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リーアム

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「……カレン! カレン、大丈夫か!?」
「……はっ」

 私は自分に向かって必死に呼びかけてくる声で目を覚ます。少し頭がくらくらするが、目を開けると見知らぬお店の中におり、私はゆったりとしたソファの席に寝かされている。

 そして顔を上げると、傍らには見知った人物がいた。

「ふう、たまたま近くを通りかかったら急に倒れたから何があったのかと思ったよ」

 そう言って彼はほっと息を吐く。

「さあ、水を飲んで」

 多少頭がくらくらするが、水を飲むと意識が明瞭になってくる。
 状況から察するにどうも私はクラインに約束をすっぽかされたショックと、今朝寝不足だったのが合わさって貧血を起こしていたらしい。少しぼーっとする以外は特に悪いところもなさそうだ。

「あ、ありがとう、リーアム」

 状況が分かると、倒れていたところを看病されたのが急に恥ずかしくなってくる。
 私は慌てて目の前の人物に礼を言う。

「大丈夫、別に気にしなくていいよ」

 そう言う彼の名はリーアム・イングラム。
 イングラム公爵家の跡取りで、学園では私やクラインと同じクラスの男子だ。優しいが温和なクラインとは違い、明るく陽気でしばしばクラスの男子と一緒にスポーツをしているような人物である。
 が、家格が近いこともあってクラインとも仲が良く、必然的に私とも何度かしゃべる機会があった。

 もっとも、彼は一線を引いているようで決してクラインがいないところでは絶対に私としゃべろうとはしなかったので、すごく仲がいいというほどでもないが。

「しかし一体何があったんだ? しかもあの時一緒にいたのクラインとこの執事だろ? 任せようかとも思ったけど、病気ではなさそうだし、大事にするのもどうかと思って近くの喫茶店に連れて来てもらったんだ」
「ありがとう、ちょっとショックなことがあって貧血を起こしただけだから」
「それなら良かった。しかしショックなことって何だ? 大体今日はクラインとのデートの日だろ……あ」

 そこで彼は何かに気づいたような表情になる。
 ここまで気づかれてしまった以上、彼には話してしまっても問題ないだろう。それに、クラインとの仲もいいリーアムなら何かアドバイスをくれるかもしれない。

「あの、実は……」

 そう言って私は先ほどの出来語を話す。
 普段は明るい表情を絶やさない彼も私の話を聞き終えるとさすがに唖然とした。

「え、いくらあいつでもまさかそんな……だが、確かに最近のクラインは俺から見てもちょっと常軌を逸しているところがあったからな。この前だって……」

 そう言ってリーアムは先日の出来事を語り始める。

「その日はあいつが用事はないって言うからたまにはサッカーでもやらないかって誘ったんだ。ほら、あいつなら運動神経いいから飛び入りでも動けるだろうって思ってさ。そしたら試合中にレイラが来て、少し話したと思ったら急に『都合が悪くなった』と言ってどっかに行ってしまったんだ」

 お遊びとはいえ、スポーツの試合中に急にいなくなるというのはなかなかないことである。

「リーアムも同じことがあったんだね」
「何かよほどのことがあったのかと思っていたが、君の話を聞く限りそういう訳でもなさそうだね」
「うん……」

 それを聞いて私は落ち込む。よほど彼はレイラのことが大事なのだろうか。
 婚約者の私よりも、親友のリーアムよりも。

「カレン、落ち込む気持ちは分かる。だが、クラインは変に鈍感だからちゃんと君の口からはっきりと気持ちを伝えた方がいい。あいつと話しているとカレンの話になることがあるんだが、あいついつも『カレンがいかに気を利くか』を話すんだ」
「嬉しい……」

 そう言われると少し嬉しくなる。私がいないところでも私を褒めてくれるなんて。
 だが、リーアムは首を振った。

「俺もそれを聞いていい婚約者同士だなって思ってたけどきっとそれじゃだめなんだ。だって気が利くって言うってことはあいつはカレンが気にしてないって思っているってことだからね」
「なるほど!」

 言われてみればこれまで私は理想の女を演じることばかりに意識を向けすぎていて、自分の気持ちを全く彼に伝えていなかった。それだと当然彼は私の気持ちに気づくはずがない。
 そして私の気持ちに気づかないからこそ正直に我が儘を言うレイラを優先するのだろう。

「ありがとう、じゃあ次会ったら自分の気持ちに正直に話してみる」
「ああ。頑張ってくれ。それでだめだったら俺の方からも言ってみるよ」
「本当にありがとう」

 こうして私はリーアムに本音を伝える決意を固めるのだった。
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