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第四章
44. バッドエンド回避なるか?
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これは家と家の事情による政略結婚なのだから、レオンの意見は正しい。
けれど、そこに乙女ゲームのシナリオが加われば、話は別だ。
「そうですね。当家が不祥事など起こさなければ、ですけどね」
「…………何か不正をしているのか?」
「もし、そんなことをしていたら、身内であろうと法的に罰してもらいます」
不正があれば正さねばならない。
エルライン伯爵家の一員として、身内に道を踏み外した者がいるなら、それを戒めるのもイザベルの役目だと思っている。家族だからといって慈悲を与えるような真似はしない。やるならば徹底的に、だ。
イザベルの気迫が伝わったのか、レオンがごくりと唾を飲み込んだ。
「そ、そうだよな……お前はそういうやつだよな。じゃあ、何も心配はいらないだろ?」
「ですが……未来は不確定じゃないですか。ある日、宝石がただのガラスになったり、空から無数のお菓子が降り注いだり、雨水が砂糖水になったりするかもしれません。ありえないことが現実に起こる可能性はゼロではないんですよ!」
ぐいっと身を乗り出し、不安を小声でぶちまける。レオンは及び腰になりながらも、声の音量は極力抑えて早口でまくしたてる。
「さっきの例え話はともかく、言いたいことはわかった! だからそれ以上、俺を恐ろしい形相で睨みつけるな! お前はただでさえ、目つきが鋭いんだから」
「あら……失礼しました」
鼻先まで近づいていた顔を離し、イザベルは元の距離に戻る。
レオンはあぐらをかいて、大げさなため息をつく。
この数分の間に、彼がやつれた感じがするのは気のせいだろうか。無造作に前髪をかきあげたかと思えば、一瞬動きを止め、イザベルを見上げた。
「そういえば、クラウドも実行委員じゃなかったか? 委員は毎年、貴族生徒と一般生徒から無作為に選ばれるだろ」
白薔薇ルートでは、クラウドは実行委員にならない。彼が実行委員になるのは紅薔薇ルートのみ。本来のキャスティングと異なる原因を考え、ふと脳裏によぎるのはピンクのドレス姿のヒロイン。
(よくよく思い出せば、舞踏会でフローリア様と踊っていたのはクラウドだったわね……。じゃあ、今回の配役変更はそのせい?)
その点を踏まえると、舞踏会で踊ったキャラが実行委員に選ばれると考えるのが妥当だろう。
胸のざわめきを押し殺し、イザベルは静かに同意した。
「……クラウドは、子爵家の嫡男だから選ばれたのでしょう」
「あとは男爵家の令嬢がもう一人いたよな。改めて思うが、実行委員はつくづく損な役回りだよな。他の生徒は準備一つもせず、不平等だ」
「……っ!」
不平等だ、という言葉は、黄薔薇ルートでレオンが不満げに言うセリフだ。
星祭り実行委員は、学園一、面倒な仕事と言っても過言ではない。
それを普段は面倒ごとから逃げる王子が手伝ってくれ、他の委員から仕事を多めに割り振られた主人公に「お前一人で背負う仕事じゃない」とたしなめる。そして、王子の権限で委員全員に仕事を配分し直すのだ。
(わかっていたつもりだったけど、やっぱりレオン王子は、あのゲームのレオンなのね……)
嬉しいような、悲しいような、相反する気持ちがせめぎあい、言葉を失う。
レオンは微動だにしないイザベルを訝しみ、声色を低くした。
「どうした?」
「い、いえ。なんでもありません」
ガーデンテラスからは楽しそうに談笑する声が聞こえてくる。
正方形のテーブルで真向かいに座る二人は、机上に広げた資料を覗き込みながら意見を交わしていた。
「……フローリア様は楽しそうですけどね」
「あれは意外と肝が据わっているタイプだ。困難を前にしても、そう簡単に諦める性格じゃないだろう」
数々の嫌がらせを密偵の修行のようにこなしていたのだから、主人公の心のタフさは筋金入りだろう。
「よくご存知なのですね」
「道に迷ったなど、物が隠されて困ってるなど、さんざんトラブルの後処理を手伝っただけだ」
「なるほど。そうして友情を深めていき、気づけば好きになっていたパターンですか。ありがちですね」
辛口にコメントすると、レオンは頬を桃色に染め、すぐさま抗議した。
「ち……ちがっ! あくまで友人としてだ!」
「本人がそう言い張るなら、そういうことにしておきましょうか」
「話を聞けよ! 俺は目の前の困っていたやつを助けただけだ。友情と恋愛感情はまた別だからな!」
なにやら必死な言い訳が聞こえてくるが、右耳から左耳に聞き流した。
イザベルにとって一番気になることは、現在の好感度である。しかし、ゲームとは違ってパラメーターは視覚化されておらず、一目見ただけでは確認は不可能だ。
とはいえ、二人の仲を見るからに、親密度はいくらか回復しているようだ。
よく言えば、恋人一歩手前。もう少し時間をかければ、薔薇のゲージも基準値を満たすことも可能かもしれない。
バッドエンド回避の道を見つけ、イザベルはほっと胸をなでおろした。
けれど、そこに乙女ゲームのシナリオが加われば、話は別だ。
「そうですね。当家が不祥事など起こさなければ、ですけどね」
「…………何か不正をしているのか?」
「もし、そんなことをしていたら、身内であろうと法的に罰してもらいます」
不正があれば正さねばならない。
エルライン伯爵家の一員として、身内に道を踏み外した者がいるなら、それを戒めるのもイザベルの役目だと思っている。家族だからといって慈悲を与えるような真似はしない。やるならば徹底的に、だ。
イザベルの気迫が伝わったのか、レオンがごくりと唾を飲み込んだ。
「そ、そうだよな……お前はそういうやつだよな。じゃあ、何も心配はいらないだろ?」
「ですが……未来は不確定じゃないですか。ある日、宝石がただのガラスになったり、空から無数のお菓子が降り注いだり、雨水が砂糖水になったりするかもしれません。ありえないことが現実に起こる可能性はゼロではないんですよ!」
ぐいっと身を乗り出し、不安を小声でぶちまける。レオンは及び腰になりながらも、声の音量は極力抑えて早口でまくしたてる。
「さっきの例え話はともかく、言いたいことはわかった! だからそれ以上、俺を恐ろしい形相で睨みつけるな! お前はただでさえ、目つきが鋭いんだから」
「あら……失礼しました」
鼻先まで近づいていた顔を離し、イザベルは元の距離に戻る。
レオンはあぐらをかいて、大げさなため息をつく。
この数分の間に、彼がやつれた感じがするのは気のせいだろうか。無造作に前髪をかきあげたかと思えば、一瞬動きを止め、イザベルを見上げた。
「そういえば、クラウドも実行委員じゃなかったか? 委員は毎年、貴族生徒と一般生徒から無作為に選ばれるだろ」
白薔薇ルートでは、クラウドは実行委員にならない。彼が実行委員になるのは紅薔薇ルートのみ。本来のキャスティングと異なる原因を考え、ふと脳裏によぎるのはピンクのドレス姿のヒロイン。
(よくよく思い出せば、舞踏会でフローリア様と踊っていたのはクラウドだったわね……。じゃあ、今回の配役変更はそのせい?)
その点を踏まえると、舞踏会で踊ったキャラが実行委員に選ばれると考えるのが妥当だろう。
胸のざわめきを押し殺し、イザベルは静かに同意した。
「……クラウドは、子爵家の嫡男だから選ばれたのでしょう」
「あとは男爵家の令嬢がもう一人いたよな。改めて思うが、実行委員はつくづく損な役回りだよな。他の生徒は準備一つもせず、不平等だ」
「……っ!」
不平等だ、という言葉は、黄薔薇ルートでレオンが不満げに言うセリフだ。
星祭り実行委員は、学園一、面倒な仕事と言っても過言ではない。
それを普段は面倒ごとから逃げる王子が手伝ってくれ、他の委員から仕事を多めに割り振られた主人公に「お前一人で背負う仕事じゃない」とたしなめる。そして、王子の権限で委員全員に仕事を配分し直すのだ。
(わかっていたつもりだったけど、やっぱりレオン王子は、あのゲームのレオンなのね……)
嬉しいような、悲しいような、相反する気持ちがせめぎあい、言葉を失う。
レオンは微動だにしないイザベルを訝しみ、声色を低くした。
「どうした?」
「い、いえ。なんでもありません」
ガーデンテラスからは楽しそうに談笑する声が聞こえてくる。
正方形のテーブルで真向かいに座る二人は、机上に広げた資料を覗き込みながら意見を交わしていた。
「……フローリア様は楽しそうですけどね」
「あれは意外と肝が据わっているタイプだ。困難を前にしても、そう簡単に諦める性格じゃないだろう」
数々の嫌がらせを密偵の修行のようにこなしていたのだから、主人公の心のタフさは筋金入りだろう。
「よくご存知なのですね」
「道に迷ったなど、物が隠されて困ってるなど、さんざんトラブルの後処理を手伝っただけだ」
「なるほど。そうして友情を深めていき、気づけば好きになっていたパターンですか。ありがちですね」
辛口にコメントすると、レオンは頬を桃色に染め、すぐさま抗議した。
「ち……ちがっ! あくまで友人としてだ!」
「本人がそう言い張るなら、そういうことにしておきましょうか」
「話を聞けよ! 俺は目の前の困っていたやつを助けただけだ。友情と恋愛感情はまた別だからな!」
なにやら必死な言い訳が聞こえてくるが、右耳から左耳に聞き流した。
イザベルにとって一番気になることは、現在の好感度である。しかし、ゲームとは違ってパラメーターは視覚化されておらず、一目見ただけでは確認は不可能だ。
とはいえ、二人の仲を見るからに、親密度はいくらか回復しているようだ。
よく言えば、恋人一歩手前。もう少し時間をかければ、薔薇のゲージも基準値を満たすことも可能かもしれない。
バッドエンド回避の道を見つけ、イザベルはほっと胸をなでおろした。
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