23 / 47
第三章
23. すみません、この役は荷が重かったです
しおりを挟む
一触即発の雰囲気には慣れているのか、エディは爽やかに笑い返す。そのまま、よどみない口調でセラフィーナの紹介を始めた。
「彼女はセラフィーナ。ご実家はユールスール帝国の侯爵家で、私が親しくさせていただいている大切な女性です。……そして、こちらがレスポワ伯のご息女のカレンデュラ。妹と仲がよかったので、彼女とは昔なじみのようなものです」
「そう、あなたはセラフィーナ様とおっしゃるのね」
「カレンデュラ様には一度お会いしたいと思っていました。エディ様と古くからお付き合いがあると伺いましたので」
挑戦的な眼差しを受け止め、セラフィーナは意味ありげに笑う。
だてに何年も貴族社会に身を投じていない。心の整理はできていなくとも、体が自然と臨戦態勢になる。
──相手に侮られるべからず。
それは名門アールベック侯爵家に生まれてきたセラフィーナが、幼少のときから言い聞かされてきた家訓のひとつ。
人の上に立つ者として威厳を示し、決して隙を見せてはならない。たとえ弱みを握られても余裕の笑みを浮かべるぐらいの腹芸ができなければ、到底やっていけない。方々から恨みを買っている侯爵家を貶めたい連中はごまんといる。
相手につけいる隙を与えるな。会話で主導権を握られてはならない。
かつてセラフィーナが生きてきたのは淑女の仮面を被り、その下では足の引っ張り合いが常の世界だ。
(ただやり込められるだけの弱い娘では、エディ様の役には立たない。彼女が思わず負けを認めるくらいの強い女性──それこそ、物語の悪役令嬢のようでなければ)
ヒロインを泣かす、あの傲慢な悪役の台詞を思い出せ。きっと大丈夫。だって、昔から自分はヒロインにはなれない運命なのだから。
バチバチッと見えない火花が飛び交う中、先に口を開けたのはカレンデュラだった。
「私は昔からエディ様をお慕いしておりました。ゆくゆくは結婚相手として。あなたはエディ様と出会って何日かしら?」
「愚問ですわね。恋に時間は関係ないと思いますが。……ああそれとも、それしか自慢できることはないということでしょうか」
「なんですって!?」
激昂したカレンデュラが目をつり上げた。
彼女は不機嫌な表情を隠そうともしない。威嚇の中の猫ように、敵意を剥き出しにしていた。社交界で生きていけるのか、心配になるほどに。
曲がりなりにも貴族ならば、もう少し感情制御を身に付けねば危ない。エディが彼女を伴侶として選べない理由がなんとなくわかった。
セラフィーナは頬に手を当て、嘆かわしいという顔を作った。
「どうやら愛する人を奪われたとお思いのようですが、何か勘違いしていませんこと? 都合の悪い現実から目を背けているだけでは? 最初からエディ様の心はあなたにはなかった、という事実から」
「なっ……失礼な方ね!? まるで見てきたかのように……!」
くわっと目を剥き、カレンデュラが憎々しげに言う。
一方のセラフィーナは説き伏せるように、ゆったりとした速度で話す。
「直接見てはおりませんが、大まかなお話は伺っております。なんでも自分と結婚するように、しつこくつきまとっていたとか」
「しつこくって何よ! 私と結婚すれば、どれほどのメリットがあるかを教えて差し上げただけよ」
「それを世間一般にはしつこいと言うのですよ」
一刀両断すると、カレンデュラはうっと言葉を詰まらせた。
だがすぐに気を取り直し、彼女はふんと胸を張った。
「そう言うあなたは一体、何なのかしら? 婚約者でもないくせにエディ様を独占しようだなんて。まさか、遠慮というものを知らないのかしら。嫌ですわ、ただの好意でパートナーに選ばれたぐらいで、恋人気分になられては」
恋人気分も何も、今夜のセラフィーナは偽恋人だ。何も間違ってはいない。
セラフィーナは目を見開いて大げさに驚いて見せたあと、扇を開いて口元を隠した。
「まあ。何が違うというのでしょう?」
「は?」
「わたくし、エディ様には大切にされていますのよ。それこそ、恋人のように。彼は跪いてヒールを履かせてくださいましたわ。あなたにはその経験はございまして?」
「な……な……っ!」
「ねえ、エディ様。わたくしは恋人のように慕っておりますが、あなたはどうですか?」
それまで傍観者に徹していたエディに視線を向けると、小さく頷きが返ってきた。
