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第1章 - 新たな発見
言語の探求 ~学術の海に漕ぎ出す~
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朝の光が言語学院の図書館に差し込んでいた。陸は早朝から広大な図書館に籠もり、様々な言語の書物を前に黙々と研究していた。召喚されてから一週間が経ち、彼は学院の生活に少しずつ慣れてきていた。
「これは...」
陸は古い羊皮紙に書かれた文字を見つめていた。それは「大分裂」以前の古代共通語で書かれた文献だった。現代の言語とは異なる、しかし何となく見覚えのある文字体系。
「やはり、全ての言語の根源は同じなのだな」
彼は気づいていた。この世界の言語は、単に時間をかけて自然に分裂したわけではない。「大分裂」と呼ばれる突然の出来事が、言語を意図的に分断させたのではないかと。古代の文献には、その痕跡が残されていた。
「陸さん、こんな早くから勉強されているんですね」
リーシェが本を抱えて近づいてきた。彼女の髪は朝の光に青く輝いている。
「ああ、気になることがあって。この世界の言語の起源について調べているんだ」
「古代共通語の研究ですか?学院の中でも、専門的すぎて研究者が少ない分野ですね」
陸は自分の研究ノートを見せた。そこには、各種族の言語の共通点と相違点が整理されていた。
「見てくれ。エルフ語の母音体系とドワーフ語の子音体系には共通する法則がある。獣人族の言語は、一見すると全く異なるように見えるが、文法構造に共通点がある。これは全て、元は一つの言語だったことを示している」
リーシェは驚いた顔で陸のノートを覗き込んだ。
「そんな分析をされていたんですね!確かに、一般には異なる言語族とされていますが、こうして比較すると...」
「さらに興味深いのは、これだ」
陸は古代の地図を広げた。そこには、現在の大陸が描かれているが、国境線は全く異なっていた。
「この地図は『大分裂』以前のものだ。種族による国境線がない。つまり、当時は種族間の交流が活発で、言語も一つだったのだろう」
リーシェは興味深そうに地図を見つめていた。
「これは重要な発見かもしれません。でも、なぜ言語が分裂したのでしょうか?」
「それを調べている最中だ。『大分裂』という出来事自体の記録は驚くほど少ない。まるで、歴史から消されたかのようだ」
二人が議論していると、図書館の奥から足音が聞こえてきた。振り返ると、マゼンタ学院長が立っていた。長い灰色の髪と髭を持つ中年の男性で、深い智慧を湛えた目をしている。
「おはようございます、学院長」リーシェが挨拶した。
マゼンタ学院長は何か言ったが、陸には理解できなかった。しかし、その瞬間、陸の脳内に何かが閃いた。
【スキル発動:言語理解Lv1】
【効果:未知の言語の一部を理解できるようになりました。現在対応言語:学院長の個人言語(部分的)】
「...興味深い研究をしているようだね、陸君」
驚いたことに、学院長の言葉が部分的に理解できた。まだ全てではないが、断片的に意味が分かる。
「理解できましたか?」リーシェが驚いた声で尋ねた。
「ああ、部分的にだが。新しいスキルが発動したようだ」
学院長は微笑んだ。彼はリーシェに向かって何か言った。リーシェが通訳する。
「学院長は『言語理解の才能が目覚めたようだ』と言っています。そして、あなたの研究について、学院の特別アーカイブへのアクセス権を与えたいと」
陸は驚いた。「特別アーカイブ?」
「はい!」リーシェの目が輝いた。「学院の地下にある、一般の学生が立ち入れない貴重な文献庫です。古代の言語や失われた文明についての記録が保管されています」
学院長は再び何かを言った。今度は、陸はより多くの言葉を理解できた。
「大分裂の真実...知る必要がある...危険も伴うが...」
リーシェが補足した。「学院長は『大分裂の真実を知ることは重要だが、危険も伴う。しかし、あなたならその使命を果たせるだろう』と言っています」
陸は深く頭を下げた。「ありがとうございます。慎重に研究を進めます」
学院長は頷き、陸とリーシェに来るように手招きした。三人は図書館の奥へと向かった。普段は立ち入れない区域だったが、学院長の魔法で封印が解かれ、隠された扉が現れた。
