異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

文字の大きさ
308 / 332

306話 「ダンジョンと温泉と おまけ」

しおりを挟む
男共がむさくるしい場面を繰り広げる中、女湯では宿の女性陣が時を同じくして脱衣所の扉をくぐっていた。

「わーひっろいねー!」

「走ると転ぶよ?」

入るなりタオル片手に駆け出すシェイラ。
後から来るその他の女性陣は落ちつたものである。

「あらまあ、すごく広い温泉ねえ」

「温泉……?」

のほほんとした感想を述べる咲耶。
だが周りのものは温泉と聞いて首を傾げている。

「確かに滑り台もあるし、普通の温泉とは違うわねえ……子供が喜びそう」

普通の温泉には滑り台などないだろう。
岩が一部滑るのに適した形になっていたり、といった事はあるかも知れないが。

「うーちゃんとシェイラが突っ込んでいったけど」

「……大人が楽しんでもいいと思うの」

「咲耶さんちょっと間があったよっ」

滑り台に真っ先に向かったシェイラとうーちゃん。
子咲耶はうっとした表情を一瞬見せる。子供が喜びそうといったとたんに二人が突っ込んでいくとは思わなかったのだろう。
ソシエに突っ込まれるが咲耶はとりあえず笑ってごまかすことにしたらしい。


「咲耶さんのそれ、そこにあったんだ……」

十分遊んだところでいったん温泉からあがり体を洗い出した女性陣。
洗いながら隣へとシェイラがちらちら視線を向けている。

「紋様? 私は足首から膝にかけてなのよね」

神の落とし子にある紋様が気になっていたようだ。
咲耶は普段素足を見せないようにしているのと従業員だからという理由で他の者と風呂の時間をずらしている。その為紋様がどこにあるかは本人以外知らなかったりする。

「人によってバラバラなんだー。 八木っちは背中だよね? 加賀っちはどこなんだろう」

「あの子は……どこかしらねえ」

「太ももから腰にかけてだね」

「っへー……?」

加賀はどこにあるのだろうかという疑問に答えるアイネ。
なぜ知っているのか、そんな疑問がシェイラの頭に一瞬浮かぶが、深く考えるのはやめたようである。


「……咲耶さんもアイネさんもスタイルいいよねー……あんなに食べてるのに」

話題は紋様からそれぞれのスタイルについて移っていた。
自分のお腹をさすりながら羨ましそうに咲耶とアイネに視線を向けるシェイラ。
なお、他の女性陣は視線は向けるものの羨ましそうにはしてなかったりする。

「私は掃除のあれがカロリーいっぱい消費するのよねえ」

「私は魔力消費すればいいだけだから」

「ずーるーいー」

咲耶はそれなりにしか食べないが、アイネの食事量は探索者達と遜色ない。
だがどれだけ食べようが魔力を消費すれば太ることはない、というよりも一部にしか栄養が行かない特殊体質のようなものなので比較しようがないのだが。

「あれから食べたいのセーブするようにしてるのに……」

じとーっと恨めしそうな目で二人を見るシェイラ。
咲耶は困ったように笑みを浮かべると、ちらりと温泉の奥へと視線を向ける。

「あら、それじゃお店で買うのはやめておく?」

「買うよっ! それとこれは別だもんねー」

温泉に入りながら酒を飲みつつ軽食をつまむ。
それをしないなんて選択はなかったのである。

屋台で軽食を買い、それぞれが口に含んだときであった。
アイネとうーちゃんの二人に電流が走る。

「…………」

うー(ヴぁー)

「ふ、二人ともどうしたの??」

ぷるぷると体を震わせる二人を見てぎょっとするシェイラ。

「……味がしない」

うー!(かーがー!)

涙目で料理をおくアイネ。
うーちゃんは水面をバシバシ叩き加賀の名を呼ぶ。
二人ともうっかり忘れていたが、加賀が手を加えなければ二人は食事をまともに取ることは出来ない。

「うーちゃんてばすっかり拗ねちゃって……」

可哀そうな視線を向けるその先には水面に仰向けになりぷかぷかと浮かぶうーちゃんの姿。

「さすがに男湯に行くのはね」

加賀を連れてくるのは論外であるし、アイネは食事するのは諦め、温泉を楽しむことに専念したようだ。
以前の骸骨のような姿であれば男湯に行けたかも知れない……いや、それはそれで別の問題はおきそうであるが。とにかく今の状態で男湯に行くのはさすがに憚られる。

「うーちゃんだけでも行けばいいのに」

「何か皆に見られるのが嫌なんだって」

「えぇ……普段からあの格好なのに?」

一方のうーちゃんは普段と同じ格好であるし、いっても問題ないかと思われたが本人はどうも男湯に行くのが嫌らしい。
結局そのまま夕飯まで二人は空きっ腹を抱える事になるのであった。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

【完結】辺境の魔法使い この世界に翻弄される

秋.水
ファンタジー
記憶を無くした主人公は魔法使い。しかし目立つ事や面倒な事が嫌い。それでも次々増える家族を守るため、必死にトラブルを回避して、目立たないようにあの手この手を使っているうちに、自分がかなりヤバい立場に立たされている事を知ってしまう。しかも異種族ハーレムの主人公なのにDTでEDだったりして大変な生活が続いていく。最後には世界が・・・・。まったり系異種族ハーレムもの?です。

湖畔の賢者

そらまめ
ファンタジー
 秋山透はソロキャンプに向かう途中で突然目の前に現れた次元の裂け目に呑まれ、歪んでゆく視界、そして自分の体までもが波打つように歪み、彼は自然と目を閉じた。目蓋に明るさを感じ、ゆっくりと目を開けると大樹の横で車はエンジンを止めて停まっていた。  ゆっくりと彼は車から降りて側にある大樹に触れた。そのまま上着のポケット中からスマホ取り出し確認すると圏外表示。縋るようにマップアプリで場所を確認するも……位置情報取得出来ずに不明と。  彼は大きく落胆し、大樹にもたれ掛かるように背を預け、そのまま力なく崩れ落ちた。 「あははは、まいったな。どこなんだ、ここは」  そう力なく呟き苦笑いしながら、不安から両手で顔を覆った。  楽しみにしていたキャンプから一転し、ほぼ絶望に近い状況に見舞われた。  目にしたことも聞いたこともない。空間の裂け目に呑まれ、知らない場所へ。  そんな突然の不幸に見舞われた秋山透の物語。

凡夫転生〜異世界行ったらあまりにも普通すぎた件〜

小林一咲
ファンタジー
「普通がいちばん」と教え込まれてきた佐藤啓二は、日本の平均寿命である81歳で平凡な一生を終えた。 死因は癌だった。 癌による全死亡者を占める割合は24.6パーセントと第一位である。 そんな彼にも唯一「普通では無いこと」が起きた。 死後の世界へ導かれ、女神の御前にやってくると突然異世界への転生を言い渡される。 それも生前の魂、記憶や未来の可能性すらも次の世界へと引き継ぐと言うのだ。 啓二は前世でもそれなりにアニメや漫画を嗜んでいたが、こんな展開には覚えがない。 挙げ句の果てには「質問は一切受け付けない」と言われる始末で、あれよあれよという間に異世界へと転生を果たしたのだった。 インヒター王国の外、漁業が盛んな街オームで平凡な家庭に産まれ落ちた啓二は『バルト・クラスト』という新しい名を受けた。 そうして、しばらく経った頃に自身の平凡すぎるステータスとおかしなスキルがある事に気がつく――。 これはある平凡すぎる男が異世界へ転生し、その普通で非凡な力で人生を謳歌する物語である。

処理中です...