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テレジア編
テレジア編作中作(3)
*
「え、そんなことが!?」
お茶会の翌日、私は自分のメイドから昨日私が帰った後に起こった出来事を聞いて驚いた。貴族の使用人たちの間にも独自の噂話ネットワークがあるらしく、リュークの逆鱗をたまたま目撃したメイドがうちのメイドにも話したらしい。
「はい、良かったですね、お嬢様」
「う、うん」
とは言ったものの、あのリュークがそのような剣幕で怒っているところはなかなか想像することが出来なかった。
それに何より、普段あそこまで私に関心がなさそうなリュークがそこまで私のことを思ってくれていたなんて。そう思うだけで胸が熱くなる。
そんなことを考えていたときだった。
「大変です、お嬢様」
再び私の元にメイドがやってくる。
「一体何事?」
「それが、リューク様がやってきているのです」
「嘘!?」
一瞬、それは別に大変ではないのではないか、と言おうとしたが確かにそれは大変なことだった。
あの話を聞いた後で私はどういう顔をしてリュークに会えばいいのだろうか。そしてリュークはどんな顔で私に会いにくるのだろうか。
私がああでもないこうでもない、と考えているうちにリュークが部屋までやってきてしまう。
「り、リューク様!?」
きっと今頃私の表情は真っ赤になっていることだろう。
が、リュークの方はいつも通りの澄ましたような顔だった。
「その様子だと昨日のことはもう聞いたようだね」
「は、はい、でも一体なぜ……」
「すまないね、今まで君のことを心配させてしまって。やはりそれもこれもこれまでの僕が何も言わなさ過ぎたのが問題だと気づいたんだ」
表情はこれまでと変わらないのに、まるで人が変わったように雄弁に話すリューク。
彼の人柄を別人にしてしまうほど、昨日の出来事はショックだったのだろう。
「だからこれからは君を不安にさせないようにきちんと言うよ。僕は君のことが好きだし、政略結婚でなくても結婚したいと思っているよ」
「あ、ありがとう」
不意の告白に私はそれしか言えなくなってしまう。
何だこれは。まるで別人になってしまったようではないか。とはいえ、言われてみればこれまでリュークが他の女に関心を示していたり、私との結婚を嫌がっていたりということはなかった。
「そしてまずは君のことを馬鹿にした女たちに、君が本当は美しいということを見せてやりたいんだ。今まで君は進んで地味な服装ばかりをしていたが、それは一体なぜなんだ?」
そうか、彼にとっても私が容姿を馬鹿にされるのが悔しいのか。
出来れば思い出したくもないことだったのでこれまで私が地味な服装ばかりをしている理由を話すことはなかったが、そこまで言われると話してもいいかなと思えてくる。
「分かった。長くなるからとりあえず座って」
私たちはテーブルにつくと、メイドにお茶を持ってきてもらう。
「実は……」
そして私は話し始めた。
幼いころの私はよく周りから「可愛い」と褒められていた。おそらくそれは単に小さい子供が可愛い、という程度のものだったのだろう。
しかし可愛い可愛いと言われ続けた私は調子に乗った。
確か七歳ぐらいの時だったか。私は子爵家の生まれだけど、近くの子爵家でパーティーが開かれることになった。そこには子爵家の令嬢もたくさん集うという。私は親に行きたい、と言ったがまだ早い、と止められた。参加する他の令嬢は大体十二、十三ぐらいが多く、七歳の私が行っても浮いてしまうだけだ、とも言われた。
しかし当時天狗になっていた私は精いっぱいおしゃれしてパーティーに連れていってもらった。
そこにはたくさんの大人たちと、何人かの着飾った年上の令嬢たち、そして年上の令息もいた。その中に一際格好いいと思う男がいたから、私は勇気を出して話しかけた。
会話の内容はよく覚えていないが、当たり障りのない話だったと思う。
それでも、彼に好印象を持たれたと勘違いした私は満足げに彼の元を離れた。
そこで私は数人の年上令嬢たちに囲まれた。彼女たちは見るからに険悪な表情で私を囲み、威圧する。
「ねぇ、さっきのは何? まだガキの癖に彼に色目使ってるの?」
「そういうの、相手にされてないからやめた方がいいよ?」
「大体あんたなんかにそのドレスは似合ってないの。ブスが」
そう言って彼女らは一斉に私を嘲笑した。
まだ幼かった私は泣き出し、その後パーティーの間中、ずっとお手洗いで泣いていたと思う。それ以来、私は地味な容姿の自分が派手な服装をすることに引け目を感じるようになり、目立たぬような服装ばかりするようになった。
もっとも、今思うと苛められたのはブスなのにきれいなドレスを着たことではなく、私が声をかけた男がその令嬢たちの誰かと仲が良かったからなのだろうけど。
