悪役令嬢は執事見習いに宣戦布告される

仲室日月奈

文字の大きさ
44 / 84
第四章

44. バッドエンド回避なるか?

しおりを挟む
 これは家と家の事情による政略結婚なのだから、レオンの意見は正しい。
 けれど、そこに乙女ゲームのシナリオが加われば、話は別だ。

「そうですね。当家が不祥事など起こさなければ、ですけどね」
「…………何か不正をしているのか?」
「もし、そんなことをしていたら、身内であろうと法的に罰してもらいます」

 不正があれば正さねばならない。
 エルライン伯爵家の一員として、身内に道を踏み外した者がいるなら、それを戒めるのもイザベルの役目だと思っている。家族だからといって慈悲を与えるような真似はしない。やるならば徹底的に、だ。
 イザベルの気迫が伝わったのか、レオンがごくりと唾を飲み込んだ。

「そ、そうだよな……お前はそういうやつだよな。じゃあ、何も心配はいらないだろ?」
「ですが……未来は不確定じゃないですか。ある日、宝石がただのガラスになったり、空から無数のお菓子が降り注いだり、雨水が砂糖水になったりするかもしれません。ありえないことが現実に起こる可能性はゼロではないんですよ!」

 ぐいっと身を乗り出し、不安を小声でぶちまける。レオンは及び腰になりながらも、声の音量は極力抑えて早口でまくしたてる。

「さっきの例え話はともかく、言いたいことはわかった! だからそれ以上、俺を恐ろしい形相で睨みつけるな! お前はただでさえ、目つきが鋭いんだから」
「あら……失礼しました」

 鼻先まで近づいていた顔を離し、イザベルは元の距離に戻る。
 レオンはあぐらをかいて、大げさなため息をつく。
 この数分の間に、彼がやつれた感じがするのは気のせいだろうか。無造作に前髪をかきあげたかと思えば、一瞬動きを止め、イザベルを見上げた。

「そういえば、クラウドも実行委員じゃなかったか? 委員は毎年、貴族生徒と一般生徒から無作為に選ばれるだろ」

 白薔薇ルートでは、クラウドは実行委員にならない。彼が実行委員になるのは紅薔薇ルートのみ。本来のキャスティングと異なる原因を考え、ふと脳裏によぎるのはピンクのドレス姿のヒロイン。

(よくよく思い出せば、舞踏会でフローリア様と踊っていたのはクラウドだったわね……。じゃあ、今回の配役変更はそのせい?)

 その点を踏まえると、舞踏会で踊ったキャラが実行委員に選ばれると考えるのが妥当だろう。
 胸のざわめきを押し殺し、イザベルは静かに同意した。

「……クラウドは、子爵家の嫡男だから選ばれたのでしょう」
「あとは男爵家の令嬢がもう一人いたよな。改めて思うが、実行委員はつくづく損な役回りだよな。他の生徒は準備一つもせず、不平等だ」
「……っ!」

 不平等だ、という言葉は、黄薔薇ルートでレオンが不満げに言うセリフだ。
 星祭り実行委員は、学園一、面倒な仕事と言っても過言ではない。
 それを普段は面倒ごとから逃げる王子が手伝ってくれ、他の委員から仕事を多めに割り振られた主人公に「お前一人で背負う仕事じゃない」とたしなめる。そして、王子の権限で委員全員に仕事を配分し直すのだ。

(わかっていたつもりだったけど、やっぱりレオン王子は、あのゲームのレオンなのね……)

 嬉しいような、悲しいような、相反する気持ちがせめぎあい、言葉を失う。
 レオンは微動だにしないイザベルを訝しみ、声色を低くした。

「どうした?」
「い、いえ。なんでもありません」

 ガーデンテラスからは楽しそうに談笑する声が聞こえてくる。
 正方形のテーブルで真向かいに座る二人は、机上に広げた資料を覗き込みながら意見を交わしていた。

「……フローリア様は楽しそうですけどね」
「あれは意外と肝が据わっているタイプだ。困難を前にしても、そう簡単に諦める性格じゃないだろう」

 数々の嫌がらせを密偵の修行のようにこなしていたのだから、主人公の心のタフさは筋金入りだろう。

「よくご存知なのですね」
「道に迷ったなど、物が隠されて困ってるなど、さんざんトラブルの後処理を手伝っただけだ」
「なるほど。そうして友情を深めていき、気づけば好きになっていたパターンですか。ありがちですね」

 辛口にコメントすると、レオンは頬を桃色に染め、すぐさま抗議した。

「ち……ちがっ! あくまで友人としてだ!」
「本人がそう言い張るなら、そういうことにしておきましょうか」
「話を聞けよ! 俺は目の前の困っていたやつを助けただけだ。友情と恋愛感情はまた別だからな!」

 なにやら必死な言い訳が聞こえてくるが、右耳から左耳に聞き流した。
 イザベルにとって一番気になることは、現在の好感度である。しかし、ゲームとは違ってパラメーターは視覚化されておらず、一目見ただけでは確認は不可能だ。
 とはいえ、二人の仲を見るからに、親密度はいくらか回復しているようだ。
 よく言えば、恋人一歩手前。もう少し時間をかければ、薔薇のゲージも基準値を満たすことも可能かもしれない。
 バッドエンド回避の道を見つけ、イザベルはほっと胸をなでおろした。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

【完結】溺愛?執着?転生悪役令嬢は皇太子から逃げ出したい~絶世の美女の悪役令嬢はオカメを被るが、独占しやすくて皇太子にとって好都合な模様~

うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
 平安のお姫様が悪役令嬢イザベルへと転生した。平安の記憶を思い出したとき、彼女は絶望することになる。  絶世の美女と言われた切れ長の細い目、ふっくらとした頬、豊かな黒髪……いわゆるオカメ顔ではなくなり、目鼻立ちがハッキリとし、ふくよかな頬はなくなり、金の髪がうねるというオニのような見た目(西洋美女)になっていたからだ。  今世での絶世の美女でも、美意識は平安。どうにか、この顔を見られない方法をイザベルは考え……、それは『オカメ』を装備することだった。  オカメ狂の悪役令嬢イザベルと、  婚約解消をしたくない溺愛・執着・イザベル至上主義の皇太子ルイスのオカメラブコメディー。 ※執着溺愛皇太子と平安乙女のオカメな悪役令嬢とのラブコメです。 ※主人公のイザベルの思考と話す言葉の口調が違います。分かりにくかったら、すみません。 ※途中からダブルヒロインになります。 イラストはMasquer様に描いて頂きました。

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

【完結】ヤンデレ乙女ゲームの転生ヒロインは、囮を差し出して攻略対象を回避する。はずが、隣国の王子様にばれてしまいました(詰み)

瀬里@SMARTOON8/31公開予定
恋愛
 ヤンデレだらけの乙女ゲームに転生してしまったヒロイン、アシュリー。周りには、攻略対象のヤンデレ達が勢ぞろい。  しかし、彼女は、実現したい夢のために、何としても攻略対象を回避したいのだ。  そこで彼女は、ヤンデレ攻略対象を回避する妙案を思いつく。  それは、「ヒロイン養成講座」で攻略対象好みの囮(私のコピー)を養成して、ヤンデレたちに差し出すこと。(もちろん希望者)  しかし、そこへ隣国からきた第五王子様にこの活動がばれてしまった!!  王子は、黙っている代償に、アシュリーに恋人契約を要求してきて!?  全14話です+番外編4話

転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜

矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】 公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。 この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。 小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。 だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。 どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。 それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――? *異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。 *「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

処理中です...