが写っていた。
「……び、ビックリした」
唐突な音の暴力がやんで、登弥と圭吾は外で恐れていた事態が起きてしまっているのを感じた。だがもう後戻りはできないのだ。覚悟を決めたような顔をして、登弥は自らインカムを持った。
「私はおしゃべりロボット ステノです 乱暴しないで下さい」
外では子供たちが驚き、再び近づいてステノのボディを蹂躙しようとしているのを、譲二が必死で止めているようだった。
「順番に並んで下さい」
登弥が言うと、先ほどとは打って変わった従順さで、子供たちは整然と並び始めた。どうも、譲二が少々食い止めようとするよりは、ステノからの言葉の方が子供たちには届くようだった。
そうなると、譲二と連携がとれるといいのだが、譲二とやりとりする手段を決めておかなかった。そうなると、こちらは二人、外は一人、譲二には悪いが、ステノの言葉を聞いて、アドリブでがんばってもらう他無さそうだ。折を見て、二人の内どちらかが従業員スペースを利用して、別の扉から出て行ってコンタクトをとる事にして、今は目の前の子供たちをさばくことに専念する他なさそうだ。
「ねえねえ! 一億万たす一億万は?」
唐突に、一番前に並んだらしい子供から質問が来た。
言葉通りにいうならば、二億万という事になるのかもしれないが、残念ながら億万という単位は多分無い。
「一億万っていう単位はないよ」
答えている登弥の横で、圭吾がスマホで検索を始めていた。
「あー、クレヨンしんちゃんがそんな事言ってんな」
ぼそっと圭吾がつぶやくのと同じタイミングで、
「一億万たす一億万もわかんないのー? こいつバッカでーーーーー」
容赦の無い罵声が飛ぶ。登弥は一瞬イラっとしたが、声には出さず、
「一億万っていう単位はないよ」
と、できる限り平静を保つようにして繰り返した。
最初に質問した子供は、気が済んだのか、どこかへ立ち去っていった。
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