「私も同じ気持ちです。……そもそも、カレンデュラとは古い付き合いがあるというだけで、恋愛感情を向ける相手という認識はありませんでしたし」
カレンデュラは信じられないとでもいうように、言葉をなくしている。
たたみかけるなら今だ。セラフィーナは扇をパンッと閉じ、冷笑を浮かべた。
「おわかりいただけましたか? わたくしとあなたでは違うのです」
「……っ……」
屈辱に耐えかねてか、うつむいていたカレンデュラが踵を返す。色とりどりのドレスの中に消える背中を見届け、セラフィーナはエディに小声で話す。
「……少しはお役に立てたでしょうか?」
「ええ。充分です。ありがとうございました」
おそらく聞き耳を立てていたのだろう。カレンデュラが立ち去ったことで、周囲の囁きが一層大きくなった。エディは人が少ない壁際にセラフィーナを連れていき、好奇な目からかばうように立ってくれる。
薄紅色の髪はもう見えないが、なぜか彼女を探したい気持ちに駆られた。
決して仲良くできるタイプではない。だけど、どこか放っておけない危うさがあった。今回は恋する乙女の暴走だった。思い込みが激しい一面があるのかもしれないが、根は素直なのだと思う。
多感な年頃だ。年上の異性に優しくされて夢を見るぐらい、普通の反応だ。
きれいさっぱり諦めさせるのが目的だったとはいえ、傷つけてしまったことに変わりはない。
「ちょっとかわいそうな気もしますね……」
思わずもれたつぶやきに、エディが硬い表情で答えた。
「こればかりは致し方ないでしょう。ああでも言わないと、カレンデュラは止められませんし。……でも、驚きました」
「え?」
「いつものセラフィーナと違って見えましたから。瞬時にあれほど雰囲気を変えられるのですね。演技とは思えないほど、迫力がすごかったです」
感心したように言われて、セラフィーナはそっと目を伏せた。
「……まあ、そうですね。似たような場面は何度か見たことがありましたので。台詞は小説を参考にさせていただいたのですが、やはりこの役はわたくしには荷が重いですね。悪役になりきる心構えが足りませんでした」
「心構え」
「ええ。良心が痛みます。断罪された身ですが、こういったことは初めてだったものですから。経験不足であることは否めません。高慢な態度を取り続けるのって意外と疲れますね。はったりをかけるぐらいの基礎教養しか自信がありませんもの」
「……基礎教養?」
「祖国では周囲が悪だと認識すれば、実際にしているかは関係なく悪者扱いでしたし。それとも素養の問題でしょうか。いずれにしろ、物語のような完璧な悪役までの道のりは遠いですわ……」
重々しく告げると、沈黙が訪れた。
物語の悪役令嬢はヒロインと敵対する役だからこそ見せ場は多いが、それらしく振る舞うのもなかなか神経を使う。多少は社交界での経験が役に立ったとはいえ、相手を徹底的に追い詰めるのは気分のいいものではない。
眉を寄せたエディは、ためらいがちに切り出した。
「……あの、つまり冤罪だったのですか? どうしてそれを主張しなかったんです?」
「気づいたときには何もかも手遅れだったのですよ。無関係ではありませんでしたし、取り巻きはわたくしに指示されたと言うでしょう。それに、ディック殿下のお心はすでに別の方のものでした。すべてを悟ったとき、わたくしが選べることは、ただ婚約破棄を受け入れることだけでした」
「…………そんな。悔しくはないのですか?」
「いいえ。一連の騒動の責任はわたくしにもあります。周囲の暴走を止められなかった。彼女たちを諫めようとしましたが、どうやっても言葉は届きませんでした。わたくしのため、と言いながらエスカレートする行動を見て見ぬふりをするしかできなかった。すべては、わたくしの力不足です」
あの結果を招いたのは、他でもない自分だ。
過去の自分は諦めてしまった。何を言っても無駄だとわかってしまったから。自分の取り巻きすら満足に動かせない。何が侯爵令嬢だ。彼女たちが求めていた主と自分は違いすぎていた。だから周りが見限ったのだ。
その中で、形だけの婚約者から心が離れていくのも自然の摂理だろう。
「そんなことはないと思いますが。セラフィーナはいつだって、最善を尽くそうとしているじゃありませんか。仕事も弱音一つ吐かずに取り組んでいますし」
「買いかぶりすぎですよ」
「誰が何を言っても、私は自分の直感を信じます。あなたは信頼できる人です」
