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本音
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翌日の休日を挟み、いよいよクラインの約束すっぽかしの件以来初めて私は学園に登校することになった。
私が教室に向かって歩いていくと、すでに教室の前ではクラインが強張った表情で待ち構えている。
その様子を見て私はそんなに気にしていてくれたんだ、と一瞬浮かれてしまったがすぐに気を引き締める。
思い返してみると、これまでも彼はレイラの件で私に何か迷惑が掛かったとき、いつも丁寧にお詫びをしてくれた。だが、確かにお詫びはするが実際に彼の行動は変わるどころかむしろどんどん悪化している。クラインの態度を見る限り本当に申し訳ないと思ってはいるのだろうが、だからといって自分の優先順位を変えるつもりはないらしい。リーアムも言う通り、私は後回しでもいいと思われているのだろう。
だからこれまでのように簡単に彼を許してはいけない。
私はリーアムの言葉を思い出して決意を固める。そうだ、ここは心を鬼にして私の本音を伝えなければ。
私がクラインに近づいていくと彼はこちらに駆け寄って来て手を合わせる。
「カレン! この前は本当にごめん! 出かけようとしたらレイラが体調を崩してしまって僕がいてあげないとだめだったんだが、本当に申し訳ない!」
彼はそう言って申し訳なさそうな表情を浮かべる。一瞬心が揺れるが、私はすでに決めている。
「……ずっと思っていたんだけど、クラインは私とレイラ、どっちが大切なの?」
「え?」
思いもしない私の言葉にクラインの表情が固まる。
そして少し上ずった声で言った。
「あの、一体今のはどういう……」
「どうもこうもない。私とレイラどっちが大切なのかって聞いているの!」
私は再び同じ質問を彼にぶつける。
これまで聞き分けの良い婚約者に徹していた私が急に困らせるようなことを言ったせいか、クラインの表情には目に見えて動揺が浮かんでいた。
どう答えるか少し悩んだ末、彼はなだめるように言う。
「確かにこの間のことは僕が悪かった、謝る。しかしカレンとレイラどちらか一人を選ぶことなんて僕には出来ない。だって考えてみてくれ、確かにカレンは婚約者だがレイラは家族だしたった一人の妹なんだ。そう、言うなら大切さの基準が違うんだ。だから二人を比べるなんて不可能だ!」
浮気男の言い訳みたいなことを言い出したが、私が知る限りクラインは本心からこのように考えている。
「でも、一昨日は来なかったよね?」
「そ、それはレイラが急に体調を崩してしまったからで……」
「それって本当に私との約束を破ってでも看病しないといけないぐらい重症だったのかな? というかそこまでの重病だったのなら今日も学園に来ている場合ではないよね?」
私はなおも追撃の手を緩めない。
そうだ、今まで何となく「家族だから」で納得してしまっていたけど冷静に考えるとクラインの優先順位はおかしい。この機会にそれをきちんと伝えなければ。
私の言葉にクラインは沈黙する。そして苦し気に口を開く。
「な、何でそんなことを言うんだ? 今までカレンはそんなこと言わなかっただろう? 僕にも色々あるんだ、分かってくれないか? 埋め合わせはするから」
「だって……私が聞き分けの良い婚約者でいたら、ずっと私よりもカレンのことを優先するでしょう?」
「そ、そんな、別にカレンの方を優先するなんてことは」
「でも一昨日の件はそういうことだよね?」
私がなおも問い詰めると、やがてクラインは何もしゃべれなくなってしまう。
必死に何かを釈明して口をぱくぱくさせている彼を見ると胸が痛むが、この問題を解決しなければ私たちが今後も正常な婚約者の関係で居続けることは難しいだろう。
「一昨日のことは本当に申し訳ないと思っている。でも、そんな風に二者択一を迫るのは冷静じゃないと思う。少し時間を置こう」
そう言って、彼は私の返答を聞かずに去っていった。
本当にこれで良かったのだろうか、と私は少し不安になった。
そんな私の元にリーアムが歩いて来る。
「よく言ったな」
「リーアム!」
「大丈夫、後のフォローは俺がやっておくから安心してくれ。だからクラインがいないのは寂しいかもしれないが、しばらくはこの件は忘れて友達との学園生活を楽しんでくれ」
「ありがとう」
