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145話 「ドラゴン再び」
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どの様な会場にするかも決まり、街の中心部で会場の建設が始まった頃。
加賀が何時も通りパン屋の隣で屋台を出していた。祭りで出すメニューの決まり近所の知り合いや屋台の常連で集まっての試食会も終わり、あとは祭りが始まるのを待つだけの為だ。
「ありがとうございましたー」
寒い時期なのに、いや寒い時期だからだろうか。体が温まるメニューを中心とした加賀の屋台の売れ行きは中々に好調であった。
「ん、もうそろそろ売り切れかな。今日は早めに戻れそーだね?」
うー(あまったらほしかったんに)
どうもうーちゃんは余りものを頂いてしまおうと狙っていたようだ。思惑がはずれ少し落ち込むうーちゃんを戻ったら他の作ってあげるからと慰める加賀。
そんな感じでいつも通り屋台で仕事をしていた加賀であったが、そこに横から声を掛けるものがいた。
「加賀ちゃんちょっといいー?」
パン屋の店主オージアスである。
そのいかにも人殺しといった雰囲気と危ない目つきをしたこの男であるが、話してみると割と気さくで良い人だったりする。
そんなオージアスだが、珍しく加賀に用事あったようで店を抜け出して屋台の元へと来ていた。
「あ、オージアスさんどもですー。今お客さんいないですし、だいじょぶですよー」
ちょうど客が途切れた所であり加賀はすぐに承諾すると手近にあった椅子をオージアスに進める。
お、わるいねと言って椅子に腰かけたオージアスであるが、いつ次の客が来るか分からない事もあってすぐに本題に入り出した。
「んでね、ちょっと加賀ちゃん……というか例の人ら全員に聞きたいことがあってさ。ダンジョン出来たこともあって人が増えたっしょ? この街」
「ん、そうですね。倍ぐらいにはなったんでしたっけ?」
屋台の常連さんがそんな事も言っていたのを思い出す加賀。実際倍と言われても違和感がないぐらい人は増えており、実際その程度は増えているのであろう。
「だいたいそんなもんだね。で、人が増えると食料がその分必要になるわけで……幸いここの国は小麦の生産量があほみたくあるからさ、そこは何とかなるわけよ」
「ふんふん?」
オージアスの話を聞いて、ならば何が問題なのだろうかと頷きながらも首をかしげる加賀。
「問題は小麦を精製する設備が足らない事なんだ。んで、足らないなら作っちまえってことになって、せっかくなら何か良い案はないか聞いてみたらってなったんよ」
「へー」
「そんなわけで、全員の都合が良い日あれば教えて欲しいんだけどいいかな? あ、もちろん後日でいいよー」
「ん、それぐらいなら問題ないですよん。夜にでも聞いて明日連絡しますねー」
よろしく、と言ってパン屋に戻るオージアス。加賀もあらたな客が来たのでその対応へと戻る。
そして普段通り屋台の料理は全て売り切れとなり、がっくりするうーちゃんと共に後片付けを始める。
そんな普段通りの光景が流れるなか、ふと人々の間にざわめきが広がっていく。
「んー?」
何かあったのだろうかと加賀が視線を巡らせると、大通りを歩く3人のリザートマン達の姿が見えた。
それを見てあれ?と首を傾げる加賀。リザートマン達がこの街にくるようになってからそれなりに立っている、当初は3人そろって歩くリザートマンを見た人々の中には驚きの声を上げるものも少なくなかった。だが今となっては時折じろじろ見る人がいるぐらいで、特に騒ぐような事はおきて無かったのだ。
つまりこのざわめきの原因は彼らではないと言う事になる。ならば一体何が、と目を細めこらす加賀の視線がある人物をとらえる。
「うげっ」
思わず声をあげてしまう加賀。
視線の先にいたのは見知った人物であった。というか人ですらない……汽水湖に居た例のドラゴンであった。
なお、加賀は別にドラゴンがいたから変な声を上げたわけでは無い。問題は彼の格好にあった。
「もう冬なのに……」
もちろん裸という訳ではない、事前に言われていた事もあり彼はきっちり服を着こんでいた。ただし夏でも早々着ないぐらいの薄着ではあるが。
もちろんこの時期にそんな恰好をしていれば周りの人々から奇異の目で見られるのは当然である。
「どうしよう、急に関わりたくなくなってきた」
そう口にしながらも手はせわしなく屋台の片付けを進めていく。
見つかる前に宿に戻ろうと必死なのである。
だが、無情にも彼の視線はばっちり加賀を捉えてしまっていた。
「やあ、加賀殿! お久しぶりですなあ」
「ど、どうも……あの、寒くないんですか?」
加賀にむかい話しかけるドラゴン。その顔はこれから食べる料理への期待から眩いばかりの笑顔が浮かんでいる。
こうも堂々と話し掛けられては加賀としても無視する事など出来るわけもなく、ひどく冷めた視線でお前の格好おかしいぞと全力で訴えつつ、言葉はオブラートに包み応対する加賀。
だが、浮かれたドラゴンにはそんな事は伝わらなかったようである。
「寒い? いやはは、ご心配には及びませんぞ! 人間ならいざ知らず、何せ吾輩はドラごむぐぉうっ」
「ちょっと、宿で話しましょうか。うーちゃんそれ持ってきて」
いきなり自らをドラゴンんだと明かそうとした彼の口に思いっきりお玉をつっこむ加賀。
うーちゃんにドラゴンを運ぶよう伝えるとそそくさと宿へ撤退するのであった。
加賀が何時も通りパン屋の隣で屋台を出していた。祭りで出すメニューの決まり近所の知り合いや屋台の常連で集まっての試食会も終わり、あとは祭りが始まるのを待つだけの為だ。
「ありがとうございましたー」
寒い時期なのに、いや寒い時期だからだろうか。体が温まるメニューを中心とした加賀の屋台の売れ行きは中々に好調であった。
「ん、もうそろそろ売り切れかな。今日は早めに戻れそーだね?」
うー(あまったらほしかったんに)
どうもうーちゃんは余りものを頂いてしまおうと狙っていたようだ。思惑がはずれ少し落ち込むうーちゃんを戻ったら他の作ってあげるからと慰める加賀。
そんな感じでいつも通り屋台で仕事をしていた加賀であったが、そこに横から声を掛けるものがいた。
「加賀ちゃんちょっといいー?」
パン屋の店主オージアスである。
そのいかにも人殺しといった雰囲気と危ない目つきをしたこの男であるが、話してみると割と気さくで良い人だったりする。
そんなオージアスだが、珍しく加賀に用事あったようで店を抜け出して屋台の元へと来ていた。
「あ、オージアスさんどもですー。今お客さんいないですし、だいじょぶですよー」
ちょうど客が途切れた所であり加賀はすぐに承諾すると手近にあった椅子をオージアスに進める。
お、わるいねと言って椅子に腰かけたオージアスであるが、いつ次の客が来るか分からない事もあってすぐに本題に入り出した。
「んでね、ちょっと加賀ちゃん……というか例の人ら全員に聞きたいことがあってさ。ダンジョン出来たこともあって人が増えたっしょ? この街」
「ん、そうですね。倍ぐらいにはなったんでしたっけ?」
屋台の常連さんがそんな事も言っていたのを思い出す加賀。実際倍と言われても違和感がないぐらい人は増えており、実際その程度は増えているのであろう。
「だいたいそんなもんだね。で、人が増えると食料がその分必要になるわけで……幸いここの国は小麦の生産量があほみたくあるからさ、そこは何とかなるわけよ」
「ふんふん?」
オージアスの話を聞いて、ならば何が問題なのだろうかと頷きながらも首をかしげる加賀。
「問題は小麦を精製する設備が足らない事なんだ。んで、足らないなら作っちまえってことになって、せっかくなら何か良い案はないか聞いてみたらってなったんよ」
「へー」
「そんなわけで、全員の都合が良い日あれば教えて欲しいんだけどいいかな? あ、もちろん後日でいいよー」
「ん、それぐらいなら問題ないですよん。夜にでも聞いて明日連絡しますねー」
よろしく、と言ってパン屋に戻るオージアス。加賀もあらたな客が来たのでその対応へと戻る。
そして普段通り屋台の料理は全て売り切れとなり、がっくりするうーちゃんと共に後片付けを始める。
そんな普段通りの光景が流れるなか、ふと人々の間にざわめきが広がっていく。
「んー?」
何かあったのだろうかと加賀が視線を巡らせると、大通りを歩く3人のリザートマン達の姿が見えた。
それを見てあれ?と首を傾げる加賀。リザートマン達がこの街にくるようになってからそれなりに立っている、当初は3人そろって歩くリザートマンを見た人々の中には驚きの声を上げるものも少なくなかった。だが今となっては時折じろじろ見る人がいるぐらいで、特に騒ぐような事はおきて無かったのだ。
つまりこのざわめきの原因は彼らではないと言う事になる。ならば一体何が、と目を細めこらす加賀の視線がある人物をとらえる。
「うげっ」
思わず声をあげてしまう加賀。
視線の先にいたのは見知った人物であった。というか人ですらない……汽水湖に居た例のドラゴンであった。
なお、加賀は別にドラゴンがいたから変な声を上げたわけでは無い。問題は彼の格好にあった。
「もう冬なのに……」
もちろん裸という訳ではない、事前に言われていた事もあり彼はきっちり服を着こんでいた。ただし夏でも早々着ないぐらいの薄着ではあるが。
もちろんこの時期にそんな恰好をしていれば周りの人々から奇異の目で見られるのは当然である。
「どうしよう、急に関わりたくなくなってきた」
そう口にしながらも手はせわしなく屋台の片付けを進めていく。
見つかる前に宿に戻ろうと必死なのである。
だが、無情にも彼の視線はばっちり加賀を捉えてしまっていた。
「やあ、加賀殿! お久しぶりですなあ」
「ど、どうも……あの、寒くないんですか?」
加賀にむかい話しかけるドラゴン。その顔はこれから食べる料理への期待から眩いばかりの笑顔が浮かんでいる。
こうも堂々と話し掛けられては加賀としても無視する事など出来るわけもなく、ひどく冷めた視線でお前の格好おかしいぞと全力で訴えつつ、言葉はオブラートに包み応対する加賀。
だが、浮かれたドラゴンにはそんな事は伝わらなかったようである。
「寒い? いやはは、ご心配には及びませんぞ! 人間ならいざ知らず、何せ吾輩はドラごむぐぉうっ」
「ちょっと、宿で話しましょうか。うーちゃんそれ持ってきて」
いきなり自らをドラゴンんだと明かそうとした彼の口に思いっきりお玉をつっこむ加賀。
うーちゃんにドラゴンを運ぶよう伝えるとそそくさと宿へ撤退するのであった。
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