ま×ま

空白メア

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第7話覚醒(2)

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「すまん。ちょっとイラついて殺した。あとはそっちで処理してくれ」
「おい!待て。」
奏斗の言葉も聞かず彼は消えた。
「あいつは確か七つの重罪…。いや、それより藍色を運ぶか」
奏斗はあの悪魔のことを知っているだろうか。奏斗はそれだけ普通のトーンで言うと後は小さな声でブツブツ言う。それと同時に倒れた藍色をおんぶする。
「よし。さすがにこれじゃ俺も走りずらいからバスで帰るか」
「まてまて藍色を担いでいくならそれは事件の匂いがするからやめろ。」
「実際事件があったろ」
「そう言う屁理屈はいいから」
「はぁ。ちょっと待ってろ。家から車とってくるから。」
そう言うと俺らを連れて近くの公園に向かう。藍色はベンチに寝かせ奏斗は俺らに待つように支持する。俺と天は藍色が熱中症にならないように冷却魔法で冷やす。
 そして、数分でやつは車に乗ってくる。その音に気づいたのか藍色が起きる。うわぁ、外車の高いやつじゃん。昔車に憧れてた男の子なら誰でも知ってるようなの。奏斗って確かまだ24の若造だろ。相当稼いでるんだな。
「おお、藍色大丈夫か?」
「え、あ。うん。全然大丈夫だよ。」
「まぁ、心配だから乗ってけ。」
俺らはそれに乗って家に帰った。

 今日は聖魔団本部に来ていた。今日は勉強会とか言ってたのに急に車に乗れと言われるからびっくりした。藍色は今日も変わらず真顔だった。大丈夫かと聞いたら元気だとしか答えない。奏斗に経過観察をしようと言われ俺と天はそれに従った。
今回は関係者口みたいなところでなく真正面から入る。筋肉痛の足が悲鳴をあげていた。小学校の頃に見学で来て以来変わってないな。奏斗はまっすぐ受付へ向かう。すると受付の女性に話しかける。
「あいつどこにいますか?」
「ああ。待ってくださいね」
受付の人は思い出したかのようにパソコンをいじる。
「二階のフリールームにいますね。」
「やっぱりな。あいつ3階の会議室って言ったのに。確認ありがとうございます」
女の人は返事をしない。その素っ気なさに俺は下唇を噛んだ。今気にしてることでは無いのにそちらに目がいってしまった。
「お前ら着いてこい。会わせたい奴がいる。」
俺らは奏斗の後ろに続いて階段を上る。少し廊下を歩くと開けたところに出る。そこはカラフルなソファにそれに見合ったテーブル、電子レンジや給水器などがある。
「ここはフリールームって言って多目的で使うところだよ。ああ、いたいた。」
彼は目的の人物を見つけたのか。まっすぐ歩みを進める。どんな人な……。
「あ、お兄ちゃん」
天が声を漏らすと向こうは手を振ってきた。いや、地獄耳かよ。怖ーよ。あの人なんなの。天も藍色もそっちに行かないでくれ、行かざる負えなくなるだろ。
「りっくん。早く」
「あー。はいはい。」
ちょっと小走りでみんなの所に追いつくと、もうそいつの目の前。うわぁ、ゲロでそう。
「全く。三階の会議室集合の件はどうなったんだよ。」
奏斗が話しかけるヤツは男のくせに髪が長くてそれを無造作ひとつに束ねている。兄妹揃って染められたブラウンの髪。
「そんなことより早く僕を天達に紹介してよ!」
彼は黒縁メガネを掛け直し一重の目を大きく見開かせ期待の眼差しを奏斗に送る。若干奏斗引いてるじゃん。そりゃぁ、会話成り立ってないもんな。
「うわー。部下の話聞けよ。それにみんな知ってるんだから良くね?」
そう、よーく知っている。もう何年の付き合いになるだろうか。これは物井ものい朝陽あさひと言って、天の兄でただのシスコン野郎だ。
 やれ、天を輩から守れだとか手を出したら殺すだとか天と幼なじみだからと調子乗るなとかもう色々と恐怖エピソードがある。こいつに彼女がいることがほんとに不思議なのだ。
「えー。だって、この三人は聖魔団の中で僕がどれだけすごいか知らないでしょ?認識的に天のただのお兄さんでしょ?」
ただのは余計だな。
「めんどく…さくないです。説明するから給料を下げようとするな。その、管理用の会社のタブレットを置け」
と奏斗は血相買える。こいつ奏斗の金握れるくらいすごいやつなのか。
「えーっと。みんな知ってると思うけど、この人は物井朝陽と言って俺の同期であり上司だ。聖魔団の副団長をしていて、他にも医療部、特務部の二つの部署の代表であり、部署監督、緊急対策委員会の委員長でもある。」
「…」
「まぁ、口で言ってもわかんないだろうからこれみてくれ。」
そう言って奏斗はスマホを操作すると謎の図を見せてくる。鎌倉の幕府体制を見てるようだ。
「一番上が団長。その次が副団長。そして、各部をまとめる総監督がいてそこから特務部、司令部、特攻部、教育部、医療・研究部の五つの部署に別れる。それぞれの部署に代表がいて、その下に沢山の団員がいる感じ。緊急対策委員会は緊急時のためどこにも属さない。ちなみに緊急対策委員会は何するかって言うと、団総動員で動くとになる時に立ち上げるものだ。まぁ、最終決定は全て団長なんだがな。」
「こう見ると守備範囲広いんだな。」
と藍色が呟く。確かに色々な管轄のトップをしていて、緊急時まで仕切る立場なんて相当だ。ほんとに凄いんだな。
「俺は教育部代表で緊急対策委員会副委員長だ。まぁ、元々特攻部代表だったんだけどこいつに移動させられたんだ。ほんとに権力の乱用はやめて欲しい」
奏斗もだいぶ偉いんだな。ん?
「え、嘘。奏斗代表だったのか。」
「なんだよ失礼な」
いや、俺の思ってる奏斗は圧倒的にチャラついたバカなやつなんだが。
「まぁまぁ。だって、天を知らない奴に任せられないし。それにアレの件もあるからね」
「へーへー分かってますよ。」
「まぁ、話を続けると君たちには半年後の十二月にある研修生大会に出てもらう。研修生全員が集まるけど君たちなら大丈夫だと思ってるよ。」
研修生大会は研修生達が一度に集う大会だ。毎年学校でその時期になると聞かされてきた。
「ちょっと待て。は、半年って無理だろ。」
奏斗は慌てたように朝陽に言葉を返す。俺もその意見には賛同する。だって、周りのほとんどは俺らの上級生だ。半年しか時間の無い俺達に勝ち目があるだろうか?
「え、良いの?こっちはほんとに給料減らしてもいいんだよ。」
抗議してたはずの奏斗はいつの間にか回れ右をし俺らに頑張ろうとか言う。ホントに現金なやつめ。
「まぁまぁ、この大会で入団が近くなったり遠くなったりするわけじゃないから安心して。じゃぁ、今日はこれでおしまい。帰っていいよ。」
え、これで終わり?
「どうしたの?おうちへGO」
そう言ってさっき来た階段を指さされる。意外とあっさり終わってビックリなんだが、これでいいんだろうか。


