家の猫がポーションとってきた。

熊ごろう

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「294話」

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建物内部は廊下の左右にいくつものが部屋が並び、その半数ほどは空き家で、残りが何かしらの商いを行っているようだ。

仮に何か買うにしても、まずは手持ちの金がなければどうしようもない。
そういう訳で俺たちは買い取りをやっている店へと最初に向かった。

「ふむ……ではしめて六貫と六百文になりますが、よろしいですかな?」

「あ、はい」

店主に余った装備を全て売りたいと話すと、店主は算盤をパチパチとはじいて、そう俺たちに確認した。
よろしいですかな? なんて言われても相場が分からんから、はいと答えるしかないんだけどね。

とりあえず承諾すると、店主は店の奥に引っ込み……大量の小銭? を抱えて戻ってきた。
全て買い取った代金らしい。

大雑把に数を数えて代金を受け取ると、俺たちは店をあとにした。

「……すげー量だなおい」

予想以上の小銭……文って言ってたから、永楽通宝とかなのかなーって良く見てみたら……書いてある文字はその通りだったんだけど、小さく生首のレリーフが彫ってあった。
びた銭かな? 受け取り拒否しちゃろーか。

……まあ、永楽通宝そのまんまって訳にもいかんかったんだろう。
とりあえずここで使えるのであれば問題はないか。

あとはこれを使って買い物したり、ポーションと交換……ポーションも買うのかな? まあ店に入れば分かるか。
結構な量の銭だけど、はたしてこれでいくのポーションを買えるのやら。

「これ、どれぐらいの価値なのかさっぱり分からんね」

「ん、時代によって違うからなんとも言えないよー。でも数十万ぐらいにはなるかも?」

俺のつぶやきにそう返す北上さん。
俺としてはこのダンジョン内での価値のつもりで口にしたのだけど、北上さんは本物の永楽通宝の価値について言ってるのだろう。
……まだ生首のレリーフ見てないからなっ。


「それよりもさ、なんでみんな顔隠してるんだろうな?」

あ、そこに触れちゃうか。

まあ俺も気になってはいたのだけどね。
ここの住民って、ぱっと見は人っぽいのだけど……みんな布で顔を隠してて、どんな顔か見えないんだよ。さっきの店の店主だけじゃなくて、廊下を歩いてる住民もみんなそうなのだ。
布には顔とか目とか変な模様とか描いてあって、日本だけど、どこか別の世界に紛れ込んだような気分になる。
実際、ダンジョン内だから別世界だけど。

「んー……みんな生首みたいな見た目をしているとか。あとは、人じゃないのを隠すためとか。や、まあここに居る時点でたぶん人ではないのだろうけど」

顔を隠している理由としてはこのへんだろうか。
生首の趣味って可能性もあるけど、なんとなく見てはいけない類じゃないかなって予感がするのだ。

「気になりますか?」

「へ?」

不意に背後からの声に驚き振り返ると、そこにはこの街の住民だろう、髪の長い……おそらく女性が立っていた。
まさかこちらから声をかけたのならともかく、向こうから話しかけてくるとは思っていなかった俺は思わず固まってしまった。

「よければお見せしますけど」

そんな俺を気にした様子もなく、女性はそう言葉を続ける。


「あ、いえ。遠慮しときます」

別に見せるといっているのだから、見せてもらうのもありだろう。
でも、なんとなくだけど、布に隠れて見えないはずのその顔に、あの生首めいた笑みを浮かべているのを感じてしまったのだ。
これ絶対みちゃダメな奴だ。

街中に罠しかけるとかまじふぁっきん生首だぜえ。


声を掛けてきた女性から逃げるように立ち去った俺たちであるが、ふと中村が何かをみつけたのか横をみてピタッと足を止める。

「団子うまそう」

中村の視線を追うと、そこには『お団子』と書かれた暖簾があった。
昔風の店構えも合わさって、なかなか美味しそうに見える。

少し疲れたし、休んでいくのもありかも知れない。

「せっかくだから寄ってくか」

俺がそういうと、中村はぴゅっと暖簾をくぐり店へと入る。

俺たちも後を追い暖簾をくぐる。
中はテーブル席が2つと、こじんまりとしたお店だった。

俺たちだけが客なら別にいいけど、今後人が増えたら席が足らなくなるなー。
そんなことを考えながら、席につくとすぐに店の人が出てきた。
紅色の着物に、かんざしと……たぶん看板娘ってやつなんだろうけど、あいにくと顔は見えない。
見るつもりもないけど。