「…………」
まるで、ありのままの自分でもいいと言われているみたいだった。
ユールスール帝国では誰も信じてくれなかった。
だけど、ここにいた。自分の言葉を変な風に解釈せず、真摯に耳を傾けてくれる人が。
「すみません、私風情が言っても何の慰めにもなりませんね」
「そ、そんなことはありません。……とても嬉しいです」
心からの感謝を告げると、エディが安心したように微笑んだ。その優しい笑みは、頑なに閉じていた蕾が春の暖かさに驚いて花を開かせるほどの威力を放っていた。
(あっ……まずい。遠巻きにこちらの様子を見ていてご夫人たちが、エディ様の放つ色香にあてられて腰が砕けたみたい。連れの男性に支えられて事なきを得ているようだけど……。同じ女性として同情してしまうわ)
美しすぎる男の笑顔は時として凶器になる。たとえ、本人にその気がなくても。
ある程度耐性のあるセラフィーナでさえ、ぐらりときたのだ。一度、距離を取って心を落ち着けたい。ドレスの裾をひとつかみし、退室の許可を願った。
「エディ様。少し夜風にあたってきていいでしょうか?」
「お供しましょう」
「い、いえ。一人で涼んできますので……」
「わかりました。では、お待ちしていますね」
エディに見送られながら、セラフィーナはきらびやかなシャンデリアの下から抜け出した。
「彼女はセラフィーナ。ご実家はユールスール帝国の侯爵家で、私が親しくさせていただいている大切な女性です。……そして、こちらがレスポワ伯のご息女のカレンデュラ。妹と仲がよかったので、彼女とは昔なじみのようなものです」
「そう、あなたはセラフィーナ様とおっしゃるのね」
「カレンデュラ様には一度お会いしたいと思っていました。エディ様と古くからお付き合いがあると伺いましたので」
挑戦的な眼差しを受け止め、セラフィーナは意味ありげに笑う。
だてに何年も貴族社会に身を投じていない。心の整理はできていなくとも、体が自然と臨戦態勢になる。
──相手に侮られるべからず。
それは名門アールベック侯爵家に生まれてきたセラフィーナが、幼少のときから言い聞かされてきた家訓のひとつ。
人の上に立つ者として威厳を示し、決して隙を見せてはならない。たとえ弱みを握られても余裕の笑みを浮かべるぐらいの腹芸ができなければ、到底やっていけない。方々から恨みを買っている侯爵家を貶めたい連中はごまんといる。
相手につけいる隙を与えるな。会話で主導権を握られてはならない。
かつてセラフィーナが生きてきたのは淑女の仮面を被り、その下では足の引っ張り合いが常の世界だ。
(ただやり込められるだけの弱い娘では、エディ様の役には立たない。彼女が思わず負けを認めるくらいの強い女性──それこそ、物語の悪役令嬢のようでなければ)
ヒロインを泣かす、あの傲慢な悪役の台詞を思い出せ。きっと大丈夫。だって、昔から自分はヒロインにはなれない運命なのだから。
バチバチッと見えない火花が飛び交う中、先に口を開けたのはカレンデュラだった。
「私は昔からエディ様をお慕いしておりました。ゆくゆくは結婚相手として。あなたはエディ様と出会って何日かしら?」
「愚問ですわね。恋に時間は関係ないと思いますが。……ああそれとも、それしか自慢できることはないということでしょうか」
「なんですって!?」
激昂したカレンデュラが目をつり上げた。
彼女は不機嫌な表情を隠そうともしない。威嚇の中の猫ように、敵意を剥き出しにしていた。社交界で生きていけるのか、心配になるほどに。
曲がりなりにも貴族ならば、もう少し感情制御を身に付けねば危ない。エディが彼女を伴侶として選べない理由がなんとなくわかった。
セラフィーナは頬に手を当て、嘆かわしいという顔を作った。
「どうやら愛する人を奪われたとお思いのようですが、何か勘違いしていませんこと? 都合の悪い現実から目を背けているだけでは? 最初からエディ様の心はあなたにはなかった、という事実から」
「なっ……失礼な方ね!? まるで見てきたかのように……!」
くわっと目を剥き、カレンデュラが憎々しげに言う。
一方のセラフィーナは説き伏せるように、ゆったりとした速度で話す。
「直接見てはおりませんが、大まかなお話は伺っております。なんでも自分と結婚するように、しつこくつきまとっていたとか」
「しつこくって何よ! 私と結婚すれば、どれほどのメリットがあるかを教えて差し上げただけよ」
