異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

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112話 「チョコいっぱい」

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「分かった……フォルセイリアに向かった者の説得はよろしく頼むぞ」

「ええ、そこは何とかするよ」

アイネが改めて説得の件を了承したところでさて、と呟き次の話題へと移って行く円卓の面々。
何人かは不服であるように見えたが、先ほどの話はあれで終わりと言うことなのだろう、それ以降話題に上がることは無かった。


「やー無事終わってよかったねー」

「ええ……ごめんなさいね、話を振られることはないと思っていたのだけど」

「ん、いいよいいよ何もなかったんだし。それについて行かないって選択肢は無かったしねー」

ついて行かなかった場合、それはそれで面倒なことになっていたかも知れない。
多少話を聞かれた程度で済んだのだからついて行って正解だったと言えよう。

「それはそうと」

話題を変えるようにアイネへと話しかける加賀。その視線はアイネの手元へと注がれていた。

「大分チョコっぽくなってきたねー。もう冷やしたら食べられるんでないー?」

アイネが行っているのはテンパリングと呼ばれる作業だ、これをうまく出来るかでチョコの味が大分変わるらしい。
アイネは作業を行うにあたり動画を見ながらやる事を選んだようだ、ちらちらと横目で画面を見ながら手を動かし続けている。
チョコは徐々に照りが出てきてぱっと見は溶けているが普段加賀が食べていたものとあまり変わらないように見えた。

「そうねえ……もう少しかな」

「おー」

もう少しと言われ椅子に座ったまま足をパタパタと動かす加賀。
先ほどから部屋には甘いチョコの香りが充満しており待っているのも辛くなってきたようだ。

型に流し込まれたチョコがアイネの魔法で冷やされ徐々に固まっていく。

「固まったかな」

そう言ってアイネが魔法の使用を止めるとその手元にはしっかりと固まったまさにチョコと呼ばれるものが存在していた。

「ほい、半分こ」

「ありがと」

パキンと音を立て割れたチョコを口に含む加賀とアイネ。
アイネは味わうように目をつぶり、加賀は目をキラキラさせながらチョコを頬張っている。
共通しているのはどちらもチョコを楽しみながら味わっていると言うことだ。

「ん、おいしーね」

口に入れた瞬間とろけて行くチョコ。
甘さも程よく苦みと酸味のバランスも良い、それに何より香りが良かった。
かなり満足の行く出来に加賀はもとよりアイネの顔にも笑顔が浮かぶ。

「思ってた以上においしい。これ色んなお菓子の材料にも使えるのよね……せっかくだからいくつか作ってみようか」

「いいねいいね」

思ってた以上の出来栄えにがぜんやる気が出てくる二人。
そのまま時を忘れる様にお菓子作りに没頭するのであった。


「いっぱい作りすぎたね……あつっ、まだ熱い……おいしいけど」

焼きたてのフォダンショコラを少しずつ食べて行く加賀。
二人の前にはチョコを使ったお菓子が所狭しと並んでいた。
人より食べる量の少ない加賀と人並みのアイネではとても食い切れない量である。

「精霊にも分けるとして……それでも多いね。日持ちするのもあるけど出来れば早めに食べたほうがいいのも結構ある……」

「精霊さんお菓子食べていいよー。……お城の人にも配ります? 余ったらですけど」

加賀が指に着けた虹色に輝く魔道具へ声を掛けると同時にテーブルに置かれたお菓子が次々と姿を消していく。
その勢いはかなりのもので全部食い切るかと思われたが半分ほど消えた所でぴたりと変化が起きなくなる。

「半分なくなったね」

「でもやっぱまだ多いねー。日持ちしないのだけお裾分けしにいこっか?」

加賀の言葉にそうねと呟き扉へと視線を向けるアイネ。
静かに近づいていくと一気に扉を開く。

「とわっ!?」

「えっと……確か貴方は」

急に扉が開いた事でそっと聞き耳を立ててた人物が転がりこむ様に部屋へと入ってくる。
その人物は円卓でひときわ豪華な椅子に腰かけていた要人であった。

「盗み聞きとは感心しませんね」

「いやすまない……あれだけの量のショコラをどうするのか気になったものでね」

そう言ってテーブルの上に目をむけおや、といった表情を見せる。

「あれは全て菓子かな……そうかそういう使い道になるか、確かにそれはそうだ」

「……? いくつか食べてみませんか、実はつい作りすぎてしまいまして……」

一人納得する要人に疑問符を浮かべつつお菓子を進める加賀。
要人はお言葉に甘えてと言って小さめの菓子を一つ手に取り口に放り込む。
毒とか気にしないのかなと思う加賀であるが、加賀達が食べていたのを盗み聞きして分かっていたか……それか毒の類が効かないかだ。
加賀は昼にあった際、あまりじっくり見る事はなかったが……あらためて見るとその要人は人ではないようである。瞳が縦に細長く、肌色も若干人にはない色をしている。
もっともアイネのような存在がいる国であるので他にも人外がいても不思議ではないが。

「……うまいな」

それはともかく要人はチョコをお気に召したらしい。
一つ目の菓子を飲み下すと、次の菓子へと手をかける。

「うむ……これもいける」

そう言って次々とお菓子を腹に収めて行く要人。
その細い体のどこに入るのか不思議であるが、満足気に腹をなでた時にはテーブル上のお菓子の大半が彼のお腹に納まっていたのである。

「実にうまい……これは我々にも作れるのだろうか?」

「あ、はい……出来ると思います。ペーストから油を分離さえ出来れば、たぶん」

「そうかそうか」

加賀の答えを聞いて満足げに頷くとお菓子をいくつか手に持ち外へと出ていく要人。

「……なんだったんだろね?」

「さあ……確かなのはもう私達の分がないってこと。もうちょっと食べようと思ってたのだけど」

「あー……」

お腹は大分膨れていたがもうちょっと食べようかな、そんな微妙な腹具合だった二人はすっかり綺麗になったテーブルを悲し気に見つめるのであった。
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