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幼子たちからの洗礼(3)

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 おしゃべりろぼっと「ステノ」は、それほど目を惹く様子がないせいか、一直線に目指して来るような観覧者はいないものの、通りすがりにちらり、と、見ていく大人が何人か居た。

 しかし、遠巻きにステノの形状を確かめるように見てくることはしても、進みいでて話しかけようとする大人は現れなかった。

 今時会話するロボットは目新しくは無いし、横にアテンド役の譲二がついている事で、恥ずかしさもあるのだろう。

 目線を落として、子供のような背の高さのロボットに話しかけようとした場合、どういうテンションで話しかけるべきか、普通はとまどうものだろう。

 会場時は、大勢の人に囲まれて、捌ききれるかどうか不安に思っていた譲二も、何回かスルーされてくると、昨日の調子に気持ちが戻っていく。

 できればステノの頭の上で頬杖をついて人間観察といきたいくらいだが、さすがに今はバイト中である。笑顔をたやさず、横で立っているというのも中々に大変で、扉の向こうでどんな人物がやってくるか緊張しながら待っている二人とどっちがよかっただろうかなどと、今更ながらに考えた。

 せめてアテンド役が女性だったら、もう少し話しかけやすかったのだろうか、真尋はバイトとして自分たちを紹介するにあたり、さすがにそこまでは考えが至らなかったのか、と、いつもであれば数手先を見通すような、仙人か隠者のような真尋にしては、少しばかり見通しが甘かったのではないのだろうかと譲二は考え始めていた。

 いつもであれば、誰よりも考えを巡らせ、準備を怠らない真尋が、今回の一件については泥縄ぶりも甚だしい。

 だが、それもしかたのない事なのかもしれない。ケースそのものが異例というか、卒業生から持ち込まれた事なわけだから。

 事前に準備できるような事では無いし、外から持ち込まれた事案なわけだから、想定外なのはいたしかたのない事だ、しかし、そのスタンスがいつもと違っているような気が、譲二はしている。

 見通しの甘さもそうであるし、瀬尾への態度もそうだ。何より、真尋らしく無いのは、全ての根本原因である三楽茜へのケアが無い所だ。

 たとえば、似たような一件、タスクを抱えた状態で譲二が行方をくらませたとして、タスクの処理を続けようとするのはもちろんだとしても、譲二を探すアクションもとるのではないだろうか。

 いつもの真尋ならば、友人でもある三楽茜を放置するというのはありえない。おしゃべりロボットの方をどうにかすると同時に、茜を探そうとするはずだ。

 もしかして……。

 譲二は思い立ち、ポケットに入れたスマホに触れようとした。

 ……いや、ダメだ。

 扉の内側にいるならともかく、既に開場して、アテンドに立っている状況でスマホで何かをするのはまずい。

 譲二は確かめずにはいられなかった。茜を探す為の別動隊がいるはずなのだ。そしてそれは多分……。

 女性との混合チームであたるべきだった今のタスクに、真尋が懇意にしている千錦寮生に声がかからなかったというのは、つまりそういう事なのだ。

 いつもの譲二であれば、真尋のタクトで与えられた役目をやりおおせればいい、そう考えていたはずなのに、どうしてか、ひどく気持ちがざわめいた。

 しかし、もう今となっては、持ち場を離れる事もできない、集中して、今できる事をしなくては。自分がするべき事、したい事は、真尋と瀬尾のやろうとしている事を邪魔する事では無いはずだ。
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