黒とオメガの騎士の子育て〜この子確かに俺とお前にそっくりだけど、産んだ覚えないんですけど!?〜

せるせ

文字の大きさ
38 / 44

三十八話 誰がフェアリーだって?

しおりを挟む
 今日は本当に次から次へと色んなことが立て続けに起こりすぎて、セルジュの頭の中はキャパオーバーで爆発寸前だった。

「え、何だって? エミールがフェアリー?」
「そうだよ」
「そんなはずないだろ。だってあんなに俺にそっくりで、目だって緑……」

 セルジュははっと突拍子もない事を思いついた。

「まさか俺はクロードとの前に、緑眼のフェアリーと体の関係を持っていた?」
「何言ってんの? セルジュ、覚えて無いの?」
「だって怪我が原因で記憶を失ってる間に、あいつの子供を出産したってクロードが……」

 手袋をしている手から血を流しながらも、クロードは両手で挟んだ剣をフランソワの好きにはさせなかった。フランソワは額から汗を流しながらも、冷やかすような口調でクロードに話しかけた。

「まさかフエリト村でフェアリーの赤ん坊を一匹取りこぼしているとは驚きましたよ。しかもちゃっかりステヴナン伯爵が自分の子供として育ててるなんてね。まあでもいい保険になりましたよ。閉じ込めたフェアリーが一匹逃げ出すなんて想定外でしたから」
「お、お前、俺たちをどうするつもりなんだ?」

 勇気を振り絞って叫んだシモンを、フランソワは流し目で冷たく睨んだ。

「なぜそんな事をわざわざ君に説明しなければならないんだ? というか、この私がフエリト村にあの日いた人間だとよく分かったな。顔は隠していたはずなんだが」

「フェアリーを舐めるなよ! 俺たちは弱小種族な分、身を守るための特殊な察知能力を持ってるんだ。それよりお前中央の騎士団員なんだろ? 国民を守るのが仕事なんじゃないのか? それなのに罪のない村人を殺して、部下まで殺そうとするなんて。みんな、い、良い人たちだったのに!」
「私は別になりたくて騎士になったわけじゃない」

 セルジュは驚いてフランソワを見た。

「フランソワ?」
「そんなことは今はどうでもいい。そろそろ日付が変わってしまう。マルク、そのガキを閉じ込めろ」

 マルクは頭のてっぺんからつま先までガタガタ震えていたが、フランソワがさっと投げてよこした琥珀の塊を拾うために、膝をガクガクさせながらゆっくりかがみこんだ。

「マルク!」
「も、申し訳ありません、伯爵。中央にいる子供たちを人質に取られているんです」

 セルジュがすぐに飛び出して琥珀に手を伸ばしたが、横からヒヤリと鋭い気配を感じ、すんでのところで体を捻って地面に再び転がった。

「スティーブ!」
「セルジュ、お前どうやって逃げ出したんだ?」

 剣を構えたスティーブは丸腰のセルジュを見て余裕の表情を浮かべていたが、フランソワに睨まれて途端に笑顔が消えた。

「この役立たずが。フェアリー一匹まともに連行できないのか」
「申し訳ありません! 邪魔が入りまして、私も気絶させられて今さっき目覚めたばかりなんです」
「仕事もろくにできないオメガのくせに、言い訳だけは一丁前だな。さっさとセルジュを始末するんだ」

 スティーブはギリ、と歯を食いしばると、セルジュに向かって剣を振り下ろした。

(まずい! 俺もやるか? 真剣白刃取り!)

 クロードと同じ芸当が自分にできるはずがなかったが、避けるのはもっと難しそうだった。そもそも真剣に熟考する時間など無く、セルジュはほとんど反射的に両手をぱっと額の前に上げた。

「セルジュ!」

 クロードとシモンが同時に叫び、手が切られる痛みを感じる前に、キンッ! と鋭い音がセルジュの耳に届いた。

「う、ぐああああぁぁ!」

 スティーブが剣を取り落として地面にひっくり返っていた。セルジュの左手薬指の指輪から緑の光が伸びて、棘のある植物のような形を取ってスティーブの体に絡み付いている。

「え、何だこれ?」

 驚いたセルジュが左手を動かすと、スティーブは光に体をより締め付けられてさらに叫び声を上げた。

「それ、その指輪からは、魔法生物の強い怒りを感じるよ」

 シモンがそう言うと同時に、締め上げられたスティーブがかはっと血を吐いた。

「ちょ、これ以上は死んじゃうって! 一体どうすれば……」
「念じてみて! 所有者はセルジュなんだ。今はまだ創作者の意志に引きずられてるんだよ!」

 セルジュは慌てて右手でそっと左手の指輪を包み込んだ。

(なんかよく分からないけど、俺の言うことを聞いてくれないか? こいつは罪人で、聞かなければならないこともまだあるし、俺の一存で殺すわけにはいかないんだ)

