異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

文字の大きさ
123 / 332

121話 「全員集合」

しおりを挟む
「そういえば」

 「ん?」

 「リッカルド組はまだ戻ってないんだねー」

 今回皆が旅にでるにあたり宿を出てから戻るまでの日程を大体合わせてから出発をしている。
バクスは八木達の行程を思い浮かべああと一言呟くと加賀の問いに答える。

 「向こうは馬車の移動時間長いからな、その分到着するのが前後するんだろう。もしかすると交渉が難航してる可能性もあるっちゃあるがな……」

そう言って最後の肉まんを口に放り込み飲み下すバクス。
さすがに10個近い饅頭を食えば腹もそれなりに膨れたのだろう、軽く腹をさすりコップの中身を飲み干した。

 「早けりゃ明日にも帰ってくると思うぞ」

 「そっか、なら食材の買い出しとかもそのつもりでしておかないとだねー」

 「そういえば残りのPTの人も来るのですよね、なら普段の倍用意しないと」

 「倍……」

 加賀の形の良いきゅっとゆがむ。
アイネが加わった事で半分の人数なら普通に回す事が出来ている、その倍となると今のままでは相当厳しいだろう。

 「大丈夫、私に考えがあるから」

 「ん、なら明日はとりあえず買い出しだね」

 特に気負うでもなく、なんともない事であるように大丈夫と言い切るアイネ。
 余裕そうにチョコをぱくつくその姿を見て加賀も萎えそうになった気持ちを立て直す。

 (……たぶんあれだろなー)

ここひと月アイネと共に過ごしその力を間近で見ていた加賀。
アイネの言う考えとやらに心当たりがあったのだ。

 「何とかなりそうなら良かった……」

 相変わらず従業員確保できていない事に頭を悩ましていたバクス。
 何とかなりそうと聞いて安堵した様子を見せる。

 「しかしあれだな、アイネさん」

 「なにかしら?」

そして話題を変えるように手に持ったフォークをしげしげと見つめアイネに話を振るバクス。

 「うまいなこのケーキ」

 「そうね、思ってた以上に美味しく仕上がった。お酒との相性も良さそうだし、ほかにも色々作れると思う……仕入れて本当に良かった」

 夕食の饅頭を食べ終わったみんなの前に並ぶのは、チョコをふんだんに使った菓子。
バクスが食べているのは恐ろしく濃厚に仕上がったガトーショコラである。
ケーキを一口食べ、ホットミルクを飲んでほっと一息。大分気に入った模様である。

ケーキを作った本人であるアイネも予想以上の出来映えに満足し、他人の評価も上々とあってその顔にはうっすら笑みが浮かんでいる。

テーブルの上にはまだまだチョコを使った菓子が並んでいる、甘いものは別腹と言う事で食べる手もなかなか止まりそうにない。当分の間このお茶会は続きそうだ。



 「お、加賀ちゃん戻ってたのか!」

 「はい、昨日戻ってきましたー」

そうかそうかと嬉しそうに奥から商品を大量に引っ張りだしてくるハンズ。

 「ほれ、そろそろ戻るだろうってんで商品きっちり仕入れておいたぞ」

 「おー……鶏肉大量にウォーボアのお肉もいっぱい、卵も……あ、鶏ガラもありがとうございます。これ全部買いますね」

 全部買いますと聞いてあいよと返事をし、そのまま固まるハンズ。

 「えっ、ぜ、全部? 全部買うの?」

 「買います、人数増えそうなのでー」

 「おお、なるほど」

ぽんと手を打ち納得いったとばかりに頷くハンズ。
そう言う事ならと用意した食材を全て袋に詰め込んでいく。

 「結構な量になるけど大丈夫かい? 他の店も……ああ、一度荷物置きにいけばいいか」

こくりと頷いて代金と引き換えに荷物を受け取り……そしてそのままアイネに渡す加賀。
 肉類がたっぷりと詰まったそれは加賀にとっては重すぎたようである。


 「荷物多いとちょっと大変だね、毎回荷物置きに行かないと……」

 「持てなくは無いのだけどね」

 加賀にとっては重すぎるその荷物もアイネにとってはまったく苦にならない重量である。
 必要な食材を全て買って持ったとしてもまだまだ余裕のはず、ただ外見上非常によろしくない事になる。

 「うーちゃんが戻ったとしてもちょっと無理かなあ」

 「荷車か何か買おうか、毎日買いに行くんだもの持ってて損はないよ」

 「そうだね……うん、そうしよっか」

とりあえず荷車を買う事を検討しつつ買い物を終わらせた二人。
 宿へと戻ると何やら中が騒がしい事に気が付いた。

 「んん? もしかして帰ってきたかな?」

 「そうみたい、聞き覚えのある声がする。聞き覚えのない声もあるけど」

 「たぶん残りのメンバーだろねー」

 騒音の正体はやはりというか帰ってきた八木達であった。
 荷物をかかえ食堂の扉を開くと一月ぶりに見るみんなの姿と、見覚えのない人たちの姿があった。

うー!(かがー、もどったぞい!)

 「うーちゃんお帰り! んんぅ……」

うー(ぎょええぇ)

 扉を開けるなり加賀に駆け寄るうーちゃん。
 加賀はうーちゃんにぎゅっと抱き着くとそのままお腹に顔をうずめぐりぐりしだす。

 「……うーちゃんやっぱ痩せたね」

うっ(ゆうはんたのしみにしとるでの)

 「ん、まかせなさい。たっぷり作ってあげるよー」

 抱き着いた感触からやはりと言うかうーちゃんは分かれる前よりも大分痩せていた。
ぱっと見はそこまで変わらないが毛皮の中身のもっちり感が少なくなっていたのだ。
ふと、そこで皆の視線が集まっていることに気が付いた加賀、慌ててうーちゃんから離れると皆へも声をかける。

 「おかえりなさい」
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

湖畔の賢者

そらまめ
ファンタジー
 秋山透はソロキャンプに向かう途中で突然目の前に現れた次元の裂け目に呑まれ、歪んでゆく視界、そして自分の体までもが波打つように歪み、彼は自然と目を閉じた。目蓋に明るさを感じ、ゆっくりと目を開けると大樹の横で車はエンジンを止めて停まっていた。  ゆっくりと彼は車から降りて側にある大樹に触れた。そのまま上着のポケット中からスマホ取り出し確認すると圏外表示。縋るようにマップアプリで場所を確認するも……位置情報取得出来ずに不明と。  彼は大きく落胆し、大樹にもたれ掛かるように背を預け、そのまま力なく崩れ落ちた。 「あははは、まいったな。どこなんだ、ここは」  そう力なく呟き苦笑いしながら、不安から両手で顔を覆った。  楽しみにしていたキャンプから一転し、ほぼ絶望に近い状況に見舞われた。  目にしたことも聞いたこともない。空間の裂け目に呑まれ、知らない場所へ。  そんな突然の不幸に見舞われた秋山透の物語。

処理中です...