「それを世間一般にはしつこいと言うのですよ」
一刀両断すると、カレンデュラはうっと言葉を詰まらせた。
だがすぐに気を取り直し、彼女はふんと胸を張った。
「そう言うあなたは一体、何なのかしら? 婚約者でもないくせにエディ様を独占しようだなんて。まさか、遠慮というものを知らないのかしら。嫌ですわ、ただの好意でパートナーに選ばれたぐらいで、恋人気分になられては」
恋人気分も何も、今夜のセラフィーナは偽恋人だ。何も間違ってはいない。
セラフィーナは目を見開いて大げさに驚いて見せたあと、扇を開いて口元を隠した。
「まあ。何が違うというのでしょう?」
「は?」
「わたくし、エディ様には大切にされていますのよ。それこそ、恋人のように。彼は跪いてヒールを履かせてくださいましたわ。あなたにはその経験はございまして?」
「な……な……っ!」
「ねえ、エディ様。わたくしは恋人のように慕っておりますが、あなたはどうですか?」
それまで傍観者に徹していたエディに視線を向けると、小さく頷きが返ってきた。
「私も同じ気持ちです。……そもそも、カレンデュラとは古い付き合いがあるというだけで、恋愛感情を向ける相手という認識はありませんでしたし」
カレンデュラは信じられないとでもいうように、言葉をなくしている。
たたみかけるなら今だ。セラフィーナは扇をパンッと閉じ、冷笑を浮かべた。
「おわかりいただけましたか? わたくしとあなたでは違うのです」
「……っ……」
屈辱に耐えかねてか、うつむいていたカレンデュラが踵を返す。色とりどりのドレスの中に消える背中を見届け、セラフィーナはエディに小声で話す。
「……少しはお役に立てたでしょうか?」
「ええ。充分です。ありがとうございました」
おそらく聞き耳を立てていたのだろう。カレンデュラが立ち去ったことで、周囲の囁きが一層大きくなった。エディは人が少ない壁際にセラフィーナを連れていき、好奇な目からかばうように立ってくれる。
薄紅色の髪はもう見えないが、なぜか彼女を探したい気持ちに駆られた。
決して仲良くできるタイプではない。だけど、どこか放っておけない危うさがあった。今回は恋する乙女の暴走だった。思い込みが激しい一面があるのかもしれないが、根は素直なのだと思う。
多感な年頃だ。年上の異性に優しくされて夢を見るぐらい、普通の反応だ。
きれいさっぱり諦めさせるのが目的だったとはいえ、傷つけてしまったことに変わりはない。
「ちょっとかわいそうな気もしますね……」
思わずもれたつぶやきに、エディが硬い表情で答えた。
「こればかりは致し方ないでしょう。ああでも言わないと、カレンデュラは止められませんし。……でも、驚きました」
「え?」
「いつものセラフィーナと違って見えましたから。瞬時にあれほど雰囲気を変えられるのですね。演技とは思えないほど、迫力がすごかったです」
感心したように言われて、セラフィーナはそっと目を伏せた。
「……まあ、そうですね。似たような場面は何度か見たことがありましたので。台詞は小説を参考にさせていただいたのですが、やはりこの役はわたくしには荷が重いですね。悪役になりきる心構えが足りませんでした」
「心構え」
「ええ。良心が痛みます。断罪された身ですが、こういったことは初めてだったものですから。経験不足であることは否めません。高慢な態度を取り続けるのって意外と疲れますね。はったりをかけるぐらいの基礎教養しか自信がありませんもの」
「……基礎教養?」
「祖国では周囲が悪だと認識すれば、実際にしているかは関係なく悪者扱いでしたし。それとも素養の問題でしょうか。いずれにしろ、物語のような完璧な悪役までの道のりは遠いですわ……」
重々しく告げると、沈黙が訪れた。
物語の悪役令嬢はヒロインと敵対する役だからこそ見せ場は多いが、それらしく振る舞うのもなかなか神経を使う。多少は社交界での経験が役に立ったとはいえ、相手を徹底的に追い詰めるのは気分のいいものではない。
眉を寄せたエディは、ためらいがちに切り出した。
「……あの、つまり冤罪だったのですか? どうしてそれを主張しなかったんです?」
「気づいたときには何もかも手遅れだったのですよ。無関係ではありませんでしたし、取り巻きはわたくしに指示されたと言うでしょう。それに、ディック殿下のお心はすでに別の方のものでした。すべてを悟ったとき、わたくしが選べることは、ただ婚約破棄を受け入れることだけでした」
