31 / 156
木の中にいる
「30話」
しおりを挟む「生えたニャ。 これがリンゴかニャー」
微妙な気持ちな俺とは裏腹にタマさんは大はしゃぎである。
リンゴをまん丸な目で見つめ、スンスンとしきりに匂いをかいでいる。
分かる、リンゴって結構良い匂いするもんね。
しかしどうしたもんだろうか? これたぶんリンゴなんだろうけど……普通は人の体から生えるもんじゃないし、こんな短時間で実が出来るもんじゃない。
食べても大丈夫だろうけど……どこかで見て貰ってからのほうがいいだろうね、タマさんには悪いけど毒とかだったら洒落にならないし……などと俺が考えているときであった。
「いってええええっ!?」
「えっ、それ痛いの??」
腕に激痛……ってほどじゃないけど痛みが走る。鼻毛抜かれたぐらい。
不意打ちだったため思わず叫んでしまった。
なぜ痛みが走ったかはすぐ分かった。このにゃんこ、いつの間にかリンゴをもいでたのだ。
それ自体は別にたいした問題ではないんだけど……カールさんがビックリしたように言うが、俺自身もまさか痛いとは思ってなかった。ビックリだよ。
「躊躇せず食ったぁ!?」
そして俺が痛みに混乱しているあいだに、このタマさん躊躇うことなくリンゴに齧り付きおった。
毒だったら怖いから止めようとか、もうそんなことする間も無くパクリといきおった。
「……っうまいニャー!!」
そして俺産の林檎は美味しかったらしい。
尻尾をピーンとさせ、リンゴに夢中になって齧り付くタマさんの姿はとても可愛らしく見てて幸せな…………じゃなくてっ、毒かも知れないから止めなきゃだ!
「いや、ちょっ……食うのストップ! って離す気微塵もなさそうねっ!?」
食べるのを止めさせようと手を伸ばすが、タマさんは両腕でリンゴをガッシリとホールドすると、リンゴに齧り付いて決して離そうとしない。
「めちゃくちゃ美味しいニャ! これはタマのニャ、絶対わたさないニャー!!」
「あだだだだっ!? と、とらないから蹴らないでぇっ」
それでも何とか止めないと……そう思いリンゴへと手を伸ばすが、タマさんが後ろ足でガシガシガシッといわゆる猫キックで抵抗してくる。可愛い。
……でも威力は可愛くないぞ。手加減はしているのだろうけど、俺の右腕が押し戻されるぐらいの威力はある。
そうこうしている内にもリンゴはタマさんのお腹へと収まっていき……俺は止めるのを諦めたのであった。
数分後、タマさんはリンゴを芯だけ残してすっかり平らげてしまっていた。
苦しむとかそういう様子もないので少なくとも毒ではなかったらしい。それが分かり俺も少しほっとしている。
「しかしお前……まさか木の実がなるとはなあ」
いや、本当だよね。
ゴリさんが呆れたような表情で俺の右腕を眺めている。
ちなみに生い茂っていた枝葉だけど、タマさんがリンゴをもいだ直後からシュルシュルとオレの腕に収まっていき、今では元の姿へと戻っている。
「もっとリンゴだすニャー」
「自分もまさかなるとは思ってなかったです……はいはい、リンゴね……っふん!」
ご飯も食べたし、リンゴも結構でかかったのにまだ食べますか。
お腹壊してもしらないぞっと……腕をてしてしと叩いてリンゴくれとアピールするタマさんのリクエストに応えるため、俺はリンゴよなれと意思をもって腕を見つめる。すると腕からぴょこんと芽が出たかと思うとあれよあれよという間に再び枝葉が生い茂り、立派なリンゴが一つ枝からぶら下がっていた。
俺はリンゴをむんずと掴むと息を吸って吐いて吸って止めて……気合いの声と共に一気にリンゴを枝からもぐ。
ブチッと音を立ててリンゴがもげるが……やっぱ地味に痛い。耐えられないほどじゃないんだけど、ちょっぴり涙目になりそうなそんな痛みである。
「それやっぱ痛いのか?」
「そうっすね……全身の鼻毛を毟られるぐらいです」
「どういう例えだよ。普通に毛でいいじゃねえか……」
……うん、たしかにその通りだ。
全身の鼻毛とかわりと意味不明である。
ゴリさんは呆れたような表情を浮かべるが、その目はじっと俺の腕を見つめたままだ。
……な、なんでしょう?
「……すまんが、俺たちも貰ってもいいか?」
「もちろんっすよ」
なんだゴリさんも食べたかったのね。
もちろん良いですとも。俺産のリンゴをたらふく食べるが良い。お腹壊しても責任はとらないけどね!
