異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

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232話 「到着」

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夕方になる少し前、二人を乗せたソリはシグトリアの街まで無事辿り着いていた。

「じ、地面……」

ソリから降りるなりがくりと地面に手をつき項垂れる加賀。

「大丈夫?」

「……だいじょばない」

それを見たアイネが心配そうに声をかけるがどうもダメそうである。
アイネの魔法にいって街道をすっ飛ばしてきたソリであったが、シグトリアへの道中は全てが平坦な道と言うわけではない、ごくまれにちょっとした段差があったり。吹きだまりとなった雪で盛り上がっていたりする所だってあるのだ。
そんなところに高速でソリが突っ込むとどうなるかと言うと、文字通り空を飛ぶのだ。
そんなわけです長時間ソリに縛り付けられた状態で乗っていた加賀はすっかり腰が抜けて立つに立てなくなっていた。

「ん……じゃ、城まで運んであげる」

「うぇっ!? ま、待って! 自分で歩くからっ」

立てないで居る加賀にすっと手を差し出すアイネ。
さすがに城までずっと抱きかかえられたままと言うのは勘弁願いたい。そう思いなんとか立ち上がろうとした加賀であったが、その足は生まれたての子鹿のようにぷるぷると震えている。

「……無理でしょ。あまり遅いと門が閉まるから我慢してね」

少しだけ見守っていたアイネであるがすぐに無理と判断したようだ。加賀をひょいと抱えると城へと向かい歩を進めるのであった。


「ついたよ……加賀?」

程なくして城へと辿り着いた二人。
ついた事を加賀に伝えるアイネであるが加賀は黙ったまま動こうとしない。

シグトリアの街はたとえ冬でも人通りがかなり多い。
そんな中を人を抱えて歩くアイネの姿はかなり目立っていた。
そして当然ながら抱えられていた加賀も目立つわけで、人々の視線にさらされ続けた加賀は顔を押さえ恥ずかしそうにぷるぷると震えていたのだ。

「何て羞恥プレイ……もうお嫁にいけない」

「嫁?」

「言葉の綾ですー」

しばらくして再起動した加賀。
とぼとぼとお城の中へ入っていくのであった。


「加賀、疲れているところ悪いのだけど少しだけ手伝っては貰っていい?」

「あいあい」

色々と精神的に疲れた加賀を休ませようとその日の夕食はアイネが作ることになった。
だが完全にアイネ一人で作ると今度はつくった本人が食べられなくなる、なのでどうしても少しだけ加賀が手伝う必要が出てくる。

「出来たよ。食べようか」

「蟹だー!」

とは言え手伝うのは本当にほんの少しである。
加賀が手伝ったのはパスタを茹でる程度であり、それ以外にはノータッチであった。なのでアイネが何を作っているかはしらなかった加賀は完成した料理に蟹が使われていると分かって大喜びである。
どうも蟹は加賀の好物らしい。

「城の料理長にもらったの。今時期がおいしいんだって」

「うんうん、やったね蟹大好き」

蟹は城の料理長から頂いたものであった。
今ぐらい旬で有り、久しぶりに戻ったアイネに食べて貰おうと提供してくれたのだ。

「そう、なら良かった……ん、美味しいね」

「うまうま」

アイネが作ったのは蟹のクリームパスタであった。
蟹のうま味たっぷりのクリームがパスタに絡み合い、見た目も味も満足のいく出来栄えである。

「汽水湖でもとれるといいのにねー」

パスタを平らげ満足そうにペロリと唇を舐める加賀。
久しぶりに食べた蟹はとても美味しかったようでニコニコと笑みを浮かべている。
様々な魚介類が手に入る汽水湖であるが、どうも蟹だけはあまりとれないらしい。

「あまり居ないんだったね」

「西の方にいけば取れるみたいだけどね。ちょっと遠いから無理っぽい」

リザートマン達の住処から西へ行けばとれるようだがそこは彼らの縄張り外であるし、距離も遠い。なので基本蟹は手に入らない感じであった。

「明日買いまくるっぞー」

だがここでは蟹もたくさんとれる。
きっと明日市場に行けば大量の蟹をゲットする事が出来るだろう。自然と加賀にやるきがみちてくる。

「そうね。今時期なら痛むことも無いでしょうしソリに積めるだけ……デーモンにもたせればもっと?」

「さすがに冬の寒空の下でそれは……」

少し暖かくなってきているとは言えさすがに冬に荷物もたせて空飛ばせるというのは気が引ける加賀であった。
もっともデーモンの役目は姿を消して加賀の護衛をする事であり、現にここに来るまでずっと寒空の下空を飛んでいた訳ではあったりするのだが。

「そうね……冗談よ?」

「ほんとにぃー?」

加賀から視線を逸らし、冗談よというアイネ。
多分冗談ではなかったのだろうが、とりあえずデーモンの危機は去った模様である。
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