「…………そんな。悔しくはないのですか?」
「いいえ。一連の騒動の責任はわたくしにもあります。周囲の暴走を止められなかった。彼女たちを諫めようとしましたが、どうやっても言葉は届きませんでした。わたくしのため、と言いながらエスカレートする行動を見て見ぬふりをするしかできなかった。すべては、わたくしの力不足です」
あの結果を招いたのは、他でもない自分だ。
過去の自分は諦めてしまった。何を言っても無駄だとわかってしまったから。自分の取り巻きすら満足に動かせない。何が侯爵令嬢だ。彼女たちが求めていた主と自分は違いすぎていた。だから周りが見限ったのだ。
その中で、形だけの婚約者から心が離れていくのも自然の摂理だろう。
「そんなことはないと思いますが。セラフィーナはいつだって、最善を尽くそうとしているじゃありませんか。仕事も弱音一つ吐かずに取り組んでいますし」
「買いかぶりすぎですよ」
「誰が何を言っても、私は自分の直感を信じます。あなたは信頼できる人です」
「…………」
まるで、ありのままの自分でもいいと言われているみたいだった。
ユールスール帝国では誰も信じてくれなかった。
だけど、ここにいた。自分の言葉を変な風に解釈せず、真摯に耳を傾けてくれる人が。
「すみません、私風情が言っても何の慰めにもなりませんね」
「そ、そんなことはありません。……とても嬉しいです」
心からの感謝を告げると、エディが安心したように微笑んだ。その優しい笑みは、頑なに閉じていた蕾が春の暖かさに驚いて花を開かせるほどの威力を放っていた。
(あっ……まずい。遠巻きにこちらの様子を見ていてご夫人たちが、エディ様の放つ色香にあてられて腰が砕けたみたい。連れの男性に支えられて事なきを得ているようだけど……。同じ女性として同情してしまうわ)
美しすぎる男の笑顔は時として凶器になる。たとえ、本人にその気がなくても。
ある程度耐性のあるセラフィーナでさえ、ぐらりときたのだ。一度、距離を取って心を落ち着けたい。ドレスの裾をひとつかみし、退室の許可を願った。
「エディ様。少し夜風にあたってきていいでしょうか?」
「お供しましょう」
「い、いえ。一人で涼んできますので……」
「わかりました。では、お待ちしていますね」
エディに見送られながら、セラフィーナはきらびやかなシャンデリアの下から抜け出した。
1
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』
鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
王妃を蔑ろにし、愛妾を寵愛していた王が冷遇していた王妃と入れ替わるお話。
ましゅぺちーの
恋愛
王妃を蔑ろにして、愛妾を寵愛していた王がある日突然その王妃と入れ替わってしまう。
王と王妃は体が元に戻るまで周囲に気づかれないようにそのまま過ごすことを決める。
しかし王は王妃の体に入ったことで今まで見えてこなかった愛妾の醜い部分が見え始めて・・・!?
全18話。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
出来損ないの私がお姉様の婚約者だった王子の呪いを解いてみた結果→
AK
恋愛
「ねえミディア。王子様と結婚してみたくはないかしら?」
ある日、意地の悪い笑顔を浮かべながらお姉様は言った。
お姉様は地味な私と違って公爵家の優秀な長女として、次期国王の最有力候補であった第一王子様と婚約を結んでいた。
しかしその王子様はある日突然不治の病に倒れ、それ以降彼に触れた人は石化して死んでしまう呪いに身を侵されてしまう。
そんは王子様を押し付けるように婚約させられた私だけど、私は光の魔力を有して生まれた聖女だったので、彼のことを救うことができるかもしれないと思った。
お姉様は厄介者と化した王子を押し付けたいだけかもしれないけれど、残念ながらお姉様の思い通りの展開にはさせない。
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろう、ベリーズカフェにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる