異世界宿屋の住み込み従業員

２１５話 「委託品」

オージアスを送り出した数日後、業者の回答を携えた彼と加賀達は宿の食堂で対面していた。
テーブルの上には書類がいくつか置かれており、そのうち数枚を加賀達が手に取りほーっといった表情で眺めている。

「つーわけで３日後にサンプル見せる事になったからさ、その時までにサンプル用意してもらっても良いかな？」

加賀達がざっと書類を見終わり内容を理解したところでオージアスが口を開く。

「そりゃ勿論いいよー。何人分用意すればいいー？」

見ていた書類をひらひらと動かしそう答える加賀。
普段から宿の大食らい連中の食事を用意している加賀であるが、あまり大人数分用意するとなるとそれなりに手間となる。場合によっては日付を変更してもらう必要がある、そう思い用意する量はまず確認を行う。

「そうだなあ。人数は１０人ちょいだから……各２人前ぐらいか？」

「あ、そのぐらいでいいんだ」

用意する量はさほどでは無かったようだ。
サンプルで用意するものであって昼食を用意するとかそう言ったわけでは無い、あくまで味見用なのだ。
加賀は少し拍子抜けしたように粒やくがオージアスは軽く肩をすくめて見せる。

「そりゃそーよ。宿のお客さんはむっちゃ食うだろうけど、味見だし普通の人はそこまで食わんからね？」

「そういやそうだった！」

ぽんと手を叩く加賀であるが、どうも普段宿の皆を見ていたせいで感覚がおかしくなっているようだ。
屋台も一人で何人前も平らげる人……と言うか実はアイネ以外のノーライフキング達であったりするが、ともかく加賀の周りにはどうも大食らいが多いのである。

「ま、そんな訳で報告終わりっと。業者さんもそれなりにやる気みたいだし連中の興味引けそうなのお願いするよ」

オージアスはそう言い残すと書類を置いて宿を出て行く。
加賀達は３日後に備えてどんな料理を作るか知恵を絞る事となる。



「んで結局何作ることにしたん？」

そして仕事をしながらとなると３日過ぎるのはあっと言う間であった。
サンプル用の料理が大体出そろったあたりで厨房をひょいと除いた八木が調理中の加賀へと声を掛けていた。

「んー……割と簡単なのでいいかなーと思って……こんな感じ」

「おー、美味しそうじゃん。なんか遠足のお弁当の中身って感じだな」

料理をつめた容器をはい、と八木に見せる加賀。
容器の中身は八木が遠足のお弁当の中身といった様に弁当によく入っている定番のものが多い様である。

「まぁ、確かに。ただ単に食べやすいの選んだつもりなんだけどねー、弁当ぽいっちゃ弁当ぽい。弁当にしてはちょいとデザートが豪華だけど」

「良いんでない？　全部定番メニューだけど初めて食う人には丁度よかろ」

基本業者に製造を丸投げしたいものを使った料理となり、加賀はケチャップやウスターソース、アイネはカカオを使った料理を用意している。
季節的に新鮮な野菜をあまり用意できない事もあって、色彩があまりよろしくは無いがそれは先方も理解しているので問題は無いだろう。

「そんな訳でこれサンプルです」

八木に見せていた容器の蓋をしめてオージアスに手渡す加賀。
彼はこの後ギルドへと向かい、そこで業者との打ち合わせを行う事となる。

「お、おう、加賀ちゃんあんがとな……その、すごい顔なってんでそのへんで……」

「だめ。うーちゃんに食われない内にほら、出発してー」

うー（はなちてー）

加賀から料理を受け取ったオージアスであるがどうも表情が引きつっている。
彼の視線の先では料理にふらふらと引き寄せられたうーちゃんを止める為、両耳をぎゅいっとつかんだ加賀鵜方があった。
両耳を頭上でたばねられたせいでうーちゃんの顔は中々すごい事になっている。

「おう……そ、そんじゃまた」

うーちゃんの視線からそそくさと逃げるように宿を出るオージアス。
今回加賀達が用意したものはオージアス自身も使いたいと思っているものである。きっとその凶悪な顔を生かしてきっちり話をまとめて来る事だろう。