家の猫がポーションとってきた。

熊ごろう

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「11話」

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じいちゃん、ばあちゃんが家に来てからおおよそ3週間が経った日曜日の昼過ぎ。
俺とクロはダンジョンの部屋内にて喜びの声を上げていた。


「……よし、10匹部屋もいけた!」

ついに無傷で10匹部屋攻略出来たぞっ。
ある程度強くなって、ウサギが行動起こす前に潰せるようになってからは早かったけれど、そこに行くまでが長かった。

卒業が近くなって授業に出なくなって攻略速度上がるかなーと思ったんだけど、友達からのお誘いがちょくちょくあって逆にダンジョンに潜る時間が取れなかったんだよねー。

卒業日前日になってようやく攻略出来るようになったぐらいだ。

「さーって、そろそろ扉の奥行っちゃうかなー?」

実はマップは既に埋め終わっていたりする。
10匹部屋も無傷じゃなくて良いのならごり押しで突破できちゃうしね。

んで1階同様に2階にも例の扉はあった。
ちなみに中はまだ見てない。 見ちゃうとこいつなら行けるんじゃない?って思ってレベル上がりきる前に突撃したくなっちゃうかもだし、一応ね。


「ポーションよし、武器よし、つっかえ棒よし」

それも10匹部屋を無傷で攻略出来たことでもう我慢する必要はない。
準備もばっちりだし、早速中に何が居るか覗いちゃおうじゃないの。



「さて、中には何がいるのかな……またウサギ、超でかいし」

またウサギかよぅ。
サイズこそ違えどそれ以外は他のウサギと変わらない……まあ、そのサイズが違うってのが厄介そうではあるのだけど。 顔とかに噛みついてきそうで嫌だなあ……。

「……いくか」

嫌だけど行くのだ。
扉が閉まって閉じ込められたら嫌だし、まずはつっかえ棒をして、荷物入れたポーチを置いて……っと、で後は鉈を構えて突っ込むのみっ。


「やっぱ速いっ」

クロと二手に分かれて扉の先に突撃すると、1階の時と同様に即座に反応したウサギがこちらに向かい駆け出した。

その速度は今まで戦ってきたウサギよりも速かった。
大きい分遅くないかなと少し期待していたけれど、そう期待通りはいかないか。

ただ速いと言ってもあくまで想像の範疇であり、想像以上ではない。
ウサギは俺の目前まで来ると同時に蹴りを繰り出してきた。普通に人が繰り出す様な蹴りだったので若干面食らったけれど、ただそれだけだ。

蹴りは俺の脇腹目がけて飛んできている。俺は腕でガードするのではなく、鉈で迎え撃つ選択をとった。

これなら俺にダメージはないし、攻撃を防ぐだけで相手にダメージを与えられる。
ウサギめ、人間の文明の力を味わうがよかろうなのだ。


なんてちょっと調子に乗ったのがよろしくなかった。

「足いただき――」

鉈とウサギの脚が交差する直前、急にウサギの脚がクンッと向きを変え、横殴りの蹴りだったのが上から振り下ろすような蹴りへと変化したのだ。

「――へぶっ!?」

……蹴りは俺の横っ面を見事にとらえていた。
くっそ痛いぞっ!?

いや、てかおかしい!
なんでウサギがそんな蹴りを繰り出すのさっ!?

人間でもやるの難しいでしょ、あれ!


くそう……あ、いやよく見たらウサギの脚から血が滴り落ちてるぞ。
鉈は多少リーチがあるし、ウサギも完全に避けることは出来なかったようだ。

よし、これで多少怯んでくれれば……なんて淡い期待はすぐに打ち破られた。

「ちょっ、何っこいつ!? くのっ!」

ウサギは怪我などお構いなしに次々に蹴りを繰り出してきた。
しかもその蹴りがやたらと多彩で嫌になる。

ローと見せかけてミドルだったり、ハイと見せかけてー? ……本当にハイだったり。

俺はウサギの予想外の攻撃にひたすら防戦に追い込まれる事となった。



「……た、たおした」

ウサギを倒したのは戦い始めて数分が経ってからだった。

……まあ倒したと言うよりはひたすら鉈で防御していたら脚がズタズタになって……やがて動けなくなったところに止めを刺しただけなんだけどね。

しかし疲れた……。

「クロもお疲れ……予想以上にやっかいだったねえ」

クロも結構苦戦したようだ、珍しく息を荒くしている。
クロの相手していたウサギを見ると脚がちぎれていたので、どうやらクロも俺と同様に脚を潰してから倒したようである。


「とりあえずポーション使おう……クロも怪我してたら使うんだよ?」

落ち着いてきたらウサギに蹴られまくった箇所がズキズキと痛み出した。
ポーチからポーションを二つ取り出し、一つは蓋を開けてクロへと渡す。 もう一つの蓋を開け、中の怪しい液体を手に取り自分の傷へと塗りたくっていく。


「口の中が治ってない……ちょ、ちょっとだけ」

大体の傷は治ったんだけど、最初に蹴られた顔が……外側の痛みは引いたけれど、口内が切れまくってるのが治ってなかった。

どうやら塗って箇所にしか効果が無いらしい……俺は少し悩み、ポーションを口に含む事にした。

……傷口にかけても大丈夫なんだし、口に含んで傷が治ったら吐き出せば大丈夫だと思う……思いたい。



「…………あれ、意外と飲みやす……い」

恐る恐るポーションを口に含むが……特に味らしい味はなかった。 変な匂いもない、むしろ少し清涼感のある香りがふっと鼻に抜ける。
喉越しも悪くなく、するすると喉奥へと入っていった。


怪しげな色をしているので一体どんな味がするのかとビビっていたけれど、思ったより飲みやすくて良かったわー。


うん…………うん???

「ぐぼっ!? ゲェッホゲホッ! ……げほっ、な、何で飲んだし!?」

本当に何で飲み込んだの俺!?

くっそ……予想外に口当たり良いのが悪い、咳き込んでは見たけれどもうポーションは胃の中だ、出て来ない、手遅れだこんちくしょーめ。


「な、何か変わったところは……?」

お腹を押さえたり、体をペタペタと触ってみるが変わったところは無い。
触れたところの傷が治るだけで飲んでも何も起こらない……いや、違う。

「疲れがとれてる……小さい傷がじわじわ治っていってるような?」

さっきの戦闘で溜まっていた疲労が抜けてる。
それにちょっとしたすり傷とか、指の逆むけとかゆっくりだけど治っていってる。

「飲むと疲労回復と傷を治す効果もあり、っと。 やばいなポーション」

最初に使ったときがそうだったから、ポーションって傷に液体が触れないと効果が無いって思い込んでいた。

飲んでも効果があるのはありがたい、飲んでからどれだけ効果が持続するか分からないけれど、持続時間によっては戦闘前に飲んでおくのが有効になる。

戦闘中にポーション使うのってほぼ無理ゲーだから、使うの諦めて戦闘終了後にいつも使ってたんだよね。

これからは戦闘が少し楽になるかもだ。

これならもっと攻略速度を上げられるかも……そう、考えた俺の目の前では3階へと続く階段が姿を現していた。
ダンジョンはまだまだ先があるようだ。

「ま、ゆっくり進めばいっか。 明日いったら学校も終わりだし」

時間はたっぷりある。
友人も就職してその準備やら何やらであまり遊べなくなるし……うん、ゆっくり進めるとしよう。別に焦らなくたってダンジョンが逃げるわけでもなし。

「今日はここらで切り上げようか」

毛繕いしているクロを抱き上げ、俺とクロは部屋を後にする。

明日は卒業式だし、きっちり疲れをとっておかないとだ。
うっかり寝ちゃったらあれだしね。



そしてその翌日のこと。

「島津康平」

「はいっ」

特にこれと言って特別なイベントもなく、卒業式が終わった。
後はもう自宅に帰るだけなのだが、今日以降中々会うことが出来ないメンバーも結構居たりする。
なので皆中々帰らずその場に居る者と駄弁ってダラダラと時間を過ごしていたりする。

「あー……これで高校も卒業かあ」

「働きたくねー面倒いし」

「吉田は九州だっけ?」

「遠いなおい」

「中村は地元残るんだよな? 俺も地元の企業にしときゃ良かったわ」

「いや地元は地元でさ――」


――そんなやり取りが続き、結局家に帰った時には夕方近くなっていた。

「ただいまー」

玄関をあけ靴を脱ぎ一歩踏み出した所で気が付いた。
何時もなら出迎えてくれるはずのクロの姿が無いことに。



「クロ? 元気ない……鼻水垂れてるし風邪かな? この時間ならやってるよね」

……クロは茶の間のソファーで横になっていた。どうやら風邪をひいてしまったようだ。しかもこじらせてしまったらしく元気が無い。

「よし、すぐ病院連れてってあげるからな」

まだ夕方なので病院はやっている、俺はすぐさまクロを病院へと連れて行った。




「風邪ですね……それに大分高齢みたいですし、暫くは安静にしてください」

「ありがとうございましたー」


お医者さんの診断は風邪だろうとのこと、注射してもらったし暫く安静にしておけば多分治るだろう……幸いなことにもう学校は卒業した。 ダンジョンも当分は休んでクロの看病しようと思う。

「たしか使ってない毛布あったなー……あと加湿器と暖房も出さないと」

そう呟きながらクロの入った籠を大事に抱えて家へと向かい歩を進めた。





「鼻水は止まったけど……」

しばらく安静にしていると鼻水も止まりクロの風邪は治ったようだ。
ただ……。

「……」

風邪をひいたのが切っ掛けだったのか、クロはまともに動くのも辛くなっていた。
トイレに行くのも餌を食べにいくのも辛そうだ、ヨロヨロと身を起こす様子は見てて死にそうになる。

ずっと小さいころから一緒にいたクロ。
年齢は今年で18歳になる……寿命なんだろう。

そっと抱きしめたクロの体は酷く軽くて、骨がゴツゴツしていた。

噛み締めた唇から血の味がした。






「……決めた」

俺はある決意をした。

先に確かめたい事があった俺はいつものダンジョンに潜る格好へと着替えると、一人でダンジョンへと向かう。

ダンジョンに降り立つと通路を進みネズミを探す。

「いた」

幸いネズミはすぐに見つかった。
俺はネズミがこちらに向かってきている事を確認し、そのままネズミを引き連れて休憩所へと向かい、そのまま休憩所の中へと飛び込んだ。

「……なるほど見えてない感じか?」

俺のすぐ後ろを追ってきていたネズミだが、休憩所の手前でキョロキョロと辺りを見渡し、やがて元来た道を戻り始めた。

確かめたかったのはこの休憩所が本当に安全か否かだ。
今の結果からここは安全であると言うことが分かった、俺はすぐにダンジョンから出て家へと戻る。



「……これで全部かな」

クロの餌やトイレなど一式を持って再びダンジョンに向かう。
そして休憩所へと一式を置いて、最後にクロを連れ込んだ。

「クロ、ここで待っててね。お前に効く薬を探してくるから」

俺の言葉ににゃあと返事をするクロ。
ダンジョン内では身体能力が上がる、クロも今は以前と同じように元気そうに見える……でもいつまで持つかは分からない。

このままクロの側を離れず面倒を見る事も考えた。
でも、それだといつか必ずクロとお別れの時がやってくる。

俺がこれからやろうとしている行為は無駄になるかも知れない。
でも、何もせずただ見守るのは、その選択は俺には取れなかった。


「疲れたらちゃんと帰ってくるから……ね?」

そうクロに告げて俺は一人でダンジョンの奥を目指す。
……ポーションなんてお伽噺に出てくるような物が存在しているんだ、病気を治す薬、そして寿命を延ばす薬……俺が求める物がきっとあるはずだ。

もう、家族と別れたくは無いんだ。
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