ま×ま

空白メア

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第6話覚醒(1)

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「じゃぁ、今日は解散。各自ストレッチをしておて…………」
ドンッ
奏斗の声がとても大きな音に消される。人の声とか電車の音ではなかった。それらよりとてもうるさかった。反射的に俺らは耳を塞ぐ
「な、何?」
と天が耳を塞ぎながら辺りをキョロキョロする。
「予定変更。現場に行くぞ」
そう言って奏斗は俺らの背の方位を指さす。回れ右すると巨大な煙が立ち上っていた。俺は無心でそれを見ていると奏斗が横を通り過ぎる。俺はそれで気を取り戻し彼について行く。着いたところは駅前の集合住宅街。一件の家が燃えていた。窓ガラスは割れていて全窓から煙を吐いていた。消防隊は既に来ており消火作業をしていた。
「最近の爆弾騒ぎのアレか?」
横の野次馬の声が耳に入る。確かに藍色のアパートの火災を調べた際に関連で近くの家の火災を報道する記事を見つけた。それはそういう事だったのか。
「あーくん。大丈夫?」
天の声に藍色の方を見る。藍色は俯いて耳を塞いでいた。息が荒い。先週の事件を思い出してしまったのだろうか。心配で近づくと彼の近くは冷気を帯びていた。それは俺の息が白くなるほどだった。そして藍色は膝から崩れ落ちた。俺はそれを支える。
「おい、藍色大丈夫か!?」
「うぅ……」
意識はあるようだ。体を軽く揺するとうっすらと目を開けた。その目は青く光っていた。
「藍色お前まさか。」
「あれを見てみろ!」
俺の声に被せるように誰かが声を上げる。その声は奏斗でも天でもない他の野次馬だった。その言葉に顔を上げた俺は目を丸くした。
 火が、火が凍りついていた。炎が凍るというのは変な話だが、目の前の固まった炎を見ると他の表現が出てこない。次の瞬間静かにそれは細かな結晶と化して散る。俺は手が霜焼けになっているのも忘れてその光景を見た。
 これは、藍色がやったんだ。そうだと強く思った。彼がそんなに強い魔法を使ったことは無かった。でもほかに考えられなかった。
「藍色の覚醒か…」
奏斗がぽつりと呟く。これが、覚醒の力なのか。寒いぐらいのはずなのに汗が流れる。何に冷や汗をかいているのか俺には分からなかった。
「はははっ!おもしれーもんみれたね。」
呆気にとられていた俺の意識を戻したのは耳に響く低くて嫌な声だった。火事があった家の屋根の上にいつの間にか人がいる。彼は軽くジャンプして地面に着地すると俺らの元にやって来る。野次馬はその人を避けるようにして退いてく。近づいて来るそいつの手元には悪魔の印が見えた。
「いやぁー覚醒かね。君早いね。何かあったのね?ああ、俺に言え燃やされたんだったね。新聞で見た顔だね。悲劇的だったね。」
と変な語尾のヤツは藍色を見て嘲る。こいつが犯人なのだろう。俺は藍色を抱えて後退る。奏斗は俺らの間に入る。
「私の教え子に何か用事でも?」
「いや、アンタに用はないね。そのコが欲しい。」
彼はそう言うと藍色を指さす。これはまずい。そう思っていると急に手元が軽くなる。藍色は、いつの間にか俺の元から離れていたのだ。そんな彼の目は青く燃え上がっていた。あぁ、本当に覚醒したんだな。
「…っ。よくも!」
俺はとっかかろうとする藍色を止める。彼はさっきの話をどこまで聞いていたのだろうか。少なからず今、彼がアイツを殺ろうとしていることは分かった。
 別に悪魔と契約した魔人、魔女は殺しても罪に問われたりしない。だがこいつらも一人の人間だ。親友として今の彼に一時の感情で人を殺して欲しくない。
「藍色やめろ落ち着け。今深追いをするな。」
と奏斗も天も加わり止めに入る。一応留まってくれたけど、藍色の顔は怒りに満ちていた。目もまだ光っている。
「なんだつまんないね。」
魔人は立ち去ろうとする。藍色は気づかない間に人差し指を立てて彼の背を指す。
「じゃぁ、かえろ…」
魔人は全身が凍ると同時に首を切り落とされる。一間遅れて藍色が倒れる。今度こそ彼は本当に意識を失っていた。
「おい、藍色!何が…」
俺は冷凍された魔人とこちらに倒れかかってくる藍色を見比べる。凍らせたのは間違いなく藍色だ。でも、首を跳ねたのは藍色では無い。そうでは無いと信じたかった。きっとそうだ。頭に血が登った人がこんなに短時間に魔法を何個も使えるわけが無い。少し遅れて周りが大きくざわつく。
「ねぇ、りっくんあれ。」
天の指す方にはいつの間にか火傷をおった魔人が出てきた。多分体育館で会った魔人だ。彼はカチンコチンの生首を抱えてこちらを見ていた。やったのはこいつだ。でも自信が無い。だって、仲間じゃないのか…?
「すまん。ちょっとイラついて殺した。あとはそっちで処理してくれ」
「おい!待て。」
奏斗の言葉も聞かず彼は消えた。
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