異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

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307話 「マッサージ」

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秋も深まり徐々に肌寒くなってきた頃、宿の厨房で加賀が何やらゴソゴソと箱を棚にしまっていた。

「んっし、こいつで最後っと」

季節が変わり使わなくなった道具をしまっていたのだ。
年中通して使う物もあるが、かき氷器など特定の時期にしか使わない物もある。

「ふぐっ!?」

そして最後の一つ、ずっしりと重そうな箱を持ち上げようとした時であった。
加賀の腰にびきりと痛みが走る。

「んぐぐぐぅぅ……」

「加賀、どうしたの?」

箱にもたれ掛かり身動きできずにいる加賀。
異変に気が付いたアイネが心配して見に来たようだ。

「こ、腰痛めた……い、いだだだっ」

「重いものを持つときは呼んでくれれば良いのに……大丈夫? ポーション探してくるよ」

そういってソファーに加賀を静かに乗せるとアイネはポーションを探しに食堂を出ていく。

「あー腹減った。 よっとたっだいまー!」

アイネと入れ替わるように昼休みになった八木が昼食を求めて宿へと戻ってくる。
何時もであれば食堂に入れば美味しそうな匂いが漂っている、だが今日はそ特に匂いが漂っていることもない。
あれ? と首を傾げた八木、その視界にソファーで俯せになる加賀の姿がうつった。

「あん? どうした加賀?」

近寄ってきた八木を顔を少し上げて確認した加賀。
動くのは辛いのだろう、そのままの姿勢で何があったかを話し始めた。

「腰痛めたと。ぎっくり腰か?」

「うにゃ、筋痛めただけだと思う……」

幸いにも加賀はぎっくり腰ではないようだ。
とは言え痛いには変わりなく、痛みが引くまでは身動きできそうにない。

「なるほど。 んでアイネさんがポーション探しに行ったと……なかなか戻って来ないな?」

「中ぐらいのポーションがあまり無いみたいでねー探すのに手間取ってるぽい……良いポーションならいっぱいあるんだけど腰痛に使うのはねえ?」

良いポーションは探索者達から譲って貰ったりと結構な在庫がある。ただ逆に品質の少し落ちたポーションとなるとあまり在庫がなかったりするらしい。

本来大怪我した時に使うポーションであり、腰の筋をちょっと痛めただけで使うのは加賀も気が引けたようだ。当初良いポーションを使おうとしたアイネを止め、探しに行ってもらったのだ。

「まあそりゃな……おし」

「え、なに? なにするの??」

ソファーでぐでんとしている加賀を見ていた八木であったが、膝をぱしんと叩くと立ち上がり、加賀へと近付いていく。
急なその行動に警戒する加賀であるが、いかんせん腰が痛い。ただ身をよじる事しか出来ないでいた。

「マッサージすんだよ。 別に変なことしねーっての」

呆れたように息を吐く八木。
加賀に向かいそう言うと袖をぐいとめくる。

「八木っていろいろ出来るよね……」

転生前も転生後もこの一見すると脳筋にしか見えない八木であるが、色んなものを高レベルでこなせたりと優秀だったりする。

「まあ、資格とかは持ってないけどな」

「え」

その辺は加賀も理解している。だが資格持ってない等と言われれば不安になるものである。

「よっと、このへんか?」

ぴしりと固まる加賀をよそに八木は加賀の服をぺろりとめくり、ぐいと腰を押す。

「ちょ、八木。 い、いいよ! ほら、アイネさんがポーション持ってきてくれるし、ね?」

「却下だ」

「ふぎゃー!」

加賀の懇願もむなしく、食堂に加賀の悲鳴が響くのであった。


「八木のばーか!ばーか!」

「痛み治まったべ?」

「最初痛かったしっ」

涙目で八木をべしべしと叩く加賀。
八木は対した気にした様子も見せず茶を飲んでいる。
ソファーに寝そべっていたのが起き上がっているあたり一時的にせよマッサージの効果はあったようだ。