扉の先には、螺旋階段が地下へと続いていた。壁には古代の文字が刻まれ、魔法の灯りが幻想的な空間を照らしていた。
「これが特別アーカイブへの入り口だ」
階段を下りた先に、彼らが目にしたのは驚くべき光景だった。巨大な円形の部屋に、無数の書架が放射状に並んでいる。天井は高く、魔法の星が宇宙のように輝いていた。中央には、巨大な水晶のテーブルがあり、その上には古代の言語で書かれた巨大な書物が開かれていた。
「なんと美しい...」リーシェが息を呑んだ。
学院長は水晶のテーブルに近づき、巨大な書物を指さした。そして、陸に向かって話し始めた。
「これは『言語の書』...古代の賢者たちが残した...大分裂の記録...」
陸は書物を覗き込んだ。その瞬間、彼の頭の中に強烈な光景が浮かび上がった。
---
空が赤く染まる。巨大な塔が大地を貫き、天に向かって伸びている。塔の頂上では、複数の魔法使いが円を描いて立ち、呪文を唱えている。
「これ以上、彼らに力を与えてはならない!」
「言葉の力を分断せよ!種族を分けよ!」
強烈な光が塔から放たれ、大地を覆う。光が通り過ぎた後、人々は互いの言葉を理解できなくなっていた。混乱、恐怖、そして怒り。
「なぜ我々の言葉を奪うのだ!」
「我々は自由を求めただけだ!」
魔法使いたちは塔から姿を消し、各地に散らばった。彼らは新たな言語を創り出し、自らの種族だけが理解できる言葉を作り上げていった。
「二度と彼らの言葉を理解させてはならない」
「言語の力を分断することで、世界の支配が可能になる」
---
陸は激しく息を吐き、ビジョンから覚めた。
「何が見えたのだ?」学院長が尋ねた。今やその言葉は完全に理解できるようになっていた。
「大分裂の瞬間です。言語が意図的に分断された。それは...権力を持つ者たちによる策略だったのではないでしょうか」
学院長は深刻な表情で頷いた。「その通りだ。大分裂は自然な現象ではなく、権力を握るために意図的に引き起こされたものだ。しかし、その真実は長い間隠されてきた」
リーシェは驚きの表情を浮かべていた。「そんな...でも、どうして?」
「種族間の対立を生み出し、互いを理解できなくすることで、支配が容易になるからだ」学院長は説明した。「言語は単なる意思疎通の手段ではない。それは思考の形であり、世界を認識する方法でもある。言語を分断することで、人々の思考も分断されたのだ」
陸は『言語の書』を見つめた。「では、この書物には元の言語が記録されているのですか?」
「そうだ。しかし、その言語を理解するのは容易ではない。なぜなら、大分裂によって私たちの脳は特定の言語パターンにしか反応できなくなっているからだ」
学院長は書物のページをめくった。そこには、複雑な文字とシンボルが描かれていた。
「これが古代共通語だ。全ての言語の源となる言葉だ」
陸はその文字を見つめた。奇妙なことに、それらの文字は意味を持たないはずなのに、何か強い既視感を抱いた。
「なぜ私が召喚されたのか...少し理解できるかもしれません」
学院長は頷いた。「予言では、『言葉の壁を超える者』が現れると言われていた。それはただ単に言語を翻訳できる者ではなく, 言語の本質を理解し、大分裂以前の状態を取り戻す者だと考えられている」
リーシェは陸を見つめた。「でも、それは危険なことではないですか?権力者たちは、言語が統一されることを望まないでしょう」
「その通りだ」学院長は重々しく言った。「だからこそ、この研究は秘密裏に行わなければならない。陸君、これから君は大きな挑戦に直面することになる。言語の真実を解き明かすことは、この世界の権力構造に挑戦することでもある」
陸は決意を固めた。「私は外交官として、言葉の壁を超えることがどれほど重要か理解しています。言語が分断されることで生まれる誤解や対立を、前世でも何度も目にしてきました。この世界でも同じことが起きているのなら、私には使命があります」
その瞬間、陸の頭の中に文字が浮かび上がった。
【スキル進化:言語理解Lv1→Lv2】
【新スキル取得:古代共通語解読Lv1】
【効果:古代共通語の基本的な単語とシンボルを理解できるようになりました】
「スキルが進化しました」
学院長は微笑んだ。「素晴らしい。これから、君は定期的にこのアーカイブで研究を続けるといい。私も可能な限り協力しよう」
