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第二章
23. 新事実が発覚しました
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舞踏会の会場に現れたということは、危惧していた親密度は達成できたということだろう。
(それにしても……これぞヒロインって感じのドレスね)
ピンクのシフォン生地が重ねられたドレスは、ふわふわの綿菓子のように甘いデザインだ。肩口は露出しているものの、折り返した襟のロールカラーは気品すら感じる。
腰元にある大ぶりなリボンもシフォン生地のため、それほどくどくない。
桜色の髪と対比させるためか、胸元の部分は濃いピンクで、腰から裾にかけては濃淡をつけている。彼女の雰囲気に調和した、全体的に優しい色合いだ。
「フローリア様」
イザベルが一声かけると、すぐにアメジストの瞳と目が合う。
初めて訪れる場所に困惑していた表情から一変し、ぱあっと表情が華やいだ。まるで探していた恋人を見つけたように。
「ジークフリート様にイザベル様、ごきげんよう」
ドレスの裾を持ち上げて、淑女の礼を取る。一連の動きに無駄は一切なかった。そこには洗練された仕草を身につけた、立派なレディがいた。
驚くイザベルの横で、ジークフリートが満足そうに頷く。
「そのぶんだと、だいぶ礼儀作法は板についてきた感じだな」
「その節はご指導、ありがとうございました」
二人だけの会話に、イザベルは何か重大な見落としがある気がして、慎重に問いかける。
「指導……? なんの話です?」
「イザベルと会えない週末、彼女の個人レッスンをしていたんだ。我が家のマナー講師を交えて、社交界でこれから渡り歩いていくための術をいろいろ教えることになってな」
初めて聞かされる内容に、開いた口が塞がらない。
(個人レッスンなんて、ゲームのイベントにはなかったはず。これって……わたくしがジークを避けていたから? だとすると、ゲームと違う行動をしたら、イベントが変わる……?)
起きてしまったバグを修正する方法はない。しかも、今後のイベントにも影響がある可能性も捨てきれない。
まずは、現状を冷静に見極めなければ。
イザベルは深呼吸をし、動揺しっぱなしの心を落ち着ける。
「では……ダンスレッスンも?」
「もちろん。彼女のレッスンはすべて終わっている。この短期間で大したものだ。無論、ダンスも問題ないはずだ。そうだろう、フローリア?」
「はい! ステップも体に叩き込みました! ジークフリート様のおかげで自信がついてきました」
「僕が教えたことなど、ほんの一部だ。立派なレディに成長できたなら、君が努力した結果だろう」
「あ……ありがとうございます」
フローリアは顔を朱に染め、恥ずかしそうにうつむく。それを見つめるジークフリートは微笑ましそうに目を細める。
(え、なにこれ。……場違い感が半端ないのだけど)
リア充を見せつけられたようで、イザベルの心はやさぐれた。
「彼女は社交界デビューはまだという話だったからな。今夜の舞踏会にも、僕の友人ということで招待させてもらった。練習の成果を披露するのに、これ以上ない舞台だろう」
「そうですか……」
自分のことのように喜ぶ婚約者の顔を直視できない。
フローリアは祈りを捧げる聖女のように、両手を胸の前で組む。
「ジークフリート様には感謝してもしきれません。今夜のドレスも見立てていただきましたし……あの、どこかおかしくないですか?」
「いや、とても似合っている」
「お世辞でも……うれしいです」
「世辞ではない。淡いピンクにして正解だったな。清楚なフローリアに一番似合っている」
イザベルは自分のドレスを見下ろした。
さわやかな新緑をイメージしたドレスは、落ち着いたデザインだが乙女チックとは言いがたい。一方、薄紅のフリルが何層にも重なって揺れるさまは、まさに乙女が憧れるお姫様的デザインである。
たとえるなら、蕾がほころび、これから咲かせようとする可憐な花のような――。
(ピンクが似合うのは子供だけ。そう思っていたのに、フローリア様はピンクがよく似合う。……子供に見られる原因は、わたくしの見た目が問題っていうことね)
どんなに虚勢を張っても、ピンヒールで背伸びをしても、身長の低さは隠せない。幼い声と童顔が合間って、さらに子供っぽく映ることだろう。
対して、フローリアは化粧のせいか、大人びて見える。
まっすぐに背筋を伸ばし、しおらしく微笑む姿は庇護欲をかきたてる。同性からも好かれる優しい雰囲気は、イザベルにはないものだ。
彼女のような人こそ、淑女と呼ぶにふさわしい。
(完全に負けだわ……)
舞踏会が始まる前から、すでに勝負はついていた。
これ以上、二人の顔を見ていられなかった。イザベルの目線の先には、ドレスに合わせた若葉色のピンヒール。尖った靴先は、伯爵令嬢のプライドをかけた武装だ。
一方、フローリアの白いヒールは丸みがかって、誰かを蹴落とさなければ生き残れない貴族社会に身を置くイザベルとは正反対だった。
「申し訳ございません。……お化粧を直してまいります。ジークフリート様は、フローリア様をエスコートなさってください」
「え……」
「イザベル?」
以前の自分なら、敵前逃亡はありえないと一蹴するところだ。
けれどもう、この場にいるのは耐えられなかった。未来を知っているからこそ、余計にみじめな気持ちになる。
逃げるように踵を返すが、追って来る足音はなかった。
(ごめんなさい、ジーク。約束は果たせそうにありません……)
ゲームの主役はフローリア。彼女を中心として世界は回る。
そして、彼女が現在恋する相手はジークフリートだ。彼の婚約者といえど、決められた結末を覆すことは叶わない。
悪役令嬢は、いつだって途中退場がお約束なのだから。
(それにしても……これぞヒロインって感じのドレスね)
ピンクのシフォン生地が重ねられたドレスは、ふわふわの綿菓子のように甘いデザインだ。肩口は露出しているものの、折り返した襟のロールカラーは気品すら感じる。
腰元にある大ぶりなリボンもシフォン生地のため、それほどくどくない。
桜色の髪と対比させるためか、胸元の部分は濃いピンクで、腰から裾にかけては濃淡をつけている。彼女の雰囲気に調和した、全体的に優しい色合いだ。
「フローリア様」
イザベルが一声かけると、すぐにアメジストの瞳と目が合う。
初めて訪れる場所に困惑していた表情から一変し、ぱあっと表情が華やいだ。まるで探していた恋人を見つけたように。
「ジークフリート様にイザベル様、ごきげんよう」
ドレスの裾を持ち上げて、淑女の礼を取る。一連の動きに無駄は一切なかった。そこには洗練された仕草を身につけた、立派なレディがいた。
驚くイザベルの横で、ジークフリートが満足そうに頷く。
「そのぶんだと、だいぶ礼儀作法は板についてきた感じだな」
「その節はご指導、ありがとうございました」
二人だけの会話に、イザベルは何か重大な見落としがある気がして、慎重に問いかける。
「指導……? なんの話です?」
「イザベルと会えない週末、彼女の個人レッスンをしていたんだ。我が家のマナー講師を交えて、社交界でこれから渡り歩いていくための術をいろいろ教えることになってな」
初めて聞かされる内容に、開いた口が塞がらない。
(個人レッスンなんて、ゲームのイベントにはなかったはず。これって……わたくしがジークを避けていたから? だとすると、ゲームと違う行動をしたら、イベントが変わる……?)
起きてしまったバグを修正する方法はない。しかも、今後のイベントにも影響がある可能性も捨てきれない。
まずは、現状を冷静に見極めなければ。
イザベルは深呼吸をし、動揺しっぱなしの心を落ち着ける。
「では……ダンスレッスンも?」
「もちろん。彼女のレッスンはすべて終わっている。この短期間で大したものだ。無論、ダンスも問題ないはずだ。そうだろう、フローリア?」
「はい! ステップも体に叩き込みました! ジークフリート様のおかげで自信がついてきました」
「僕が教えたことなど、ほんの一部だ。立派なレディに成長できたなら、君が努力した結果だろう」
「あ……ありがとうございます」
フローリアは顔を朱に染め、恥ずかしそうにうつむく。それを見つめるジークフリートは微笑ましそうに目を細める。
(え、なにこれ。……場違い感が半端ないのだけど)
リア充を見せつけられたようで、イザベルの心はやさぐれた。
「彼女は社交界デビューはまだという話だったからな。今夜の舞踏会にも、僕の友人ということで招待させてもらった。練習の成果を披露するのに、これ以上ない舞台だろう」
「そうですか……」
自分のことのように喜ぶ婚約者の顔を直視できない。
フローリアは祈りを捧げる聖女のように、両手を胸の前で組む。
「ジークフリート様には感謝してもしきれません。今夜のドレスも見立てていただきましたし……あの、どこかおかしくないですか?」
「いや、とても似合っている」
「お世辞でも……うれしいです」
「世辞ではない。淡いピンクにして正解だったな。清楚なフローリアに一番似合っている」
イザベルは自分のドレスを見下ろした。
さわやかな新緑をイメージしたドレスは、落ち着いたデザインだが乙女チックとは言いがたい。一方、薄紅のフリルが何層にも重なって揺れるさまは、まさに乙女が憧れるお姫様的デザインである。
たとえるなら、蕾がほころび、これから咲かせようとする可憐な花のような――。
(ピンクが似合うのは子供だけ。そう思っていたのに、フローリア様はピンクがよく似合う。……子供に見られる原因は、わたくしの見た目が問題っていうことね)
どんなに虚勢を張っても、ピンヒールで背伸びをしても、身長の低さは隠せない。幼い声と童顔が合間って、さらに子供っぽく映ることだろう。
対して、フローリアは化粧のせいか、大人びて見える。
まっすぐに背筋を伸ばし、しおらしく微笑む姿は庇護欲をかきたてる。同性からも好かれる優しい雰囲気は、イザベルにはないものだ。
彼女のような人こそ、淑女と呼ぶにふさわしい。
(完全に負けだわ……)
舞踏会が始まる前から、すでに勝負はついていた。
これ以上、二人の顔を見ていられなかった。イザベルの目線の先には、ドレスに合わせた若葉色のピンヒール。尖った靴先は、伯爵令嬢のプライドをかけた武装だ。
一方、フローリアの白いヒールは丸みがかって、誰かを蹴落とさなければ生き残れない貴族社会に身を置くイザベルとは正反対だった。
「申し訳ございません。……お化粧を直してまいります。ジークフリート様は、フローリア様をエスコートなさってください」
「え……」
「イザベル?」
以前の自分なら、敵前逃亡はありえないと一蹴するところだ。
けれどもう、この場にいるのは耐えられなかった。未来を知っているからこそ、余計にみじめな気持ちになる。
逃げるように踵を返すが、追って来る足音はなかった。
(ごめんなさい、ジーク。約束は果たせそうにありません……)
ゲームの主役はフローリア。彼女を中心として世界は回る。
そして、彼女が現在恋する相手はジークフリートだ。彼の婚約者といえど、決められた結末を覆すことは叶わない。
悪役令嬢は、いつだって途中退場がお約束なのだから。
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