「おねえさん、団子三人前とお茶くださいな」

「はぁーい」

お姉さんに注文し、さほど待つことなくお団子とお茶が出てきた。
5個刺さったお団子が3本と、結構な量があるね。
お茶はよくある日本茶だろうか。

美味しそうではある……あるんだけどなあ。

「おお、まじで旨そうだなこれ……どうした? くわんの?」

「いや、いまさらだけど……黄泉戸喫だっけ? 大丈夫かなって」

「あー」

さっき、別の世界に紛れ込んだような気分になるって思ったけどさ。
あんま詳しく覚えてないけど、この世の食べ物じゃないのを口にしちゃうと戻れないとかそんなやつ。
あれがふと頭を過ったのだ。


「別にここはあの世じゃないからねえ。食べても平気だよ」

そんな俺の疑問に生首がそう答える。
……まあ、アマツダンジョンでさんざん飯食ってるし、問題ないだろうってのは分かってはいたんだけどねえ。
そこはほら、生首ダンジョンだし。

てか、こいつ今までどこに居たし。
ダンジョンに入ってからどうも動きが読めないというか、意識の外にいくというか……こいつが造ったダンジョンだからだろうなあ。


まあ、いいや。
それよりせっかく出してもらったお団子でも食べるとしよう。

「ふわふわしとる」

「うめえ」

「お土産……かたくなっちゃうか」

団子はみたらし、餡子、よもぎの三種。
そのどれもがつきたての餅のように柔らかくおいしい。
もちろん食感だけじゃなくて、味自体も良い。

アマツダンジョンもそうだったけど、生首ダンジョンの食べ物も美味しいようだ。
あまりお手軽に食えちゃうと、近所のお店で食う人が居なくなっちゃう可能性もあるが……いや、だからそこまで店が大きくないのか? いちおう地元のことも考えてますよー的な。

……ダンジョンに関してはまともなんだよなあ。ダンジョンに関しては。
このままダンジョンに置いてくのもありだろうか……生首状態でヒッチハイクとかしかねんな。
まあ考えるのはよそう。

とりあえずお団子食べてポーションでも見にいくとしよう。


というわけでポーション扱ってる店にきたよ。

「一番安いポーションが百文。その次が一貫文……10倍になってくのな」

てかたけえわ。
今日の稼ぎで買えるの10階のポーションが6個とかそんなんだぞ。

「仮に全部ポーションにしたとして……換金したらどんなもんだ? いまポーションの相場ってどんなもんだっけ」

「えーっと10階のポーションが20万円前後だって」

「大分落ち着いたなあ」

「最初はアホみたく高かったけどなっ」

5人でほぼ一日使って120万円……そう考えると美味しいな。
痛くないし、一応ゲーム感覚で攻略できるし……むう。

「まあ一応手軽に攻略できるし、お金的にも……将来的には分からんけど、美味しいし。人気はでるかもね」

「そうだろう! そうだろう!」

……俺が生首ダンジョンについて肯定的な意見を述べた途端、生首が反応した。
いかにも喜色満面って感じでウンウンと頷いていたかと思ったら「これならアマツも……」って、急にトリップして独り言をブツブツ言い始めた。
怖いわ。

「んじゃ、そろそろ帰るか」

「おう」

「そうねえ」

「なんならアマツのとこに……なんて??」

とりあえず用事は済んだし、そろそろ帰るべよと声を掛け合っていたら、生首が絶望した表情を浮かべてこっち見てきた。


「いや、そろそろ戻らんと夕飯くえんし」

お団子だけじゃ足りんからな。
あれはあくまでおやつである。

「ここで食べていけばいいじゃないか! 宿だってあるんだよ!?」

「宿の予約してあるしー」

今日は地元の宿に泊まるんだよ!
てか夕飯も宿で食うから、まじでそろそろ行かないといかん。

まあ、ここの宿に興味がないわけではないし、いずれ機会があれば泊っても――

「そんな! 宿に泊まったら夜中に百鬼夜行が」

「よっしゃ! けえるぞっ!」

――絶対泊らんぞ!
なんだよ百鬼夜行って、絶対襲撃イベかなんかだろそれっ。
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