異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

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31話 「長生きさんらしい」

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「……パンツ一丁で何してんの」

「何って水浴びしたか……」

う!(そぉい!)

「へぶんっ!?」

突然八木を見るなり豪快な掛け声と共に飛び蹴りをかますうーちゃん。
その小さい体のいったいどこにそんな力があるのか、八木は体をくの字に曲げつつ軽く一回転する。

「ちょっ、うーちゃん!?」

うー!(成敗!)

「なんだなんだ、どうした?」

倒れる八木に追撃をかけようとするうーちゃんをなんとかなだめ、4人は椅子へと腰かける。

「死ぬかとおもった……」

「よくあれで怪我しなかったね……あ、八木この子覚えてる? 初日に道教えてくれた子だよー」

そういってうーちゃんを抱えると八木に見せる加賀だが、八木はこちらをみつつ素振りをするうーちゃんを見て顔を引きつらせていた。

「はい、覚えています……もうリンゴとらないんで、夕飯のおかず一品あげるんで許してください」

う!(リンゴもくれたら許したろう)

「リンゴ……?」

二人を見て何とも言えない表情のバクス。
加賀はそんなバクスへ初日の出来事をかいつまんで話すのであった。

「そうか……八木、宿のことなんだがな」

軽く眉間をもみつつ話すバクスであるが、どうやらリンゴの件はスルーすることにしたようだ。

「あ、はいなんでしょう」

「宿の施設にな馬小屋を追加してほしいんだ。かなり大きめの馬だから小屋もでかめで頼みたい」

「それでしたら……ええと、これかな」

八木がバクスに差し出したは一枚の外観図であった、ただし宿本体ではない

「どうも馬車で移動してる人が多そうだったんで、馬車と馬用の施設も描いておきました……ただ普通の馬を基準でかいてますんで、あとで馬のサイズ教えてください。手直しするんで」

「……うん、いいな。馬のサイズは後で教える。それと馬糞の処理やらあっておける場所が大体決まっててな、それも後で見せるからそれも考慮しといてくれ。……そこにあるのは間取図か? もうそこまで描いたのか」

そういって八木の描いた図面を眺めるバクス。
八木がここ1週間ほど必死になって描いた図面は、まだ素案とはいえ結構な枚数となっていた。

「結構な枚数だな……ふむ、夕飯までまだ時間あるしどの案でいくかぐらい決めちまうかね」

そういって宿外観図を眺めるバクス、さらには手元にはラフではあるが内観図もいくつかあるようだ。
八木が用意した図面は新旧含めた様々な国の様式の宿であり、どれを選ぶかによって宿の様子がガラっと変わることになる。
図面を眺めるバクスの顔は真剣そのものだ。

「……夕飯の用意するにもまだ早いし、今のうち水浴びしてくるね」

「おー、気いつけてな。あ、ついでにウサギもつれてってあげたらどうだ?」

「そだね、そうしとくよー。うーちゃんおいで」

二人分の飲み物を机におき、うーちゃんを抱える加賀。
外はまだ明るく、日差しも暖かく……というよりは暑いぐらいである。
井戸水は冷たいがこの暑さならむしろ丁度良いぐらいだろう。

「ついたておいてっと、うーちゃんおいでおいで。あらったげよう」

うー(リンゴでべたべたしてたで助かるわい)

ついたてを置き服を脱ぎ、井戸から汲んだ水で石鹸を泡立てる。
そのまま近寄ってきたうーちゃんを洗い始めるが、ずっと外にいたこともあり汚れていたのだろう、あまり泡立たないようだ。

「それじゃー一回洗い流してっと……目つぶっておいてね? もっかいあらうよー」

一度洗い流し再び洗い始めると今度は先ほどと違い、白い泡がどんどん立ってくる。
あっというまにうーちゃんと泡の区別が付かなくなるほどだ。

「ん、今度はだいじょぶみたいねー。 じゃ、ボクも洗おうっと」

うーちゃんと同じようにまたたく間に泡だらけになる加賀。
水で洗い流し、顔についた水をはらった所でふとうーちゃんがじっと見ていることに気が付く。
どうしたのかと視線をたどった先にあったのは紋様であった。

「ああー、これね。神の落とし子にだけある紋様らしいよ。場所はバラバラらしいけど……もっとほかの場所ならよかったのになー」

うー(まあ、まだましな方だと思うぞい。一度だけ顔の半分ぐらい紋様に覆われてるの見たしの)

「さすがにそれよりはましかなあ」

苦笑しつつ答える加賀だが、ふと首をかしげるとあれ?とつぶやく。

「うーちゃんってもしかしてもしかすると、すっごい長生きさん?」

うー(すっごい長生きさんだぞい。もう何百年生きたか忘れるぐらいにの)

「へー……なんていうかさすが異世界って感じだね。んっし、そろそろもどろっか? まだ打ち合わせ終わってないだろうけど」

過去に神の落とし子がいたのは50年以上も前のこと、ゆえに加賀はうーちゃんが長生きなのだと気づく。
うーちゃんの言葉が正しいのであれば数百年は生きていことになる。寿命という概念自体が存在しない生き物なのかもしれない。

「ただいまーって、やっぱまだ終わってないか。ご飯の準備してるねー?」

加賀が家に戻ると予想通り、二人は図面を片手にあーでもないこーでもないと、話し合いを続けていた。
二人へと声をかけ、台所へと向かう。

うー(夕飯は何つくるのだ?)

「わっとっと。 えっとねー……」

すると加賀の後ろをついてきたうーちゃんが器用にも肩へとよじ登っていく。
加賀は冷蔵庫からなにやら大きな塊を取り出すと流し台へと置く。

「夕飯はねー、ハム作ったからー……ハムサンドはとりあえず作るとして、あとどうしようかなー」

うー(ハム?)

「うん、これ。今日のお昼には間に合わなかったけど、そろそろいけるはずー」

整形用の紐を切りつつ答える加賀。
紐をきれいに取り去ったのち、半分に切ると断面を確認する。

「色は……よさそうだけど、あじみあじみっと」

断面はうっすらピンクのおいしそうな色をしている、加賀はハムを薄く切り取るとひょいと口にほうりこんだ。

「ちょっと火が入りすぎたかなー……でも勘でやったことを考えれば悪くない、かなー」

そうつぶやきながら、再びハムを薄く切るともの欲しそうに見ていたうーちゃんへとさしだす。
加賀にとっては若干不本意な出来ではあったが、それでも十分いけるのだろう。うーちゃんはあっという間にハムを食べてしまった。

うー(うまっ! 十分いけるぞい)

「ありがとー、それじゃ他のも作っていこっかー」

そういうと加賀は残りの料理へと取り掛かるのであった。
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