 セルジュの願いが届いたのか、光の植物はスティーブを締め上げるのをやめ、ポワッと拡散するように光を散らして姿を消した。

(良かった。何とかコントロールできたみたいだ。あれ、でも胸に刺さってる光の棘が消えてないんだが……)

「うわああああああぁぁぁ!」

 突然スティーブが絶叫した。

「スティーブ!?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」

 スティーブは胸をかきむしりながら地面の上を転げ回っている。

「逆らえなくて! オメガは普通の方法じゃ騎士にはなれないんです!」

 スティーブは地面に落ちている自分の剣を拾い上げると、逆手に持って自分の胸を突き刺そうとした。

「ちょっと!」

 セルジュが慌ててスティーブの手を押さえつけると、スティーブは血走った目をカッと見開いてセルジュを睨みつけた。

「放せ!」
「落ち着けって! 急にどうしたんだ?」
「お前が! お前らが俺のことを責めるからだろ!」

 スティーブは錯乱状態なのか、口角から泡を飛ばして訳のわからない事を叫んでいた。

「お前だって普通の方法じゃ騎士になんかなれなかったくせに!」
「それはそうかもしれないけど、だからって……」
「俺は知ってるぞ! フランソワは危険な仕事や骨の折れる仕事の依頼が来た時、自分の代わりにお前を行かせてたんだ。そのためにフエリト村から拾ってきたんだからな」
「……え?」

 セルジュが彼の言葉に一瞬気を取られた隙に、スティーブは押さえつけられていた手をさっと振り払うと、ちょうど心臓真上に刺さっていた棘めがけて両手で剣を突き刺した。

「あっ!」

 胸に剣を突き刺して絶命したスティーブを、セルジュはただただ茫然と見下ろすしかなかった。

(そんな……)

「何してるんだマルク! 早くガキを……」

 フランソワの鋭い声が、セルジュを現実へと引き戻した。

(しまった! そっちが……)

「や、やっぱりできません!」

 マルクは琥珀を一度は拾い上げたものの、再び地面に放り投げて弱々しい声で叫んだ。

「こ、こんな小さな子供を……」

 フランソワはちっと舌打ちすると、剣を捨ててマルクに向かってだっと駆け出した。セルジュも慌ててマルクに向かって腕を伸ばした。

「マルクさん! エミールを渡して!」
「え……」

 マルクは怯えたような表情で隠すようにエミールを抱え込んだ。

「早く!」

 その時、視界の端に赤い光が見えた気がして、セルジュははっと振り返った。

(何だ?)

 聖樹の周りの地面に咲いている白い花が、突然赤い光を放ち始めたのだ。

「……ふげ?」

 と、今まで辺りの喧騒にも全く構わずすやすやと眠っていたエミールが、ここにきてようやく目を覚ました。エミールはぱちっと開いた目でマルクを見上げ、赤い光を放つ聖樹の花を見下ろした。

「ふんぎゃー!」

 赤い花を見た瞬間、エミールが今まで聞いた事もないような声で絶叫した。その声に呼応するように、マルクの一番近くに咲いていた花が突如ミチミチと花弁を広げ、大人の顔ほどの大きさだった花が大人一人が余裕で座れるほどの大きさにまで広がった。

「ひいっ!」

 マルクが驚いて腰を抜かし、地面にぺたりと座り込んだ。セルジュが慌てて腕を伸ばしたが、勢いをつけて走ってきたフランソワが無慈悲にもマルクの腕からエミールを引き剥がした。

「あっ!」

 掴み上げたエミールを、フランソワが巨大化した花の上へと放り投げた。大声で泣きながら花の上に落ちる寸前、ありったけの力で前に飛び出したセルジュがエミールをキャッチすることに成功した。

(うわっ!)

 宙を飛んだセルジュが花弁の中心に見たのは、赤い光を湛えた巨大な穴であった。大口を開けて獲物を待ち構える生き物の口のようなその姿に、セルジュは全身の毛が逆立つのを感じた。

「セルジュ!」

 クロードの血でぬめった手がセルジュの手首をギュッと掴んだ。しかしセルジュと同じように飛んだらしいクロードもセルジュたちを引き上げることはできず、一緒に花の中へと落ちてきた。

「あっ! 放せ!」

 フランソワの悲鳴が聞こえた気がした次の瞬間、まるで水の中に落ちたかのように視界がぼやけ、膜が張ったように周りの物音が聞こえなくなった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる

尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる 🌟第10回BL小説大賞(2022年)奨励賞。2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟 ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。 ――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。 お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。 目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。 ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。 執着攻め×不憫受け 美形公爵×病弱王子 不憫展開からの溺愛ハピエン物語。 ◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。 四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。 なお、※表示のある回はR18描写を含みます。 🌟第10回BL小説大賞での応援ありがとうございました! 🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

