言葉の壁を超えて 〜元外交官の異世界言語革命〜

焼肴のどみ

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揺れる大地と隠された誓約

新たな大地の試練

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馬車は、静かな街道を進みながら、徐々に人影の少ない広大な草原へと姿を変えていった。空は淡いグレーに染まり、遠くの山並みがしっかりとシルエットを浮かべる中、陸の心は新たな任務への不安と期待で満たされていた。

(これが、大地の国テラヴァスか……)
陸は窓の外を見つめながら、これまでの試練を思い返していた。会合で得た情報は、国ごとに散らばる『ワース』の存在が、各国の運命を左右する大いなる鍵であることを示していた。トランスレシアでは、外交官としての役割を果たしたが、今はリーシェの護衛として、そして次なる試練に向かうための準備をする時が来ていた。

隣に座るリリアナは、静かな眼差しで陸の思考を読み取るかのように、時折穏やかに微笑んでいた。
「陸、私たちにはこれからもっと大きな試練が待っている。テラヴァスは荒々しい国だが、その中にこそ、真の『ワース』が隠されているはずよ」
リリアナの言葉は、陸に勇気と覚悟を与えるかのようだった。

一方、宮殿で命を受けたユリウスは、今にも出会いを果たすであろう大地の国の王家との再会に胸を躍らせ、密かに決意を固めていた。彼は、妹であるプリンスレオナートと共に、国家の未来を守るために重要な交渉の席に立つ。その姿は、古き血筋と誇り高い伝統を体現しており、国民たちにとっては希望そのものとなる存在だった。

馬車の中で、陸はふと小さく呟いた。
「俺たちの歩む道は、決して平坦ではない……しかし、必ず未来は切り拓かれるはずだ」

その言葉に応えるかのように、馬車が揺れるたび、リリアナの瞳が一層輝きを増す。二人は、これまで数々の試練を乗り越えてきた経験が、必ずや新たな挑戦にも通じると信じていた。

やがて、馬車はテラヴァスの国境付近の荒涼とした道に差し掛かった。遠くに見える石造りの門や、かすかに聞こえる兵士たちのざわめきが、彼らに現実の厳しさを改めて感じさせる。陸は静かに書類を握りしめ、心の中で次の指示を思い描いていた。

(これから、俺たちは新たな情報を掴むために、現地で動くんだ……そして、リーシェの安全を守る。俺がここまでやってきた意味を、この任務に込めるんだ。)

外の風が、草原を駆け抜け、陸の決意をさらなる力に変えていく。彼らの乗る馬車は、まるで未来への希望を運ぶかのように、力強く前進していった。テラヴァスの大地は、その荒々しさの中に多くの謎と秘密を隠し、そして、真実を知る者だけが歩むべき道を照らしているようだった。

――
新たな大地の試練が、今、始まろうとしていた。
それは、単なる護衛任務を超え、各国の運命、そして『ワース』に絡む壮大な物語の一端であった。
陸とリリアナ、そしてユリウスの未来は、この荒野の先にある光と影の交錯の中で、静かに、しかし確実に動き出すのだった。

 石造りの門をくぐると、広大な城下町が広がっていた。大地の国テラヴァスは、その名の通り堅牢な石造りの建物が立ち並び、どこか無骨でありながら力強い雰囲気を醸し出している。市場には活気があり、鉱石や武具を売る商人たちの声が響いていた。農作物も豊富に並び、この国がいかに自給自足の力を持っているかがうかがえた。

「テラヴァスは資源の宝庫とも言われている。鉱山が多く、ここで採れる鉄や石は他国にも輸出されているんだ」
ユリウスが馬車の窓から外を見ながら説明する。

「確かに、町全体がどこか戦士の砦みたいに感じるわね」
リリアナが呟く。彼女の鋭い目は、町を歩く兵士たちの動きを観察していた。精強な軍人たちが行き交い、まるで戦時中のような張り詰めた空気すら感じられる。

(この雰囲気……ただの警戒態勢とは思えないな)
陸はふと、先ほどのユリウスの言葉を思い出した。

――「最近、この国の各地で妙な現象が発生している。夜になると、影が勝手に動き出すという噂が相次いでいるんだ」

(もし『影を操る者たち』が関わっているとすれば、この国の動揺は計り知れない……)

陸は静かに息を整えた。今は焦る時ではない。まずは王宮へ向かい、王子レオナートとの面会を果たすことが先決だ。

やがて馬車は城門を通り抜け、王宮の中庭へと進んだ。石畳の敷かれた広大な庭園の先には、頑丈な造りの宮殿がそびえ立っている。

「ついに着いたわね」
リリアナが剣の鞘に軽く触れながら呟いた。

陸たちが馬車を降りると、一人の壮年の男が彼らを出迎えた。

「ようこそ、大地の国テラヴァスへ」

 低く響く落ち着いた声。精悍な顔立ちのその男は、長身の体に装飾の少ない戦装束を纏い、腰には重厚な剣を携えている。まさに、戦士の国を象徴するような威厳を備えた人物だった。

「お待ちしておりました、トランスレシアの特使ユリウス殿」

「お久しぶりです、ガルハート公」

ユリウスが静かに頷く。

(この人がガルハート公か……)

 ガルハート・ヴォルク公爵。テラヴァスの重鎮であり、王家にも近い立場にある実力者。かつてテラヴァスの辺境を統治し、数々の戦を勝ち抜いてきた英雄でもある。

 彼は鋭い眼光で陸たちを一瞥し、ゆっくりと顎を引いた。

「王子はすでにお待ちです。さあ、こちらへ」

 ガルハート公の案内で、陸たちは王宮の奥へと向かった。

◆◇◆

 王宮の広間は、荘厳な造りだった。柱には歴代の王の名が刻まれ、中央には大きな紋章が掲げられている。

 そして、その中央に佇む一人の青年。

「ようこそ、トランスレシアの皆さん」

 王座に座る若き王子――レオナート・テラヴァス。

 黄金の髪を持ち、鋭いがどこか穏やかさも感じさせる碧眼。凛とした佇まいからは、王族としての気高さと責務を負う覚悟が滲んでいた。

「ユリウス、お前に会うのは久しぶりだな」

「ええ、レオナート殿。お元気そうで何よりです」

 二人は静かに言葉を交わした。その様子からは、かつての親交の深さが伝わってくる。

 そして、レオナートの視線が陸に向けられた。

「君が……陸だな?」

「……はい」

 陸が一歩前に出ると、レオナートは彼をじっと見つめ、やがて静かに微笑んだ。

「君のことは聞いている。言語の壁を越え、多くの異種族と交流を築いてきた者だと」

「……恐縮です」

「今回の旅路、大変だっただろう?」

「ええ、ですが無事にここまで来られました」

「そうか、それなら良かった」

 レオナートは軽く頷いた後、少し真剣な表情を浮かべた。

「さて、本題に入ろう。今回君たちを招いたのは、ただの親交のためではない」

 陸は僅かに身構える。

「実は……大地の国で『異変』が起きている」

 その言葉に、場の空気が一気に張り詰める。

「異変?」

 ユリウスが問い返すと、レオナートはゆっくりと続けた。

「最近、この国の各地で妙な現象が発生している。夜になると、影が勝手に動き出すという噂が相次いでいるんだ」

「影が……?」

 陸の脳裏に、一つの名前が浮かぶ。

(まさか……『影を操る者たち』の仕業か?)

「それだけじゃない」

 レオナートの表情がさらに険しくなる。

「つい先日、外交官の一人が行方不明になった。そして……奇妙なことに、彼の影だけが残っていたそうだ」

「影だけが?」

「そうだ」

 場の空気が凍りついた。

(間違いない……これは、やはり『影を操る者たち』が関わっている)

 陸は無意識に拳を握りしめた。

「君たちに頼みたい。真相を探ってくれないか?」

 レオナートの言葉に、陸は静かに頷いた。

「分かりました」

 影に潜む脅威と、大地の国に迫る異変。

 陸たちは、新たな試練へと足を踏み入れようとしていた。
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