「ありがとうございます」陸は頭を下げた。
「しかし、注意すべきことがある」学院長の表情が厳しくなった。「学院の中にも、大分裂の真実を隠そうとする勢力がいる。彼らは『守護者』と呼ばれ、言語の統一を阻止することを使命としている。君の研究が彼らの耳に入れば、危険な事態になるかもしれない」
リーシェは不安そうな表情を浮かべた。「守護者...?」
「そうだ。彼らは表向きは言語の多様性を守る学者のように振る舞っているが、実際は大分裂を引き起こした魔法使いたちの末裔だ」
陸は思案した。「では、私の研究は秘密にしておくべきですね」
「そうだ。ただ、君一人では難しい。信頼できる仲間を見つけることも大切だ」
学院長はリーシェに視線を向けた。「リーシェ、君は陸君のサポートを続けてくれるか?」
リーシェは迷いなく答えた。「もちろんです!私も真実を知りたいです」
「それから、先日君が仲良くなったエルフとドワーフの学生たちも、信頼できるかもしれない」学院長は提案した。
「リリアナとグロムですね」陸は頷いた。「彼らとはこの後、交流会を開く予定です」
「良い考えだ。彼らも真実を知れば、協力してくれるかもしれない」
三人はしばらく『言語の書』を研究し、陸は自分のノートに重要な情報を記録した。古代共通語の文字体系は、現代の言語と比べて遥かに複雑だが、同時に直感的でもある。それは単なる音声の記録ではなく、概念や思考そのものを表現するための体系だった。
「これは驚くべきことだ」陸は興奮した様子で言った。「この言語は、単に意思疎通のためだけでなく、思考を拡張するための道具でもあるようだ」
「そうだ」学院長は頷いた。「古代共通語は、私たちの知性の限界を超えるために設計されていたのだ。それゆえに、権力者たちはそれを恐れ、分断したのだ」
時間が経つのを忘れるほど、三人は研究に没頭した。しかし、ついに学院長が時間を確認した。
「もうすぐ、君たちのクラスが始まる時間だ。今日の研究はここまでにしよう」
陸とリーシェは名残惜しそうに頷いた。
「また来てもいいですか?」陸は尋ねた。
「もちろんだ。週に一度、深夜に。その方が安全だ」学院長は言った。「そして、君たちの研究内容は、信頼できる者以外には話さないように」
三人は特別アーカイブを後にし、螺旋階段を上った。
図書館に戻ると、そこには既に多くの学生が朝の勉強のために集まっていた。
「ここにいたのか」
声がして振り返ると、リリアナとグロムが立っていた。エルフの少女とドワーフの若者は、ぎこちないながらも一緒にいた。
「二人とも、おはよう」陸が挨拶した。
リーシェがエルフ語とドワーフ語に通訳すると、二人はそれぞれの言語で返事をした。
「彼らは交流会の時間を確認しに来たそうです」リーシェが通訳した。
「そうか。では、今日の午後はどうだろう?食堂で一緒に食事をしながら」
リーシェが通訳すると、二人は同意した。
「それまでに、私もエルフ語とドワーフ語の基本を学んでおこう」陸は言った。
グロムが何か言った。リーシェが通訳する。「彼は『言語の勉強を手伝いたい』と言っています」
リリアナも優雅に何かを言った。「彼女も『エルフの文化について教えたい』と言っています」
陸は微笑んだ。「ありがとう。私も皆さんに協力したい」
その瞬間、陸の頭の中に再び文字が浮かんだ。
【スキル取得:エルフ語基礎Lv1】
【スキル取得:ドワーフ語基礎Lv1】
【効果:エルフ語とドワーフ語の基本的な挨拶と単語を理解できるようになりました】
「またスキルが成長したようだ」
陸は新しいスキルを試すために、エルフ語で「おはよう」と言ってみた。発音はぎこちなかったが、リリアナは驚いた表情を見せ、喜んで返事をした。
次に、ドワーフ語で「よろしく」と言うと、グロムは大きな声で笑い、肩をたたいた。
「驚くほど早く学ばれますね」リーシェは感心した様子で言った。
「言語の習得は、私の前世での特技だったからな」陸は微笑んだ。「しかし、この世界では『スキル』という形で具現化されるようだ」
四人は笑顔で別れを告げ、それぞれの授業へと向かった。陸は歩きながら、特別アーカイブで見た『言語の書』のことを考えていた。
「言語の真実を解き明かし、分断された世界を再び一つにする...」
その使命は、彼の前世での経験と現世でのスキルが結びついたときにのみ達成されるものだろう。陸は決意を新たにした。
「言葉の壁を超える者」になるための道のりは、まだ始まったばかりだった。
「これは...」
陸は古い羊皮紙に書かれた文字を見つめていた。それは「大分裂」以前の古代共通語で書かれた文献だった。現代の言語とは異なる、しかし何となく見覚えのある文字体系。
「やはり、全ての言語の根源は同じなのだな」
彼は気づいていた。この世界の言語は、単に時間をかけて自然に分裂したわけではない。「大分裂」と呼ばれる突然の出来事が、言語を意図的に分断させたのではないかと。古代の文献には、その痕跡が残されていた。
「陸さん、こんな早くから勉強されているんですね」
リーシェが本を抱えて近づいてきた。彼女の髪は朝の光に青く輝いている。
「ああ、気になることがあって。この世界の言語の起源について調べているんだ」
「古代共通語の研究ですか?学院の中でも、専門的すぎて研究者が少ない分野ですね」
陸は自分の研究ノートを見せた。そこには、各種族の言語の共通点と相違点が整理されていた。
「見てくれ。エルフ語の母音体系とドワーフ語の子音体系には共通する法則がある。獣人族の言語は、一見すると全く異なるように見えるが、文法構造に共通点がある。これは全て、元は一つの言語だったことを示している」
リーシェは驚いた顔で陸のノートを覗き込んだ。
「そんな分析をされていたんですね!確かに、一般には異なる言語族とされていますが、こうして比較すると...」
「さらに興味深いのは、これだ」
陸は古代の地図を広げた。そこには、現在の大陸が描かれているが、国境線は全く異なっていた。
「この地図は『大分裂』以前のものだ。種族による国境線がない。つまり、当時は種族間の交流が活発で、言語も一つだったのだろう」
リーシェは興味深そうに地図を見つめていた。
「これは重要な発見かもしれません。でも、なぜ言語が分裂したのでしょうか?」
「それを調べている最中だ。『大分裂』という出来事自体の記録は驚くほど少ない。まるで、歴史から消されたかのようだ」
二人が議論していると、図書館の奥から足音が聞こえてきた。振り返ると、マゼンタ学院長が立っていた。長い灰色の髪と髭を持つ中年の男性で、深い智慧を湛えた目をしている。
「おはようございます、学院長」リーシェが挨拶した。
マゼンタ学院長は何か言ったが、陸には理解できなかった。しかし、その瞬間、陸の脳内に何かが閃いた。
【スキル発動:言語理解Lv1】
【効果:未知の言語の一部を理解できるようになりました。現在対応言語:学院長の個人言語(部分的)】
「...興味深い研究をしているようだね、陸君」
驚いたことに、学院長の言葉が部分的に理解できた。まだ全てではないが、断片的に意味が分かる。
「理解できましたか?」リーシェが驚いた声で尋ねた。
「ああ、部分的にだが。新しいスキルが発動したようだ」
学院長は微笑んだ。彼はリーシェに向かって何か言った。リーシェが通訳する。
「学院長は『言語理解の才能が目覚めたようだ』と言っています。そして、あなたの研究について、学院の特別アーカイブへのアクセス権を与えたいと」
陸は驚いた。「特別アーカイブ?」
「はい!」リーシェの目が輝いた。「学院の地下にある、一般の学生が立ち入れない貴重な文献庫です。古代の言語や失われた文明についての記録が保管されています」
学院長は再び何かを言った。今度は、陸はより多くの言葉を理解できた。
「大分裂の真実...知る必要がある...危険も伴うが...」
リーシェが補足した。「学院長は『大分裂の真実を知ることは重要だが、危険も伴う。しかし、あなたならその使命を果たせるだろう』と言っています」
陸は深く頭を下げた。「ありがとうございます。慎重に研究を進めます」
学院長は頷き、陸とリーシェに来るように手招きした。三人は図書館の奥へと向かった。普段は立ち入れない区域だったが、学院長の魔法で封印が解かれ、隠された扉が現れた。
扉の先には、螺旋階段が地下へと続いていた。壁には古代の文字が刻まれ、魔法の灯りが幻想的な空間を照らしていた。
「これが特別アーカイブへの入り口だ」
階段を下りた先に、彼らが目にしたのは驚くべき光景だった。巨大な円形の部屋に、無数の書架が放射状に並んでいる。天井は高く、魔法の星が宇宙のように輝いていた。中央には、巨大な水晶のテーブルがあり、その上には古代の言語で書かれた巨大な書物が開かれていた。
「なんと美しい...」リーシェが息を呑んだ。
学院長は水晶のテーブルに近づき、巨大な書物を指さした。そして、陸に向かって話し始めた。
「これは『言語の書』...古代の賢者たちが残した...大分裂の記録...」
陸は書物を覗き込んだ。その瞬間、彼の頭の中に強烈な光景が浮かび上がった。
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空が赤く染まる。巨大な塔が大地を貫き、天に向かって伸びている。塔の頂上では、複数の魔法使いが円を描いて立ち、呪文を唱えている。
「これ以上、彼らに力を与えてはならない!」
「言葉の力を分断せよ!種族を分けよ!」
強烈な光が塔から放たれ、大地を覆う。光が通り過ぎた後、人々は互いの言葉を理解できなくなっていた。混乱、恐怖、そして怒り。
「なぜ我々の言葉を奪うのだ!」
「我々は自由を求めただけだ!」
魔法使いたちは塔から姿を消し、各地に散らばった。彼らは新たな言語を創り出し、自らの種族だけが理解できる言葉を作り上げていった。
「二度と彼らの言葉を理解させてはならない」
「言語の力を分断することで、世界の支配が可能になる」
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陸は激しく息を吐き、ビジョンから覚めた。
「何が見えたのだ?」学院長が尋ねた。今やその言葉は完全に理解できるようになっていた。
「大分裂の瞬間です。言語が意図的に分断された。それは...権力を持つ者たちによる策略だったのではないでしょうか」
学院長は深刻な表情で頷いた。「その通りだ。大分裂は自然な現象ではなく、権力を握るために意図的に引き起こされたものだ。しかし、その真実は長い間隠されてきた」
リーシェは驚きの表情を浮かべていた。「そんな...でも、どうして?」
「種族間の対立を生み出し、互いを理解できなくすることで、支配が容易になるからだ」学院長は説明した。「言語は単なる意思疎通の手段ではない。それは思考の形であり、世界を認識する方法でもある。言語を分断することで、人々の思考も分断されたのだ」
陸は『言語の書』を見つめた。「では、この書物には元の言語が記録されているのですか?」
「そうだ。しかし、その言語を理解するのは容易ではない。なぜなら、大分裂によって私たちの脳は特定の言語パターンにしか反応できなくなっているからだ」
学院長は書物のページをめくった。そこには、複雑な文字とシンボルが描かれていた。
「これが古代共通語だ。全ての言語の源となる言葉だ」
陸はその文字を見つめた。奇妙なことに、それらの文字は意味を持たないはずなのに、何か強い既視感を抱いた。
「なぜ私が召喚されたのか...少し理解できるかもしれません」
学院長は頷いた。「予言では、『言葉の壁を超える者』が現れると言われていた。それはただ単に言語を翻訳できる者ではなく, 言語の本質を理解し、大分裂以前の状態を取り戻す者だと考えられている」
リーシェは陸を見つめた。「でも、それは危険なことではないですか?権力者たちは、言語が統一されることを望まないでしょう」
「その通りだ」学院長は重々しく言った。「だからこそ、この研究は秘密裏に行わなければならない。陸君、これから君は大きな挑戦に直面することになる。言語の真実を解き明かすことは、この世界の権力構造に挑戦することでもある」
陸は決意を固めた。「私は外交官として、言葉の壁を超えることがどれほど重要か理解しています。言語が分断されることで生まれる誤解や対立を、前世でも何度も目にしてきました。この世界でも同じことが起きているのなら、私には使命があります」
その瞬間、陸の頭の中に文字が浮かび上がった。
【スキル進化:言語理解Lv1→Lv2】
【新スキル取得:古代共通語解読Lv1】
【効果:古代共通語の基本的な単語とシンボルを理解できるようになりました】
「スキルが進化しました」
学院長は微笑んだ。「素晴らしい。これから、君は定期的にこのアーカイブで研究を続けるといい。私も可能な限り協力しよう」
「ありがとうございます」陸は頭を下げた。
「しかし、注意すべきことがある」学院長の表情が厳しくなった。「学院の中にも、大分裂の真実を隠そうとする勢力がいる。彼らは『守護者』と呼ばれ、言語の統一を阻止することを使命としている。君の研究が彼らの耳に入れば、危険な事態になるかもしれない」
