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4.錆びた黄金②
しおりを挟むもうすぐゴールデンウィークに差し掛かる。
「なあ、せっかくの連休だし3人でどっかいかね!?旅行してえわ~。」
と若宮。
間髪入れずに田嶋が酷く残念そうに続ける。
「部活の大会に向けて毎日練習だから無理だわ~。マジ勘弁。」
そっか~、と椅子をグラグラ揺らしながら若宮は口を膨らましている。
「俺もバイト入ってくれってせがまれてるし割ときびいかも、一日くらいは空けられるけどさ。」
「バイトリーダーは大変だな~、この社畜めがっ。」
うるせえっ、と若宮を小突いて3人で次の授業の準備をし、理科室へ向かう。
今日は理解の実験でカエルの解剖をする。
数名のクラスの男子は盛り上がっているが、女子の殆どは気怠そうにしている。
病弱な彼女は今日も居ない。
前に図書室で遭遇してから彼女の机を少し気にしていたら、田嶋が悪ノリで付き合ってんのか?などと聞いてきたので、それからはあまり見ないようにしている。
「ウゲッ、きんもっ、、あはは!」
男子ははしゃいでいる。
僕はカエルにあまり良い思い出がないので早く終わってくれと願うばかりだ。
「ほらよっ。」
キャーーーーーーー!!!!!!!!!!
甲高い声が響く。
「こら!!!いい加減にしろ前田!!!!!!」
と委員長の小高。
一部始終見ていたが、前田という悪ノリの過ぎる男子生徒が同じ班の女子にカエルを放り投げたらしい。
何やら胸に刺さるものがあった。
なんだ、何かを思い出したような…。
おい!という田嶋の声で後ろを振り向いた。
「大丈夫か?具合でも悪いんか?俺が保健室連れってやろうか?」
そういえば頭が痛い、それに何だか身体も怠いような…。
「おっと、ごめん。ボーッとしてて。確かに何だか調子が悪い、一度保健室行ってくるよ次の授業までに。あ、1人で行くからね。」
そう言って、理科の実験が終わるとその足で保健室へ向かった。
《ガラガラッ》
「あら、いらっしゃい、どうしたの?」
保健室の先生の【桑山先生】が陽気な声色で尋ねてきた。
桑山先生には部活で怪我をした時お世話になった。
病院にも連絡してくれて、救急車に乗るまで付き添ってくれた。
メガネをかけた30半ばくらいの先生。
声は色っぽいが、見た目は少しぽっちゃりしていて、白衣があまり似合ってない。
そんなこと言ったら追い返されそうだけど。
一応熱を測ったが、平熱だったのですぐ保健室を後にしようとした。
すると保健室のベッドのカーテンが開いた。
「「あっ。」」
カーテンの中から出てきた女子生徒と声が重なった。
「あら、川井さん、起きたのね。そういえば西尾くん同じクラスでしょ?川井さん体調良ければ一緒に教室行ったら?」
桑山先生は悪そうな顔で笑いながら言った。
そういえば名前なんて気にしてなかったけど、川井さんっていうの か。
彼女はこちらを怯えたような目つきで伺っている。
俺なんかしたっけな。
悪いこともした覚えがないのにそんなに怖がられると、流石にこちらも気分が悪いので優しい口調で言った。
「大丈夫?川井さん。無理はしないでね。」
いきなりの発言に向こうは暫く言葉を失っていたが、教室から出ようとすると遂にその口は開いた。
「…覚えてないの……?」
「え?」
そういえば彼女は初めて会った時から自分の事を知っているように見えた。
初めて?ん?なんだ?そんな気がしなくなってきた。
混乱している俺の口は意図せず、思いも寄らない言葉を出した。
「カエル…」
きっと実験のせいだろう。
さっきまで見ていたものが口から出てしまうなんて、本当に混乱しているようだ。
しかし彼女はその言葉に酷く敏感に反応した。
「やっぱり…なんで……うぅ……。」
今にも泣き出しそうな彼女と、まだ状況を把握しきれない自分と、自分より状況が分からない桑山先生は口を開いてポケ~っとしている。
そんな開いた口からそのまま言葉が出た。
「2人ともっ。もう4限始まるよー。川井さんは出席するか否か選んで行動しなさーい。」
変わらない陽気な声色で桑山先生は僕を追い出すやつに背中を叩いた。
保健室のドアを閉めた瞬間、頭の中の回路に電撃が走ったかのような衝動に襲われた。
「川井…って…あの……??」
教室に戻ると、彼女は後を追っては来なかった。
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