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神様Help!

間話2 神様だって、休みたい!

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「…………ええーっと……」

 俺は眼前にひれ伏す狼人族の人たちに、若干引き気味です。

「おふっ!」
『ヤマト。貴男の眷族に言葉を……』

 戸惑っていた俺の脇腹に、サテラさんがいい角度で肘鉄をくれました。
 ひれ伏している彼らからは見えないものの、サテラさん……容赦ねー。
 それにしても、訪問を告げたのは突然だったのに、村人全員で出迎えてくれるとは。
 今日は天気が良いからよかった。
 前回村に来たときと違って子供たちの姿もあるし、赤ん坊を抱えている女の人も結構いる。
 この一年で、ロンダン村ではベビーブームが起きていた。
 それはやっぱり、アースドラゴンを討伐したことが一番の原因だろう。
 生け贄の儀式は彼らの心理に影響していただろう。
 十年に一度とはいえ、誰が選ばれるかは彼らには分からなかったのだから。

「――突然の訪問に、このように集まってくれて嬉しく思う。みんな……身体を起こしてくれないか。俺は、君たちを守護することになったが、必要以上に畏まられるのは苦手なんだ。出来れば気軽に接してくれると有り難いかな」

「おお……我らの守護神のなんと寛容な。皆、仰せの通りするのだ」

 そう言って、率先して身を起こしたのは長老だ。
 さすが年の功。ただただ畏れ敬うのではなく、俺の意思みたいなものを汲み取ってくれた。
 こうして村の重鎮が先に立って行動してくれると、他の人たちもそれに追従しやすいと分かっているのだろう。
 彼に続いて、族長のフォウルや俺の巫女であるペルカ。そして母親のラカ。
 俺に近い場所にいる村の重鎮から、ドミノ倒しの逆ではないが、扇状にみんなが身体を起こしていく。
 身体を起こしたロンダン村の住人たちに向かって、俺はぐるりと視線を巡らせた。

「……今日は、俺の神殿が完成したと聞いてやって来たんだけど……見せてもらっていいかな? それからみんな。いつものように過ごしてくれないか。君たちの今の日常が見れた方が、俺としては嬉しいかな」
「ヤマトさまの仰せの通りに。皆聞いたか! 我らを守護くださるヤマトさまのお言葉だ。いつもの生活をご覧に入れるのだ。ペルカ。ヤマトさまの巫女としてしっかりとおもてなしを」

 そう口にしたのは族長のフォウルだ。

「ハイなのですぅ。ヤマトさ……さま。案内するのですぅ」

 あっ、『さん』と言いそうになってペルカがあわあわとした表情を浮かべている。やっぱりこの子を見ていると和む。
 それだけでも、訓練狂バルバロイから逃げ出してきた甲斐があったというもんだ。
 俺がこの世界に降臨し召喚されてから約一年。
 つまり……闘神の神殿域に拉致られて約一年。
 ペルカからロンダン村に正式な神殿が建立こんりゅうされたと聞きつけた俺は、バルバロイをなんとか説き伏せて、こうして地上へと降臨していた。
 まあ降臨とは言っても今回も人化降臨なわけだが。
 今回は天界復活。ちゃんと使って来ましたよ。ペルカや狼人族のみんなのおかげで神力も僅かずつでも溜まってるからね。
 それにしても。
 俺、本当に神様……彼らの守護神になったんだなぁ。
 前回村にやって来たときドゥランたちと対峙した辺りにサテラと共に降臨したら既にあの状態だったのだ。
 ――いや~~。ホント。ビックリした。

「それにしてもよ。オメエ本当に神様だったんだな。門の向こうに突然現れたのをこの目で見るまではよ。ずっと化かされてるんだと思ってたぜ」

 ペルカに先導されて村の奥へと歩く俺の横、ドゥランが頭の後ろで手を組んだ状態で並び歩いている。
 いや、まあ、いつものようにとは言ったけどさ。キミ、距離近いよね――こいつ思った以上に大物かも。
 フォウルや長老も付き従うようにして俺の周りに居るが、彼らは以前に会ったときより畏まっているのだから。

「ドゥラン! 無礼だぞ」

 ほらフォウルに注意された。

「いいじゃねえか。いつもどおりって、とうの神様の許可がおりてんだからよ」
「ああ……まあ、俺もその方が嬉しいかな。この先もロンダン村には顔を出すつもりなんで、村のみんなには出来るだけ気安く付き合ってもらいたいな」

 是非、天界でしごかれまくっている俺の癒やしの地になってほしい。

「村の狼人族の者たちは良いですが、この先もこちらに来るつもりなら、他の者たちに正体が知れないように。それだけは注意してください。ヤマトの与える加護によって、この地が今後発展してゆくことは間違いありませんので」

 サテラさんの言葉は一見俺に言っているようだが、それだけではなく、この場に居るみんなに向けて発せられたようだ。
 その意図を察したのだろう、俺と連れ立っているドゥランを含めた狼人族の重鎮たちは、ゴクリと息を呑んで視線を交わし合うと、しっかりと一つ頷いた。
 さすが戦女神。サテラさんの圧が強い。思わず俺も背筋が伸びそうになったよ。
 でもサテラさんの言質が取れたので、この先もバルバロイから逃げ出して、ここにやって来られそうだ。

「おおっ、ここが俺のために建てられた神殿か……って、何気に凄くない!?」
「みんな頑張ったのですよ!」

 ペルカがフンスと息を吐いた。
 自慢げというよりは、『頑張ったから褒めて褒めて』とすり寄ってくるワンコのように見える。
 俺は思わずペルカの頭をモフモフと撫でてしてしまった。
 頭上の耳がピクピクと嬉しそうに動く。さらに彼女の腰の向こうに見える尻尾がブンブンと振れていた。
 ただ、背後から僅かな殺気を感じるのはフォウルだろうか?

 それにしても俺の神殿。たまにテレビから建立中の様子は見てたけど。
 あれ、人の動きが分かるくらいには拡大できるものの、上空からの視点固定だから、今ひとつ詳細が分からなかった。
 主神のやつ……どうせ作り込むなら、そのあたりもう少し力を入れてほしかった。
 まあ、そんなわけで実際に目にするとやっぱり感動はひとしおだ。
 神殿というと頭に浮かぶ石造りの西洋風な建物では無いけど、木造高床式で……超高くて……長い階段が、って、あれ? なんかこんな建物どっかで見たことあるような……。
  俺が頭の中に引っ掛かっている答えを探っているとサテラが口を開いた。

「守護神となったヤマトの持つイメージが、彼らに投影された結果でしょうね」
「……そんな影響があるんだ」

 狼人族も木造建築の技術は持っている。
 村にある建物もどちらかというとログハウスに近い造り方だ。
 それが、俺の神殿はまだ拙さが見えるものの、どう見ても日本建築に見える。
 人界運営システムの【建築】の中にあった【建築技術】にポイントを振ったのが関係してるんだろうか?
 サテラによると従属神の中には【築神】という都市から建物まで建築技術に特化した神がいて、その神の加護が得られると、爆発的に技術革新がなされるそうだが、なかなか気むずかしい神らしく、個人にはまだしも国単位で加護を与えることは珍しいらしい。
 俺は、その神には及ばないものの、人界運営システムのおかげで狼人族の建築に関する技術レベルを通常よりも早くできるのだ。

「なかなか立派な神殿になりましたね。正式な神殿が出来たことで、これからは今までよりも神力の力が集まりやすくなることでしょう。それにヤマトの加護の力も地上に伝わりやすくなったはずです」
「ワタシ、これまで以上にヤマトさ……さまのご威光を広められるように、頑張るのですよ!」

 また『さん』と言いそうになってあわあわした後、それでも力を込めて言い切った。
 その仕草がなんとも可愛らしく、俺は笑顔を向けてまたモフモフと頭を撫でてしまった。
 あっ、また殺気が……。

◆◇◆◇◆◇

「……あっ、あの、私にもお願いいたします」

 そう言って妙齢の狼人族の女性が近付いてくる。
 俺の横ににじり寄ってきた彼女の腕には、おくるみに包まれた赤ん坊が……。

「えーーっと、お母さんとお父さんの名前は?」
「私は、ミルルです。夫はロムスと言います」
「この子は男の子だね。ならロムルってどうかな?」
「ロムル……ああっ、ありがとうございますヤマトさま。守護神さまから直接名付けて頂けるなんて……ああ、ロムル。今日から貴男はロムルよ」

 彼女はそう言って感極まったように我が子を抱きしめる。
 神殿をその中まで見学して出てくると、神殿前の広場には様々な料理が集められていて、散っていった村人たちがまた集まっていた。
 フォウルの説明によると、ペルカから俺がやって来ると聞いて、それに合わせて急遽収穫祭をすることにしたそうなのだ。
 俺とサテラさんはその収穫祭のご相伴を預かり、宴もたけなわを過ぎたころ、長老から一つお願いをされたのだ。
 ここ数日で生まれた、まだ名の無い子の名付けをしてほしいと。
 先に挙げた、生け贄の件が片付いたことと、人界運営システムで上げた【地力】の影響もあって、今のロンダン村では安心して子を育てることが出来るようになった。
 そのために、ロンダン村では今毎日のようにどこかの家で子が生まれているのだそうだ。
 というわけで、俺、守護神ヤマトの名付けの会が始まったわけです。

「ほら……アマラ。アマラもヤマトさ……さまに名付けてもらうのですよ」
「……もう、しかたがないなぁペルカは。分かったわよ」

 そのような言葉を交わしながらペルカが引き連れてきたのは、確か、ペルカが幼馴染みだと言っていた女性だ。
 ペルカの話だと同じ歳のはずだが、彼女は俺の感覚でいうと大学生くらいの年齢に見える。
 ほわほわ犬チックな可愛いペルカと違って、まさに狼を連想させる鋭さがある美人だ。
 その彼女は、これまでやって来た女性たちよりも大きなおくるみを抱いていた。

「ヤマトさまお願いするのですっ。男の子と女の子の双子なのですよ」

 狼人族は成長が人間とは違うとは頭では分かっているけど……十三歳なんだよね。
 ギンッと、どこか睨み付けるような彼女の視線に若干気圧されながら俺は口を開く。

「……お母さんとお父さんの名前は?」
「彼女はアマラなのですぅ。旦那さんはラバルさんなのですよ」

 ペルカはアマラが俺に向ける、どこか敵意に似た視線には気付いていないようだ。
 俺、ナニか悪いことしたっけ?

「なら――男の子はラウル。女の子はラマラってのはどうだろう?」
「どうですか、アマラ」
「まあ、良いんじゃない……」

 そう言った彼女は、何故か俺に身を寄せると耳元で呟いた。

「いいアンタ。ペルカを不幸にしたらアタシ……許さないからね」

 とても強い情念を含んだ言葉に、俺は我知らず身震いした。
 あれ……バルバロイから逃げ出して、心を休められる安住の地を得られたと思ったのに。
 俺は、幼い我が子を命がけで守る野生の獣に目を付けられてしまった……そんな気がした。
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