まあ、ゴリさんだけじゃなくパーティメンバーもやっぱ欲しかったらしく、俺は合計4回リンゴをもぎとる痛みに耐えることとなる……あれ?
「お……おぉ?」
な、なんかフラフラするぞ?
これは前に一度なったことがある……具体的に言うとこの世界にきて二日目ぐらいの時だ。
「ねーねー、ウッドくん急に萎んでない?」
「ええ、何かこれ……やばいぐらいお腹空いて……」
これ絶対リンゴに栄養とか色々持ってかれてる!
お腹がものっすごいへってるし、何より右半身がものすっごい萎んでる。
なんというかもう枯れかけてるんじゃないかってレベルだ。
「よし、飯食え飯!」
「あ、全然足らない……」
これは不味いと思ったんだろう、ゴリさんがテーブル上の料理をかき集め俺の前にどんと置く。
俺もこれはやばそうと思ったので飯をかっこむが……全然足らない。
「森行って吸ってこい! ……だあ、もう行ってくる!」
飯を食ってもダメと判断し、森に行けというが……ちょっとふらついて行けそうにない。
そんな俺をみてゴリさんは肩に担ぎ上げるとギルドを飛び出した。
「おらぁ!」
そして森につくと同時に地面にぶっ挿された。ひどい。
その後、何カ所か位置を変えては地面にぶっさすと言うことを繰り返して俺の右半身は元の太さへと戻っていった。
0
あなたにおすすめの小説
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
【一秒クッキング】追放された転生人は最強スキルより食にしか興味がないようです~元婚約者と子犬と獣人族母娘との旅~
御峰。
ファンタジー
転生を果たした主人公ノアは剣士家系の子爵家三男として生まれる。
十歳に開花するはずの才能だが、ノアは生まれてすぐに才能【アプリ】を開花していた。
剣士家系の家に嫌気がさしていた主人公は、剣士系のアプリではなく【一秒クッキング】をインストールし、好きな食べ物を食べ歩くと決意する。
十歳に才能なしと判断され婚約破棄されたが、元婚約者セレナも才能【暴食】を開花させて、実家から煙たがれるようになった。
紆余曲折から二人は再び出会い、休息日を一緒に過ごすようになる。
十二歳になり成人となったノアは晴れて(?)実家から追放され家を出ることになった。
自由の身となったノアと家出元婚約者セレナと可愛らしい子犬は世界を歩き回りながら、美味しいご飯を食べまくる旅を始める。
その旅はやがて色んな国の色んな事件に巻き込まれるのだが、この物語はまだ始まったばかりだ。
※ファンタジーカップ用に書き下ろし作品となります。アルファポリス優先投稿となっております。
気づいたら美少女ゲーの悪役令息に転生していたのでサブヒロインを救うのに人生を賭けることにした
高坂ナツキ
ファンタジー
衝撃を受けた途端、俺は美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生していた!?
これは、自分が制作にかかわっていた美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生した主人公が、報われないサブヒロインを救うために人生を賭ける話。
日常あり、恋愛あり、ダンジョンあり、戦闘あり、料理ありの何でもありの話となっています。
おばさん冒険者、職場復帰する
神田柊子
ファンタジー
アリス(43)は『完全防御の魔女』と呼ばれたA級冒険者。
子育て(子どもの修行)のために母子ふたりで旅をしていたけれど、子どもが父親の元で暮らすことになった。
ひとりになったアリスは、拠点にしていた街に五年ぶりに帰ってくる。
さっそくギルドに顔を出すと昔馴染みのギルドマスターから、ギルド職員のリーナを弟子にしてほしいと頼まれる……。
生活力は低め、戦闘力は高めなアリスおばさんの冒険譚。
-----
剣と魔法の西洋風異世界。転移・転生なし。三人称。
一話ごとで一区切りの、連作短編(の予定)。
-----
※小説家になろう様にも掲載中。
才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!
にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。
そう、ノエールは転生者だったのだ。
そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
転生したら鎧だった〜リビングアーマーになったけど弱すぎるので、ダンジョンをさまよってパーツを集め最強を目指します
三門鉄狼
ファンタジー
目覚めると、リビングアーマーだった。
身体は鎧、中身はなし。しかもレベルは1で超弱い。
そんな状態でダンジョンに迷い込んでしまったから、なんとか生き残らないと!
これは、いつか英雄になるかもしれない、さまよう鎧の冒険譚。
※小説家になろう、カクヨム、待ラノ、ノベルアップ+、NOVEL DAYS、ラノベストリート、アルファポリス、ノベリズムで掲載しています。
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる