家の猫がポーションとってきた。

熊ごろう

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「295話」

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泊ってくれなきゃヤダヤダとぐずる生首を置いて、俺たちは本日泊る予定の宿へと向かった。

「結構立派な宿だ」

「こんなのあったの知らんかった」

「しかもペット可なんよー」

「それ凄いよね」

ちょっと失礼な言い方だけど、寂れた街並みから考えるとずいぶんと立派なホテルが本日泊る宿だった。
昔は観光客も来てたそうだから、その名残なんだろうか。

「4名で予約の北上様ですね」

……ん?
あれ、俺と北上さんと中村で3人だよな。クロと太郎をカウントしてなさそうだから……一人多くね?

「せっかく用意したのに……気合いれてつくったのに……」

なんか後ろでぶちぶち言ってると思ったら、後ろにダンジョンに置いてきたはずの生首が居やがりましたよっ。
北上さんが人数を変更したのか、それとも生首が何かしたのか……どっちかというと後者のような気がする。

「……」

「……」

部屋に入ってから、すみっこでうずくまる生首。
そして北上さんと中村の無言の視線が俺にぶすぶすと突き刺さる。

別に責めてるわけじゃないんだけど、これどーすんの? 的なやつ。

このままの状態で一日過ごすのはさすがにちょっとキツイ。
ていうか夢枕に立ちそうなのがとても嫌だ。

「しゃあねえなあ」

「!」

頭をかきながらそう呟くと、生首がガバっと顔を上げる。

「とりあえず泊るのはこの宿で……夜に鍵預けて外出、百鬼夜行とやらをみて戻る。でいい?」

もうチェックインしちゃってるし、そろそろ夕飯だしでもうキャンセルできんからね。
やるとしたらちょっと見に行くぐらい……俺の言葉に北上さんも中村も頷いたので、とりあえずはこれで良いだろう。

あとは生首だけど……満面の笑みを浮かべてるから、まあこれで良いのだろう。

「つーか強制戦闘イベじゃないよな?」

「戦闘も出来るけど強制じゃないよ! そちらから手を出さなければただ通り過ぎるだけさ」

「ほーん」

なるほどね。
てことは宿から見学して帰るで良さそうだ。

「もちろん手を出しても構わないけれど……複数のパーティで攻略するイベントだからねえ。おまりお勧めはしないね」

「絶対ださん」

絶対死ぬやつだろそれ。

「動画的には出したほうが美味しいかもねー?」

……なるほど、確かに?

「……じゃあ中村が試しに特攻するってことで」

「俺だけかよっ!?」

中村。お前の犠牲は無駄にしないぞっ。
きっと大量の視聴者数となって……まあ、冗談だけどさ。


そしてその日の晩、早めの夕飯を終えた俺たちは、コンビニに行ってくるという名目で、宿を抜け出し夜の街へとくりだした。

「静かだね」

満天の星空の下、ギシリと雪を踏みしめる音が響く。
車の音や、生活音などはいっさいなく、ただただ静かであった。

「みんな寝てるのかな? 家の電気もちょいちょい点いてないし」

「空き家じゃないすかね」

静かなのは人が少ない……それも夜に騒ぐであろう若者たちが特に、だからだろうか。

ダンジョンができれば、その辺りも変わってくるのだろうか。そんなことを考えながら歩いているうちに、空き地の鳥居までついていた。

鳥居を通ると、最初の部屋……ではなく、ダンジョン内の街の中に居た。
街で中断した場合は、いきなり街の中から始まるようである。

ダンジョン内も日が落ちていて真っ暗だ。
ところどころに提灯がありなんとか歩くぐらいは出来るが、基本的には夜は部屋に引き籠るのが正解なのかも知れない。

ただ宿だけは他と違い明るくすぐ見つけることが出来た。
宿に泊まらなければイベントは発生しない……というわけで、さっそく宿に泊まろう。といったところで大事なことに気が付いた。

