異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

文字の大きさ
33 / 332

32話 「ビール売ってないらしい」

しおりを挟む
うー(もう食えんぞい。あ、でもリンゴはたべる)

「やべえ、おなか。やべえ」

「ちと食いすぎたか」

「お粗末様でした」

夕飯にだしたハムはかなり好評だったようだ。
食べ過ぎで動けない3人をよそに後片付けをはじめる加賀、そこにバクスが声をかける。

「加賀はいろいろ作れるんだな、ハムなんかはここらじゃ肉屋ぐらいしか作らんのだが……それにこんなしっとりとジューシーなのはじめてだ」

「ありがとうございまっす! お肉屋さんのハムとの違いはたぶん、保存食として作ってるかどうかーかな、と。ボクは保存のこと気にせず作ってるので……」

「加賀はハムとか作るの得意だったからなあ……そういや燻製とかはつくらんの?」

「ほう! 燻製も作れるのか??」

燻製という言葉と聞いてバクスが大きく反応する。
それをみた加賀は若干驚きつつもええと答え頷く。

「そうかそうか! なら腸詰のもできるのか?」

「もちろん。できますよー」

「ウィンナーとか加賀の超得意なやつじゃん」

ウィンナーに相当な思い入れがあるのか、加賀の言葉を聞いたバクスは飛び上がらんばかりに喜んでいる。
加賀は少し子供っぽいそのしぐさを見て、意外なところもあるんだなと思いつつ口を開く。

「ウィンナー好きなんですか? あれ、おいしいですよねー」

「おう、10年ぐらい前だったかな? 海を渡った先の山に囲まれた……ズナベルクだったかな、まあいい。そこでビールっての一緒に食ったんだが……これがたまらなく旨くてな」

「ビールとウィンナーの組み合わせは正義!」

ウィンナーとビールと聞いて俄然テンションのあがる八木。どちらも八木の好物だったりする。
なお、加賀は酒がダメなためビールもあまり好きではない。

「このへんでは売ってないんですかー?」

加賀のそぼくな質問にピタリと動きをとめるバクス。
その顔はさきほどとは違いしかめっつらになってしまっている。

「売ってればよかったんだがなあ……」

「まじか……禁輸品とかですか?」

いや、とつぶやくとそっと椅子に腰かけるバクス。
コップに残っていた水を飲み干すと軽くため息をつく。

「単にあいつら作った分みんな自分たちで食っちまうんだ」

輸出にまわす分はないんだとよ、そういうバクスの表情はすっかりやさぐれてしまっていた。
バクスの話をきいて八木も食べたくなってしまったのだろう、ウィンナーはともかくビールが売ってないと聞いて軽くへこんでいる。

うー(のうのう、加賀)

「ん、うーちゃんどした?」

うー(そのウィンナーっての食べてみたいの)

さっきから騒がしい二人をよそに、食後のデザートにリンゴを食べていたうーちゃんだが。
しっかり会話は聞いていたようだ、目をキラキラさせつつ加賀へとおねだりをする。

「そっかー。……そだね、ボクも食べたいし二人も食べたいだろうから……つくっちゃおうか」

「……そうか、ウィンナーは加賀が作れるんだったな」

「ええ……材料あればですけど」

その言葉を聞いて顎を触るバクス、その顔はいつになく真剣である。

「……何が必要だ?」

「えっとー……豚肉は猪肉で代用するとして、とりあえず羊の腸あれば作れます」

「わかった、明日トゥラウニに行くぞ」

ウィンナーに必要な材料、それを聞いたバクスの判断は早かった。
予想外なその言葉に二人は思わず声をあげてしまう。

「あ、明日ですか?」

「んむ、香辛料とかもほしかったんだろう? なに、いい機会だ。宿の候補も決まったし八木の休みもかねて、な」


トゥラウニは馬車で西に二日ほどいった所にある港町だ。
アンジェであれば一日で行けるが早朝にでる必要があるとの事で、今日は夕飯を食べて早々に解散となったようだ。

「えっとー、着替えと石鹸とシャンプーとー……ん、大体こんなもんかな?」

「ぬぅ」

部屋で荷物をかばんへと詰め込む二人、加賀のほうは大体詰め終わったようであるが、八木はというと先ほどから荷物とにらめっこしたまま動きがない。

「どしたん?」

「……仕事道具どうしようかなあ」

「や、むりでしょ」

バクスの持つ馬車は現代日本の車両とそん色ないレベルのものではあるが、それでも地面からの振動を完全に抑えることはできない。
当然ながらそんな状況で図面をかけるわけもなく、八木はしぶしぶといった様子で仕事道具をつむのをあきらめたようだ。

「羊の腸うってるといいなあ」

「そうだねー、羊扱ってるって話だしたぶんあると思うけど……なかったら香辛料だけは買って、ベーコンでも作ろうかな」

「お、ベーコンいいねいいね。あの猪肉でつくったらうまいだろうなあ」

ベーコンと聞いて笑顔を見せる八木。
ウィンナーだけではなくベーコンも好物なのだろう。

「向こうでの予定だけど、八木はどするー? ボクは香辛料探す予定だけど」

「んー、俺は建物見て廻れればそれで……宿は1泊目と2泊目違うとこ泊まってくれるそうだし」

「そかそか、じゃあなるべくいっぱいお店まわろっか」

「おう、お願いするわ。んじゃそろそろ寝るな、加賀もはやめに寝とけよー」

「ん、おやすみー」

自分の部屋と戻る八木を見送り、加賀も寝ようとしたところで何かの気づいたように再びバッグをあける加賀。どうやらうっかりマクラをいれてしまっていたようだ。

うー(なにしとんのじゃ)

「やー、うっかりしまっちゃったね。ほい、うーちゃんおいでおいで」

そういいながらベッドへともぐりこむ加賀。
うーちゃんもベッドにはいったのを確認するとそっと電気を消した。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...