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継母
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「ちょっとエレナ、またマリーをいじめたの!?」
「え、いや、私は何も……」
「うるさい、言い訳しないの!」
私の部屋に怒り狂った母上が怒鳴り込んでくる。その表情を見てまたか、と私は内心溜め息をついた。
私はエレナ・エトワール。カルリム王国の名門貴族、エトワール家の長女だ。名門貴族の長女と言えば花よ蝶よと育てられ、同じく名門貴族の貴公子か、あわよくば王家に玉の輿が保証されている素晴らしい生まれだ、と思われるかもしれない。
しかし少なくとも私の場合に限ってはそうではなかった。
私エレナは今年で十五歳。父であるエトワール公爵と、三年前に病で死んだ先妻との間に生まれた娘だ。父上と亡き母上はあまり仲が良くなかったらしく、子供は私と、病弱な兄上しかいなかった。
では今私に激怒している母上というのは誰か。彼女、オードリーは元々他家の令息に嫁いでいたが、その相手は二年前の他国との戦争で何と討死してしまった。そして彼女は一人の息子と一人の娘を持つ寡婦となってしまったのである。
本来は夫が死んだからといって家を出ることはないのだが、跡継ぎが死んだその家では跡目争いが起こり、オードリーの息子ケリンに跡を継がせたくない一派の策略によって追い出されたらしい。そんな彼女を引き取ったのが父であるという訳だった。
本来、一度嫁いで子供まで出来た女性を名門貴族の当主が後妻として迎え入れることはそこそこないことであるが、父上はよほど母上に執心だったのだろう、「跡目争いに敗れて家を追い出され、路頭に迷っていたオードリーに同情して助けた」という美談を作り上げ、勝手に再婚してしまった。
そしてその義母上が連れてきたのがケリンとマリーである。
当然ながら母上は私や兄上よりもケリンとマリーの方が可愛い。父上は私の実兄であるレイトよりもケリンを跡継ぎにしたそうにしているし、母上は何かあるたびにマリーを甘やかし、私に辛く当たった。マリーもそれをいいことに、私には何をしてもいいと思ったのか、だんだん嫌がらせがエスカレートしてきている。
「そもそも一体何があったと言うの?」
「何があったですって!? あなた、マリーが食べようと思ってとっておいたアップルパイを盗んで食べたでしょう!」
それを聞いて私はため息をつく。
確かに私は今日アップルパイを食べたが、マリーが食べようと思っていたとかそんなことは知らない。そもそもうちにある食べ物に誰の物とかある訳もないのに盗むも何もない。マリーが勝手にそう思っていたか、もしくは私を陥れるために適当なことを言っているだけだろう。
もっとも、そんなマリーの言葉を頭から信じて私に怒っている母上も母上だけど。
「アップルパイは食べたけど、マリーが楽しみにしていたなんて知らない」
すると、私の言葉に義母上は私がまるで冷酷非道なことを言ったかのように脅えながら見つめる。
「酷いわ……。マリーはあんなに楽しみにしていたのに。さっきもパイが食べられなくてすごく悲しんでいたわ。それなのにあなたは『知らなかった』だなんて酷い事を言うの!?」
「そんなに食べたかったならそう言ってくれれば良かったのに。後で言われても困るんだけど」
が、私の態度に義母上は眉を吊り上げる。
「姉のくせに、妹がこんなに悲しんでいてそんなに素っ気ない態度をとるなんてありえないわ! やっぱり血が繋がってないからってマリーのことなんてどうでもいいって思ってるんでしょう! 本当に血も涙もないのね!」
と、口から泡を飛ばさんばかりに主張する。
こうなってはもはや何を言い返そうと無駄だ。
血が繋がってないからといって私をいじめているのはそっちなんだけどね、と言い返そうとしたが火に油をそそぐだけなので口をつぐむ。
私ももう十五歳。早ければもう結婚してもおかしくない年齢だ。幸い婚約者のオリバーは穏やかで優しい人物だ。彼の元に嫁げば少なくとも、穏やかな毎日は保証されるだろう。