やり過ぎてしまっただろうか、と不安になっていたところにリーアムの言葉を聞いて私は慰められた。
クラインのいない学園生活を楽しむ。そんなことが出来るかは分からないけどやってみよう。私はそう決意した。
私が教室に向かって歩いていくと、すでに教室の前ではクラインが強張った表情で待ち構えている。
その様子を見て私はそんなに気にしていてくれたんだ、と一瞬浮かれてしまったがすぐに気を引き締める。
思い返してみると、これまでも彼はレイラの件で私に何か迷惑が掛かったとき、いつも丁寧にお詫びをしてくれた。だが、確かにお詫びはするが実際に彼の行動は変わるどころかむしろどんどん悪化している。クラインの態度を見る限り本当に申し訳ないと思ってはいるのだろうが、だからといって自分の優先順位を変えるつもりはないらしい。リーアムも言う通り、私は後回しでもいいと思われているのだろう。
だからこれまでのように簡単に彼を許してはいけない。
私はリーアムの言葉を思い出して決意を固める。そうだ、ここは心を鬼にして私の本音を伝えなければ。
私がクラインに近づいていくと彼はこちらに駆け寄って来て手を合わせる。
「カレン! この前は本当にごめん! 出かけようとしたらレイラが体調を崩してしまって僕がいてあげないとだめだったんだが、本当に申し訳ない!」
彼はそう言って申し訳なさそうな表情を浮かべる。一瞬心が揺れるが、私はすでに決めている。
「……ずっと思っていたんだけど、クラインは私とレイラ、どっちが大切なの?」
「え?」
思いもしない私の言葉にクラインの表情が固まる。
そして少し上ずった声で言った。
「あの、一体今のはどういう……」
「どうもこうもない。私とレイラどっちが大切なのかって聞いているの!」
私は再び同じ質問を彼にぶつける。
これまで聞き分けの良い婚約者に徹していた私が急に困らせるようなことを言ったせいか、クラインの表情には目に見えて動揺が浮かんでいた。
どう答えるか少し悩んだ末、彼はなだめるように言う。
「確かにこの間のことは僕が悪かった、謝る。しかしカレンとレイラどちらか一人を選ぶことなんて僕には出来ない。だって考えてみてくれ、確かにカレンは婚約者だがレイラは家族だしたった一人の妹なんだ。そう、言うなら大切さの基準が違うんだ。だから二人を比べるなんて不可能だ!」
浮気男の言い訳みたいなことを言い出したが、私が知る限りクラインは本心からこのように考えている。
「でも、一昨日は来なかったよね?」
「そ、それはレイラが急に体調を崩してしまったからで……」
「それって本当に私との約束を破ってでも看病しないといけないぐらい重症だったのかな? というかそこまでの重病だったのなら今日も学園に来ている場合ではないよね?」
私はなおも追撃の手を緩めない。
そうだ、今まで何となく「家族だから」で納得してしまっていたけど冷静に考えるとクラインの優先順位はおかしい。この機会にそれをきちんと伝えなければ。
私の言葉にクラインは沈黙する。そして苦し気に口を開く。
「な、何でそんなことを言うんだ? 今までカレンはそんなこと言わなかっただろう? 僕にも色々あるんだ、分かってくれないか? 埋め合わせはするから」
「だって……私が聞き分けの良い婚約者でいたら、ずっと私よりもカレンのことを優先するでしょう?」
「そ、そんな、別にカレンの方を優先するなんてことは」
「でも一昨日の件はそういうことだよね?」
私がなおも問い詰めると、やがてクラインは何もしゃべれなくなってしまう。
必死に何かを釈明して口をぱくぱくさせている彼を見ると胸が痛むが、この問題を解決しなければ私たちが今後も正常な婚約者の関係で居続けることは難しいだろう。
「一昨日のことは本当に申し訳ないと思っている。でも、そんな風に二者択一を迫るのは冷静じゃないと思う。少し時間を置こう」
そう言って、彼は私の返答を聞かずに去っていった。
本当にこれで良かったのだろうか、と私は少し不安になった。
そんな私の元にリーアムが歩いて来る。
「よく言ったな」
「リーアム!」
「大丈夫、後のフォローは俺がやっておくから安心してくれ。だからクラインがいないのは寂しいかもしれないが、しばらくはこの件は忘れて友達との学園生活を楽しんでくれ」
「ありがとう」
やり過ぎてしまっただろうか、と不安になっていたところにリーアムの言葉を聞いて私は慰められた。
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