「え、そんなことが!?」
お茶会の翌日、私は自分のメイドから昨日私が帰った後に起こった出来事を聞いて驚いた。貴族の使用人たちの間にも独自の噂話ネットワークがあるらしく、リュークの逆鱗をたまたま目撃したメイドがうちのメイドにも話したらしい。
「はい、良かったですね、お嬢様」
「う、うん」
とは言ったものの、あのリュークがそのような剣幕で怒っているところはなかなか想像することが出来なかった。
それに何より、普段あそこまで私に関心がなさそうなリュークがそこまで私のことを思ってくれていたなんて。そう思うだけで胸が熱くなる。
そんなことを考えていたときだった。
「大変です、お嬢様」
再び私の元にメイドがやってくる。
「一体何事?」
「それが、リューク様がやってきているのです」
「嘘!?」
一瞬、それは別に大変ではないのではないか、と言おうとしたが確かにそれは大変なことだった。
あの話を聞いた後で私はどういう顔をしてリュークに会えばいいのだろうか。そしてリュークはどんな顔で私に会いにくるのだろうか。
私がああでもないこうでもない、と考えているうちにリュークが部屋までやってきてしまう。
「り、リューク様!?」
きっと今頃私の表情は真っ赤になっていることだろう。
が、リュークの方はいつも通りの澄ましたような顔だった。
「その様子だと昨日のことはもう聞いたようだね」
「は、はい、でも一体なぜ……」
「すまないね、今まで君のことを心配させてしまって。やはりそれもこれもこれまでの僕が何も言わなさ過ぎたのが問題だと気づいたんだ」
表情はこれまでと変わらないのに、まるで人が変わったように雄弁に話すリューク。
彼の人柄を別人にしてしまうほど、昨日の出来事はショックだったのだろう。
「だからこれからは君を不安にさせないようにきちんと言うよ。僕は君のことが好きだし、政略結婚でなくても結婚したいと思っているよ」
「あ、ありがとう」
不意の告白に私はそれしか言えなくなってしまう。
何だこれは。まるで別人になってしまったようではないか。とはいえ、言われてみればこれまでリュークが他の女に関心を示していたり、私との結婚を嫌がっていたりということはなかった。
「そしてまずは君のことを馬鹿にした女たちに、君が本当は美しいということを見せてやりたいんだ。今まで君は進んで地味な服装ばかりをしていたが、それは一体なぜなんだ?」
そうか、彼にとっても私が容姿を馬鹿にされるのが悔しいのか。
出来れば思い出したくもないことだったのでこれまで私が地味な服装ばかりをしている理由を話すことはなかったが、そこまで言われると話してもいいかなと思えてくる。
「分かった。長くなるからとりあえず座って」
私たちはテーブルにつくと、メイドにお茶を持ってきてもらう。
「実は……」
そして私は話し始めた。
幼いころの私はよく周りから「可愛い」と褒められていた。おそらくそれは単に小さい子供が可愛い、という程度のものだったのだろう。
しかし可愛い可愛いと言われ続けた私は調子に乗った。
確か七歳ぐらいの時だったか。私は子爵家の生まれだけど、近くの子爵家でパーティーが開かれることになった。そこには子爵家の令嬢もたくさん集うという。私は親に行きたい、と言ったがまだ早い、と止められた。参加する他の令嬢は大体十二、十三ぐらいが多く、七歳の私が行っても浮いてしまうだけだ、とも言われた。
しかし当時天狗になっていた私は精いっぱいおしゃれしてパーティーに連れていってもらった。
そこにはたくさんの大人たちと、何人かの着飾った年上の令嬢たち、そして年上の令息もいた。その中に一際格好いいと思う男がいたから、私は勇気を出して話しかけた。
会話の内容はよく覚えていないが、当たり障りのない話だったと思う。
それでも、彼に好印象を持たれたと勘違いした私は満足げに彼の元を離れた。
そこで私は数人の年上令嬢たちに囲まれた。彼女たちは見るからに険悪な表情で私を囲み、威圧する。
「ねぇ、さっきのは何? まだガキの癖に彼に色目使ってるの?」
「そういうの、相手にされてないからやめた方がいいよ?」
「大体あんたなんかにそのドレスは似合ってないの。ブスが」
そう言って彼女らは一斉に私を嘲笑した。
まだ幼かった私は泣き出し、その後パーティーの間中、ずっとお手洗いで泣いていたと思う。それ以来、私は地味な容姿の自分が派手な服装をすることに引け目を感じるようになり、目立たぬような服装ばかりするようになった。
もっとも、今思うと苛められたのはブスなのにきれいなドレスを着たことではなく、私が声をかけた男がその令嬢たちの誰かと仲が良かったからなのだろうけど。
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