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謝罪
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放課後、私は緊張しながらクラインが待つ裏庭へ向かった。
この学園は無駄に敷地が広い。校庭や運動場のように有効利用されているところもあるが、校舎の裏に広がる裏庭などはたまに運動場が溢れた時に使われるぐらいで、普段は閑散としている。
私が歩いていくと、深刻な表情をしたクラインが一人ぽつんと立っていた。
「話って何?」
「先日の件だが……僕が悪かった。申し訳ない!」
クラインは出会い頭にがばりと頭を下げる。
私は無言で後に続く言葉を待つことにした。
「まず言わせてくれ、僕にとって君は理想の婚約者だったんだ。僕の家、ガスター公爵家はいわゆる名門貴族ではあるが、幼いころから周囲の期待がすごかった。だから僕はその期待に応えようと必死だったし、実際応えてきた。レイラに優しくしたのもそういう人であるように期待されてきたからだ。だが、君だけは僕のことを公爵家の跡継ぎではなくただのクラインとして見てくれたんだ」
「確かにそうだった」
実際、私の第一印象は婚約者であるという点を除けば彼は困っている自分を助けてくれた優しいクラスメイト、というものだった。
「むしろ他の人は皆クラインのことをそういう目で見てたの?」
「少なくとも最初の頃はそうだったな。とはいえ、リーアムや他にも男子連中とは球技や武術で親しくなると、少しずつ友達のような関係にはなってきたが」
なるほど、彼は彼で悩んでいたのか。
とはいえ、クラインは他の男子に比べてふざけたり冗談を言ったりするタイプでもないから距離を縮めるのに時間がかかったのだろう。
「それから君とは普通に学園内で親しくするようになってきた。仲良くなってくると、君は優しくて気配りが出来る人だということが分かって来たし、こちらは気を遣わなくて済むから一緒にいて楽だった。そう、楽過ぎて誤解してしまっていたんだ」
「誤解?」
「そう。あまりに自然に君が気を遣ってくれるから、その気遣いを君が負担に思っているなんてことを僕は思わなかったんだ」
「うん」
その言葉が私の気持ちにしっくりきた。
別に一つ一つの気遣いは負担という訳ではない。
クラインがレイラに優しくするのも、たまにであればほほえましい兄妹仲だ、ぐらいにしか思わないだろう。婚約者が心優しい人物であって嬉しいことはあっても悲しいことではない。
だがそういうことが当たり前に積み重なっていくと、それらはやがて心労になっていくのだ。
とはいえ私もそんな自分を自覚することが出来なかった。何となく彼に対するもやもやが溜まっていくばかりで、でも彼は優しいから我慢していればそのうちどうにかなると思っていた。
「私の方こそごめん。もっと早く普通にクラインに言えば良かったんだけど、私も自分がそういうのを気にしているって認めたくなかったから、自分に嘘をついて物分かりのいい女を演じていたのかもしれない」
「いや、カレンは謝らないでくれ! これは僕の甲斐性がなかったのが悪いんだ!」
「じゃあ最後にもう一つだけ我がままを言わせてもらっていいかな?」
「もちろんだ、何でも言ってくれ」
クラインがそう言ってくれたので、私はこの前に尋ねて答えが聞けなかった質問を口にする。
「私とレイラ、どちらが大事かっていう質問に答えてもらってもいい?」
「ああ、僕はカレンの方が大事だ」
彼はまっすぐに私の目を見て言いきった。
もしかしたら彼が悩んだりするかもしれない、と思っていた私はそれを聞いて安堵する。
「ありがとう。困らせるようなことを言ってごめん」
「そうだ、結局この間約束したデート、行けなかっただろ。だから埋め合わせにもう一度チャンスをくれないか?」
「うん、こちらこそ喜んで」
こうして私たちは無事デートをやり直すことに決まったのだった。
この学園は無駄に敷地が広い。校庭や運動場のように有効利用されているところもあるが、校舎の裏に広がる裏庭などはたまに運動場が溢れた時に使われるぐらいで、普段は閑散としている。
私が歩いていくと、深刻な表情をしたクラインが一人ぽつんと立っていた。
「話って何?」
「先日の件だが……僕が悪かった。申し訳ない!」
クラインは出会い頭にがばりと頭を下げる。
私は無言で後に続く言葉を待つことにした。
「まず言わせてくれ、僕にとって君は理想の婚約者だったんだ。僕の家、ガスター公爵家はいわゆる名門貴族ではあるが、幼いころから周囲の期待がすごかった。だから僕はその期待に応えようと必死だったし、実際応えてきた。レイラに優しくしたのもそういう人であるように期待されてきたからだ。だが、君だけは僕のことを公爵家の跡継ぎではなくただのクラインとして見てくれたんだ」
「確かにそうだった」
実際、私の第一印象は婚約者であるという点を除けば彼は困っている自分を助けてくれた優しいクラスメイト、というものだった。
「むしろ他の人は皆クラインのことをそういう目で見てたの?」
「少なくとも最初の頃はそうだったな。とはいえ、リーアムや他にも男子連中とは球技や武術で親しくなると、少しずつ友達のような関係にはなってきたが」
なるほど、彼は彼で悩んでいたのか。
とはいえ、クラインは他の男子に比べてふざけたり冗談を言ったりするタイプでもないから距離を縮めるのに時間がかかったのだろう。
「それから君とは普通に学園内で親しくするようになってきた。仲良くなってくると、君は優しくて気配りが出来る人だということが分かって来たし、こちらは気を遣わなくて済むから一緒にいて楽だった。そう、楽過ぎて誤解してしまっていたんだ」
「誤解?」
「そう。あまりに自然に君が気を遣ってくれるから、その気遣いを君が負担に思っているなんてことを僕は思わなかったんだ」
「うん」
その言葉が私の気持ちにしっくりきた。
別に一つ一つの気遣いは負担という訳ではない。
クラインがレイラに優しくするのも、たまにであればほほえましい兄妹仲だ、ぐらいにしか思わないだろう。婚約者が心優しい人物であって嬉しいことはあっても悲しいことではない。
だがそういうことが当たり前に積み重なっていくと、それらはやがて心労になっていくのだ。
とはいえ私もそんな自分を自覚することが出来なかった。何となく彼に対するもやもやが溜まっていくばかりで、でも彼は優しいから我慢していればそのうちどうにかなると思っていた。
「私の方こそごめん。もっと早く普通にクラインに言えば良かったんだけど、私も自分がそういうのを気にしているって認めたくなかったから、自分に嘘をついて物分かりのいい女を演じていたのかもしれない」
「いや、カレンは謝らないでくれ! これは僕の甲斐性がなかったのが悪いんだ!」
「じゃあ最後にもう一つだけ我がままを言わせてもらっていいかな?」
「もちろんだ、何でも言ってくれ」
クラインがそう言ってくれたので、私はこの前に尋ねて答えが聞けなかった質問を口にする。
「私とレイラ、どちらが大事かっていう質問に答えてもらってもいい?」
「ああ、僕はカレンの方が大事だ」
彼はまっすぐに私の目を見て言いきった。
もしかしたら彼が悩んだりするかもしれない、と思っていた私はそれを聞いて安堵する。
「ありがとう。困らせるようなことを言ってごめん」
「そうだ、結局この間約束したデート、行けなかっただろ。だから埋め合わせにもう一度チャンスをくれないか?」
「うん、こちらこそ喜んで」
こうして私たちは無事デートをやり直すことに決まったのだった。
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