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「…奏斗。昨日の市街地の爆風について報告」
彼は3人組が見えなくなると口を開く。彼のこの切り替えは同姓ながらかっこいいと思う。
「どうせ見てたんでしょ。必要ある?」
「あるよ。だって、天しか見てなかったもん。」
いい大人が、仕事に私情を持ち込むのをやめて欲しい。
「はいはい。そんなことだろうとは思ってましたよ。報告します。結果的に言うと最近巷で話題の爆弾魔騒ぎです。爆弾魔は悪魔団の一人。三角公園付近の住宅街の一軒家が家事になっていましたが、藍色の魔法によりすぐに消火しました。その際に藍色の覚醒が発覚しました。」
「藍色は覚醒したのか。どうしてだと考えている?」
「火事を見て自分のことと重ねた際に悲しみとか恐怖といった感情が昂ったのだと考えています。」
「なるほどね。続けて。」
「その後、犯人…爆弾魔が姿を現し藍色を挑発しに来ました。」
「なんのために?」
「快楽的なものかと」
「爆弾魔君もなかなかな事するね。続けて」
「次に七つの重罪の憤怒が現れ爆弾魔を殺してどこかへ消えて行きました。」
「仲間割れ?」
「さぁ。分からない」
「あの子のことは聞けてないの?」
「収穫なし。爆弾魔はすぐ死ぬし、憤怒は直ぐに居なくなったし」
「そっか、しょうがない。ありがとう。藍色の覚醒も聞けたのは良かったよ。あの子たちなら1年とかからないんじゃないかな」
「お前が言うとそうなのかもな。」
「てか、敬語」
「2人の時くらい良くないですか?物井サン。」
「そうだけど。他の皆の前ではちゃんとしてよね。僕が舐められても困る」
その通りだろう。ただでさえ俺らの立場は危ういのだ。同期で仲がいいとはいえ下手にタメで喋ろうものなら彼は舐められる。上に立つ人間としての評価は下がるだろう。彼は穏やかでいて物事をちゃんと捉えている。天のことになると脳死するのをやめて欲しいが。
「じゃぁ、報告も終わったんで帰る」
「ちょっと待って。仕事手伝って」
「は?」
「お願い。死んじゃう。天に会えなくて」
ついさっき会ったろ。
「いや、俺定時もうすぎてるから帰るぞ」
「は、あ、待って!白状物!」
「それじゃ、物井副団長お先失礼します」
「まじでいなくなっちゃった。はぁ、しょうがないやるか」
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