今はそうなる日を待つより他なかった。
「え、いや、私は何も……」
「うるさい、言い訳しないの!」
私の部屋に怒り狂った母上が怒鳴り込んでくる。その表情を見てまたか、と私は内心溜め息をついた。
私はエレナ・エトワール。カルリム王国の名門貴族、エトワール家の長女だ。名門貴族の長女と言えば花よ蝶よと育てられ、同じく名門貴族の貴公子か、あわよくば王家に玉の輿が保証されている素晴らしい生まれだ、と思われるかもしれない。
しかし少なくとも私の場合に限ってはそうではなかった。
私エレナは今年で十五歳。父であるエトワール公爵と、三年前に病で死んだ先妻との間に生まれた娘だ。父上と亡き母上はあまり仲が良くなかったらしく、子供は私と、病弱な兄上しかいなかった。
では今私に激怒している母上というのは誰か。彼女、オードリーは元々他家の令息に嫁いでいたが、その相手は二年前の他国との戦争で何と討死してしまった。そして彼女は一人の息子と一人の娘を持つ寡婦となってしまったのである。
本来は夫が死んだからといって家を出ることはないのだが、跡継ぎが死んだその家では跡目争いが起こり、オードリーの息子ケリンに跡を継がせたくない一派の策略によって追い出されたらしい。そんな彼女を引き取ったのが父であるという訳だった。
本来、一度嫁いで子供まで出来た女性を名門貴族の当主が後妻として迎え入れることはそこそこないことであるが、父上はよほど母上に執心だったのだろう、「跡目争いに敗れて家を追い出され、路頭に迷っていたオードリーに同情して助けた」という美談を作り上げ、勝手に再婚してしまった。
そしてその義母上が連れてきたのがケリンとマリーである。
当然ながら母上は私や兄上よりもケリンとマリーの方が可愛い。父上は私の実兄であるレイトよりもケリンを跡継ぎにしたそうにしているし、母上は何かあるたびにマリーを甘やかし、私に辛く当たった。マリーもそれをいいことに、私には何をしてもいいと思ったのか、だんだん嫌がらせがエスカレートしてきている。
「そもそも一体何があったと言うの?」
「何があったですって!? あなた、マリーが食べようと思ってとっておいたアップルパイを盗んで食べたでしょう!」
それを聞いて私はため息をつく。
確かに私は今日アップルパイを食べたが、マリーが食べようと思っていたとかそんなことは知らない。そもそもうちにある食べ物に誰の物とかある訳もないのに盗むも何もない。マリーが勝手にそう思っていたか、もしくは私を陥れるために適当なことを言っているだけだろう。
もっとも、そんなマリーの言葉を頭から信じて私に怒っている母上も母上だけど。
「アップルパイは食べたけど、マリーが楽しみにしていたなんて知らない」
すると、私の言葉に義母上は私がまるで冷酷非道なことを言ったかのように脅えながら見つめる。
「酷いわ……。マリーはあんなに楽しみにしていたのに。さっきもパイが食べられなくてすごく悲しんでいたわ。それなのにあなたは『知らなかった』だなんて酷い事を言うの!?」
「そんなに食べたかったならそう言ってくれれば良かったのに。後で言われても困るんだけど」
が、私の態度に義母上は眉を吊り上げる。
「姉のくせに、妹がこんなに悲しんでいてそんなに素っ気ない態度をとるなんてありえないわ! やっぱり血が繋がってないからってマリーのことなんてどうでもいいって思ってるんでしょう! 本当に血も涙もないのね!」
と、口から泡を飛ばさんばかりに主張する。
こうなってはもはや何を言い返そうと無駄だ。
血が繋がってないからといって私をいじめているのはそっちなんだけどね、と言い返そうとしたが火に油をそそぐだけなので口をつぐむ。
私ももう十五歳。早ければもう結婚してもおかしくない年齢だ。幸い婚約者のオリバーは穏やかで優しい人物だ。彼の元に嫁げば少なくとも、穏やかな毎日は保証されるだろう。
今はそうなる日を待つより他なかった。
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