異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

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308話 「街外れの塔」

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「うー……さむっ」

そろそろ雪がちらつきそうな時期。
高く組まれた骨組みの上で八木は時折吹く風に身を震わせていた。

「この時期に吹き曝しのとこはきついなあ……ん?」

手をさすり風に背を向け寒さに耐えていた八木であったが、たまたま向いた方向の先、森の中にぽつんと塔が建っているのを見てあれ? と首を傾げた。

「どうかしたんすか?」

仕事仲間のモヒカンが八木の様子を見て声をかける。
八木はモヒカンにも分かるよう塔の方を指さすと、モヒカンに問いに応える。

「いやあ、あんな所に塔あったっけ?」

ひょいと八木の肩越しに塔を見やるモヒカン。
軽く肩をすくめると口を開いた。

「さあ……こんな高い建物久しぶりっすからね。 前からあったかもですよ?」

「そうかもなあ……うぅっ、やっぱさみい! 早く終わらせようぜ」

今八木達が手がけている建物は三階建てと普段扱っている建物よりも高めである。
たまたま高いところに登ったので塔が見えたのかも知れない、そう考えたところでまた強い風が八木達を襲う。
体を動かせば温かくなるだろう。八木は塔のことを頭の片隅に追いやると作業を再開するのであった。


そしてその日の夕方。
宿の食堂でテーブルについた八木の前にコトリとジョッキが置かれる。
ジョッキの中身は並々と注がれた黄金色のビールである。

「ほい、もう寒い時期だけど……本当にビールでいい?」

「おうよ。 外は寒いけど宿の中は暖かいからな」

時期的にもう冬である。
他の者はビール以外を頼むことが多くなっており、一応これでいいのかと確認する加賀。

「ふぅー……うま」

だが仕事を終え、風呂上がりであるのと部屋の中はきっちり暖房が効いているため、八木は冬でもビールで問題ないようだ。
一気にジョッキの中身を半分ほどにすると美味しそうに息を吐く。

「お仕事の調子はどー? ちょっと大きめの仕事入ってるんでしょ?」

もしゃもしゃと揚げた芋を食べながら八木に話しかける加賀。
ちなみに揚げた芋は八木のおつまみである。

「おう、順調よ。 雪が積もる前にゃ完成すんでねーかな?」

「そりゃ良かった」

加賀からひょいと皿を取り上げ芋を口に放り込む八木。
ごくりと飲み干すと加賀の問いに答え、再びビールをあおる。

「特にトラブルもねーし……」

「ん?」

トラブルもないと言いかけたところで八木の動きがピタリととまる。
どうかしたのだろうかと八木を見つめる加賀。その手はお皿に伸びていた。

「ああ、いやトラブルじゃねーんだけど。 今日3階部分の作業してたらさ、何か遠くの方に塔があってさー」

皿を頭上に掲げ今日仕事の際に見た塔のことついて話す八木。
そして塔について話した瞬間、さきほどまで賑やかだった宿の食堂がシンと静まり返る。

「あれ何なの……かな、って……皆どったの?」

急に静かになった周りに不安そうに伺う八木。
頭上の皿にはもふもふした手が伸びている。

「その塔は最近出来たものかの?」

「あーいや、どうなんすかね? 気が付いたのは今日だけど前からあったかも知れねーです」

真面目な表情で問いかける探索者を前にして八木は姿勢を正すと空になった皿を置いて質問に答えていく。

「ふむ……」

「……あの、何か不味いんですか?」

「ええ……不味いかも知れません」

周囲から話を聞いた探索者達がヒソヒソと会話する声が聞こえてくる。
八木は居心地悪そうに身を竦めると、じっと考え事をしていたアルヴィンへと声をかける。

「街の外れに突如現れた塔。 それは吸血鬼の根城である可能性が高いのですよ」

「吸血鬼ってあの?」

吸血鬼と聞いて反応を示す加賀。

「おや、ご存知でしたか」

「うん。 あ、でも実際に居るわけじゃなくてお話しの中だけの存在、かな?」

少し意外そうな表情を浮かべたアルヴィンに加賀は物語の中だけに存在であることを伝える。
アルヴィンはなるほどと頷くと話を続ける。

「ちなみにどの様な存在なので?」

「えーっとね……」

加賀の世界の吸血鬼に少し興味を持ったのだろうか。加賀はアルヴィンの問いに答えるべく記憶を掘り起こしながら自身の知る吸血鬼について、時折八木の話も交えながら語っていく。

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