「んあ? おいおいそんなんまた腰痛くすっぞ? ほれ、どいてみ持ってやっから」

そして数日後、今度は食堂にて加賀が再び何やら大きな箱を持ち上げようとしていた。前回と違うのはそれに気が付いた八木が代わりに荷物を持とうとしたところだろうか。

「ん……ありがと。 でもそれ実は――」

八木に礼を言う加賀であったが、何やら申し訳なさそうに何かを言いかけ――

「よっ……おぉんっ!?」

――だがそれよりも先に八木が荷物を持ち上げ、膝から崩れ落ちるのであった。

「――あまり重くないんだ……だいじょーぶ?」

心配そうに八木の様子を窺う加賀であったが、返ってきたのうめき声のみである。

「ぐう……」

今度は八木が腰を痛めてしまう。
アイネは加賀の時と同様に八木をソファーに乗せると加賀が使ったポーションと同じ物を探しに向かう。

「ぎっくり腰ではなさそーね。 ……にひ」

八木の様子を見るためその場に残った加賀であったが、うつぶせになる八木を見て何かを思い出したように笑みを浮かべる。

「ねー、八木。 マッサージしてあげよっか?」

「あ? ああ、頼むわ」

この前のお返し……もといお礼をしようとする加賀。
てっきり断られるかと思った申し出に、八木は頼むとあっさり言うのであった。

「……てい」

「? そこじゃないぞ、もっと下なー」

頬をぷくりと膨らませ、八木の腹をつつく加賀。

「あいあい」

悪戯心もあったが、心配していたのも確かである。
加賀は八木に言われた箇所をぐいぐいと手でマッサージしだす。

「……どお?」

しばらくの間ぐいぐいと力を込めていた加賀であったがどうにも八木の反応がない。
気になった加賀は八木の顔を覗き込み、マッサージの具合をたずねる。

「全然効かない」

力が弱いのだろう、加賀のマッサージは全然効いてなかったらしい。

「えー……これでどお?」

それならばと片手のみに体重をかけマッサージをする加賀。
これなら効果があるだろうと八木へ再び尋ねるが、八木は首を横に振るのであった。

「効かないなあ」

「えぇ……」

片手のみに体重をかけてもダメとなると加賀はどうして良いか分からず手を止めてしまう。

「あれだ、もう上乗って踏んでくれりゃいいよ」

「踏んでほしいとか……やだ変態」

「何言っとるんだお前は……」

軽口を言い合い、加賀は靴を脱ぐ。
そしてソファーに足を掛けたところで、ふと動きを止めた。

「冗談だよ。 ……ん、靴下脱いだ方が良い?」

「…………どっちでも」

「その間はなに……よっと」

加賀としては何となく聞いたことであったが、思いの外八木は悩んでいた。
加賀は少し思巡し、結局靴下は脱ぐことにしたようだ。
脱いだ靴下を靴の上に放り、ソファーの上へとあがると八木の背へとそっと足を乗せた。

「おっ、っふ……も、もうちょい上」

「ん」

さすがに軽いとはいえ加賀一人分の体重が掛かるとそれなりに効果があるようだ。
呻くように息を吐く八木。その指示に従い加賀は足踏みしながら徐々に位置をずらしていく。

「お、お、お……そこそこ、ふぅんっ」

「……」

うめき声というよりかあえぎ声を上げる八木。
加賀の表情が徐々に消えていく。
それでも加賀が足踏みを続けていると、部屋の扉がガチャリと音をたて開く。
そこにはバクスと燻玉をほお張るうーちゃんの姿があった。

「お前ら何を……」

「八木が腰痛めたの……」

「そうか……」

タイミングが良いのか悪いのか、燻製小屋から戻ったバクスはソファーで俯せになる八木、そしてその上に乗る加賀を見てきゅっと眉をひそめる。
どうもバクスはこういった二人の変な場面を見ることが多い。

うー(ちょいちょい)

ふいにうーちゃんが加賀の裾をぐいぐいと引っ張る。
加賀の行動に興味を持ったらしくじっと足踏みするのを見つめていた。

「ん、なになに。 うーちゃんもやりたいの?」

「ヤメテェッ」

加賀の言葉にぶんぶんと頷くうーちゃん。
その様子を横目で見ていた八木から悲痛な叫びがあがる。
出会った頃のうーちゃんならともかく、今の巨大化したうーちゃんが八木の背に乗れば冗談ではなく骨が折れかねない。

「ほら、八木ほんとに腰痛めてるから、ね? また元気なときに踏んであげてね?」

「元気なときでも嫌だよっ」

「ちょ、動かないでっとあ!?」

例え元気なときでも乗られてはたまったものではない。
思わず身動ぎした八木であったが、上に乗っていた加賀はバランスを崩し――

「ふぅんッ!!???」

――八木の尻を踏み抜いた。

「なんかぶぎゅるって感触が……ご、ごめん」

「何て惨いことをしよる……」

踏み抜いた先にあったのは果たして何であったのか。
その光景を見ていたバクスは無意識のうちに内股になっていた。

「ポーションあったけど……?」

ポーションを手に食堂へと入ったアイネ。
目の前の惨状を見て、何があったのかをすぐ察したらしい。
上級が必要かな、と呟き再び食堂を出ていくのであった。
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