「泊る代金ないんですけど」

「嘘でしょ」

全部ポーションにしちゃったから、泊る代金なかったわ。
生首の真顔とか初めてみた気がする。

結局、宿の代金は生首の奢りってことになった。

「ここで見るん?」

「外に出るよりはいいべ。高いほうが良く見えるだろうし」

飲み物片手に、部屋の広縁で話す俺と中村。
手ごろな大きさの机が一つ、それと椅子が三つ。
窓は大きく、眼下には月あかりを映す海が広がっていた。

宿に泊まると、ついついこのスペースに居たくなるよね。
理由は知らんけど。

「おまたー。つまむもの貰ってきったよー」

しばしそんな光景を眺めていると、北上さんが大皿片手に部屋へと入ってきた。
ふわりと香ばしい匂いが漂い、夕飯を食べたばかりなのに少しお腹が空いてくる。

「お、焼き鳥おいしそう」

「軍鶏だってさー」

「っへー」

軍鶏とか食ったことないぞ。
鍋とかにすると美味しいって聞いたことはあるけれど、焼き鳥でも美味しいのだろうか。

「うまっ」

「お酒にあうー」

「飯食いにくるのもありだな」

「金ねーべよ」

ちょっと歯ごたえあって美味しい。
てか北上さん、日本酒かな? ちびちびと舐めるように飲んでるのがなんというかおっさ……いや、なんでもない。

マーシーのところで食うのとは違って、これはこれで良いものだね。
あっちはアメリカンな感じでこっちはもろ和風だ。
まあお金ないんですけどね。


「まあ、暇なときはありかな。ほんと良い眺めだ……し?」

「ん? ……んあ!?」

「あっれ、風景変わった??」

焼き鳥もりもり食べてるうちに、そとの風景がガラッと変わっていた。
さっきまで見えていた海が消え、ただの荒野が眼前に広がっている。

「向こうからなんか来てる」

「お、おお?」

北上さんの言葉を聞いて、そちらに目を向けると暗がりに提灯のあかりがちらほらと見え、そして何かが蠢いているのもみえた。

「BGM付きかよ」

そして聞こえるどこかお祭りの様な曲……え、これあいつらが鳴らしてる? んな訳ないよな。

それはこちらから見ると右手の方向から始まり、徐々に左側へと移動し始める。
そして近づくにつれて、動いているものの輪郭がはっきりと見えてきた。

「ねえねえ、あれぬらりひょん?」

「え? あ、まじだ!」

「すっげ……まじで百鬼夜行だ」

独特の頭のフォルム。
あれはまさに妖怪の親玉と呼ばれるぬらりひょんの姿だろう。俗説って話もあるけど、まあ気にしない。

そして後に続くのも全て妖怪といわれる連中だろう。
中には見知った姿もちらほらとある。……大半が知らないやつではあるけども。

百鬼夜行が進むにつれて、目の前の光景にも変化が現れる。

「街がある? さっきまでなかったよな」

目の前のただの原っぱに、いつのまに時代劇に出てきそうな街並みが出現していた。
街はいくつもの明かりでともされ、ぱっと見は祭りのような光景に見える。

……あれかな、戦闘しなければ祭りになるとかなのかな?
試してみないと分からんけど、それはまあ別の人にお任せしよう。

「浮世絵っぽい雰囲気あるね」

「こりゃ凄いわ」

「これは見たがるやつ多いだろうなあ。どうすんべ、映像だしちゃう?」

「……いやあ、実際に見てからのお楽しみにしたほうが良いかも」

街中をゆっくり、堂々と進むその姿はすごく浮世離れした光景であった。
おそらく実際に近付けば祭りにも参加できるんじゃないかな?
これはかなり需要があるんじゃないかと思う。日本国内でも国外でも。


イベント自体はおよそ1時間ほどで終了した。
祭りに参加したり、戦闘したりすればもっと長く続くのかな? と思ったが、あまり遅くなっても宿に迷惑が掛かるので終わるまで大人しく眺めていたよ。




ダンジョンからの帰り道。
生首を咥えて走り回る太郎と、それを追いかける中村の姿を眺めていると、すすすっと北上さんが寄ってきた。

「ねー、島津くん」

「ほい?」

なにかな?

「今後の予定ってどんなかんじー?」

予定……予定とな?

「アマツのダンジョンかな? とりあえずそろそろ次の階層目指すつもりですけど……」

「そっかー」

これはあれかな。
何か用事があった感じだろうか。

「別にそこまで急いでるわけじゃないんで、予定はいつでも開けられますよ」

「ん、次の階層いってからでいいんだけど。ほら、BBQ広場にできたっていう島? いってみたいなーって」

「ああー」

そういやあったな!
飛行機に乗らないといけないところだったよな、たしか。
無人島らしいし、キャンプするのによさそうな場所だ。

「そうっすね。せっかく練習したし行ってみたいっすねえ」

「ねー」

その時のために、何台も機体をおしゃかにしたのだ。
今こそ訓練の成果を見せる時!

『え、お前本気で言ってんの?』みたいな顔してクロがこっちをじっと見ているけど、気にしたら負けだ。
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