「君と番になるつもりはない」と言われたのに記憶喪失の夫から愛情フェロモンが溢れてきます

grotta
BL
【フェロモン過多の記憶喪失アルファ×自己肯定感低め深窓の令息オメガ】 オスカー・ブラントは皇太子との縁談が立ち消えになり別の相手――帝国陸軍近衛騎兵隊長ヘルムート・クラッセン侯爵へ嫁ぐことになる。 以前一度助けてもらった彼にオスカーは好感を持っており、新婚生活に期待を抱く。 しかし結婚早々夫から「つがいにはならない」と宣言されてしまった。 予想外の冷遇に落ち込むオスカーだったが、ある日夫が頭に怪我をして記憶喪失に。 すると今まで抑えられていたαのフェロモンが溢れ、夫に触れると「愛しい」という感情まで漏れ聞こえるように…。 彼の突然の変化に戸惑うが、徐々にヘルムートに惹かれて心を開いていくオスカー。しかし彼の記憶が戻ってまた冷たくされるのが怖くなる。   ある日寝ぼけた夫の口から知らぬ女性の名前が出る。彼には心に秘めた相手がいるのだと悟り、記憶喪失の彼から与えられていたのが偽りの愛だと悟る。 夫とすれ違う中、皇太子がオスカーに強引に復縁を迫ってきて…? 夫ヘルムートが隠している秘密とはなんなのか。傷ついたオスカーは皇太子と夫どちらを選ぶのか? ※以前ショートで書いた話を改変しオメガバースにして公募に出したものになります。(結末や設定は全然違います) ※3万8千字程度の短編です

追放された味見係、【神の舌】で冷徹皇帝と聖獣の胃袋を掴んで溺愛される

水凪しおん
BL
「無能」と罵られ、故郷の王宮を追放された「味見係」のリオ。 行き場を失った彼を拾ったのは、氷のような美貌を持つ隣国の冷徹皇帝アレスだった。 「聖獣に何か食わせろ」という無理難題に対し、リオが作ったのは素朴な野菜スープ。しかしその料理には、食べた者を癒やす伝説のスキル【神の舌】の力が宿っていた! 聖獣を元気にし、皇帝の凍てついた心をも溶かしていくリオ。 「君は俺の宝だ」 冷酷だと思われていた皇帝からの、不器用で真っ直ぐな溺愛。 これは、捨てられた料理人が温かいご飯で居場所を作り、最高にハッピーになる物語。

不遇の第七王子は愛され不慣れで困惑気味です

新川はじめ
BL
 国王とシスターの間に生まれたフィル・ディーンテ。五歳で母を亡くし第七王子として王宮へ迎え入れられたのだが、そこは針の筵だった。唯一優しくしてくれたのは王太子である兄セガールとその友人オーティスで、二人の存在が幼いフィルにとって心の支えだった。  フィルが十八歳になった頃、王宮内で生霊事件が発生。セガールの寝所に夜な夜な現れる生霊を退治するため、彼と容姿のよく似たフィルが囮になることに。指揮を取るのは大魔法師になったオーティスで「生霊が現れたら直ちに捉えます」と言ってたはずなのに何やら様子がおかしい。  生霊はベッドに潜り込んでお触りを始めるし。想い人のオーティスはなぜか黙ってガン見してるし。どうしちゃったの、話が違うじゃん!頼むからしっかりしてくれよぉー!

悪役令嬢のモブ兄に転生したら、攻略対象から溺愛されてしまいました

藍沢真啓/庚あき
BL
俺──ルシアン・イベリスは学園の卒業パーティで起こった、妹ルシアが我が国の王子で婚約者で友人でもあるジュリアンから断罪される光景を見て思い出す。 (あ、これ乙女ゲームの悪役令嬢断罪シーンだ)と。 ちなみに、普通だったら攻略対象の立ち位置にあるべき筈なのに、予算の関係かモブ兄の俺。 しかし、うちの可愛い妹は、ゲームとは別の展開をして、会場から立ち去るのを追いかけようとしたら、攻略対象の一人で親友のリュカ・チューベローズに引き止められ、そして……。 気づけば、親友にでろっでろに溺愛されてしまったモブ兄の運命は── 異世界転生ラブラブコメディです。 ご都合主義な展開が多いので、苦手な方はお気を付けください。

のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした

こたま
BL
オメガの品川拓海(しながわ たくみ)は、現在祖母宅で祖母と飼い猫とのほほんと暮らしている社会人のオメガだ。雇用機会均等法以来門戸の開かれたオメガ枠で某企業に就職している。同期のアルファで営業の高輪響矢(たかなわ きょうや)とは彼の営業サポートとして共に働いている。同期社会人同士のオメガバース、ハッピーエンドです。両片想い、後両想い。攻の愛が重めです。

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。

処理中です...