リーシェは不安そうな表情を浮かべた。「守護者...?」
「そうだ。彼らは表向きは言語の多様性を守る学者のように振る舞っているが、実際は大分裂を引き起こした魔法使いたちの末裔だ」
陸は思案した。「では、私の研究は秘密にしておくべきですね」
「そうだ。ただ、君一人では難しい。信頼できる仲間を見つけることも大切だ」
学院長はリーシェに視線を向けた。「リーシェ、君は陸君のサポートを続けてくれるか?」
リーシェは迷いなく答えた。「もちろんです!私も真実を知りたいです」
「それから、先日君が仲良くなったエルフとドワーフの学生たちも、信頼できるかもしれない」学院長は提案した。
「リリアナとグロムですね」陸は頷いた。「彼らとはこの後、交流会を開く予定です」
「良い考えだ。彼らも真実を知れば、協力してくれるかもしれない」
三人はしばらく『言語の書』を研究し、陸は自分のノートに重要な情報を記録した。古代共通語の文字体系は、現代の言語と比べて遥かに複雑だが、同時に直感的でもある。それは単なる音声の記録ではなく、概念や思考そのものを表現するための体系だった。
「これは驚くべきことだ」陸は興奮した様子で言った。「この言語は、単に意思疎通のためだけでなく、思考を拡張するための道具でもあるようだ」
「そうだ」学院長は頷いた。「古代共通語は、私たちの知性の限界を超えるために設計されていたのだ。それゆえに、権力者たちはそれを恐れ、分断したのだ」
時間が経つのを忘れるほど、三人は研究に没頭した。しかし、ついに学院長が時間を確認した。
「もうすぐ、君たちのクラスが始まる時間だ。今日の研究はここまでにしよう」
陸とリーシェは名残惜しそうに頷いた。
「また来てもいいですか?」陸は尋ねた。
「もちろんだ。週に一度、深夜に。その方が安全だ」学院長は言った。「そして、君たちの研究内容は、信頼できる者以外には話さないように」
三人は特別アーカイブを後にし、螺旋階段を上った。
図書館に戻ると、そこには既に多くの学生が朝の勉強のために集まっていた。
「ここにいたのか」
声がして振り返ると、リリアナとグロムが立っていた。エルフの少女とドワーフの若者は、ぎこちないながらも一緒にいた。
「二人とも、おはよう」陸が挨拶した。
リーシェがエルフ語とドワーフ語に通訳すると、二人はそれぞれの言語で返事をした。
「彼らは交流会の時間を確認しに来たそうです」リーシェが通訳した。
「そうか。では、今日の午後はどうだろう?食堂で一緒に食事をしながら」
リーシェが通訳すると、二人は同意した。
「それまでに、私もエルフ語とドワーフ語の基本を学んでおこう」陸は言った。
グロムが何か言った。リーシェが通訳する。「彼は『言語の勉強を手伝いたい』と言っています」
リリアナも優雅に何かを言った。「彼女も『エルフの文化について教えたい』と言っています」
陸は微笑んだ。「ありがとう。私も皆さんに協力したい」
その瞬間、陸の頭の中に再び文字が浮かんだ。
【スキル取得:エルフ語基礎Lv1】
【スキル取得:ドワーフ語基礎Lv1】
【効果:エルフ語とドワーフ語の基本的な挨拶と単語を理解できるようになりました】
「またスキルが成長したようだ」
陸は新しいスキルを試すために、エルフ語で「おはよう」と言ってみた。発音はぎこちなかったが、リリアナは驚いた表情を見せ、喜んで返事をした。
次に、ドワーフ語で「よろしく」と言うと、グロムは大きな声で笑い、肩をたたいた。
「驚くほど早く学ばれますね」リーシェは感心した様子で言った。
「言語の習得は、私の前世での特技だったからな」陸は微笑んだ。「しかし、この世界では『スキル』という形で具現化されるようだ」
四人は笑顔で別れを告げ、それぞれの授業へと向かった。陸は歩きながら、特別アーカイブで見た『言語の書』のことを考えていた。
「言語の真実を解き明かし、分断された世界を再び一つにする...」
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腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
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