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ジェニーとラインハルトの逃避行

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 一日目の馬車旅が終わり、ラインハルトと共に宿に入ると、ジェニーは日中ずっと我慢していたことを告げた。

「どうしてあんな風に、他の女にばかりいい顔をするのですか!?」
「別にいいじゃないか、ほら、一期一会とか旅は道連れって言葉もあるだろ?」

 ジェニーの怒りに対してラインハルトは悪びれもせずに言う。

「でもだからって……私がいるというのに、あんな風に、私を恋人ではないかのように扱ってまで他の女と楽し気に話すなんて……」
「分かってくれジェニー。僕にとってジェニーは唯一無二の存在だ。ずっとジェニーの側にいるからこそ今だけしか会えない人々との交流を楽しんでいるんだ」
「ラインハルト様……」

 ラインハルトの真剣な表情と言葉にジェニーはそうなのかもしれない、と思い始める。

「でもそれなら私のこともきちんと恋人として紹介して欲しいというか……」
「ジェニー、僕は君が聞き分けの女性だと思っているから好きなんだ。だから僕のことを幻滅させるようなことを言うのはやめて欲しいな」

 不意にラインハルトがこれまでになく真面目な表情で言う。
 声のトーンもこれまでジェニーや他の女と話していた時と比べて少し低く、ジェニーは思わず身震いしてしまう。
 その言葉からジェニーは有無を言わせぬ圧のようなものを感じた。そのせいでラインハルトの言葉に全て納得した訳でもないのに、気が付くと頷いてしまう。

「は、はい、分かりました」
「ありがとうジェニー。僕はそんなジェニーのことを一番に愛しているよ」

 そう言ってラインハルトはまた元の雰囲気に戻り、ジェニーの体を抱き寄せる。
 やはり何だかんだ言いつつも自分が一番に愛されている。ジェニーは彼の行動にそう確信するのだった。



 その後数日して、ジェニーにとっては地獄のような馬車旅が終了した。
 ラインハルトが自分をただの幼馴染扱いして他の女と話すたびにジェニーは釈然としない気持ちになるが、そのたびに「幻滅させるようなことを言うのはやめて欲しい」と言った時のラインハルトの真剣な表情と、その後彼が抱き寄せてくれたことが思い出されてジェニーは文句を言うのをこらえていた。

 そしてついに馬車旅が終わり二人はブレンダ男爵領の外側まで逃げ出すことが出来た。目障りだった女たちもラインハルトから離れていく。

 それを見てジェニーはほっとした。
 目ざわりな女たちはもういない。
 これで再びラインハルトは自分だけのものだった。

「ふう、ここまでこればしばらくは追ってこれないだろう」
「そうですね。しかしそう言えば全然追われている雰囲気がありませんね」

 そこでふとジェニーは思う。
 もちろん見つからないように変装しているのだが、自分たちが駆け落ちしたのだからもう少し探している兵士がいたり、手配書のようなものが回っていてもおかしくはないのだろうか。
 二人ともあくまで馬車で移動しているだけなのでそこまで速度が速い訳でもない。
 ちなみに、この時二人のことなどそっちのけで黒い爪討伐の計画が進んでいることを二人ともしらなかった。

「それもそうだな。とはいえ追われていないならそれでいいだろう。それよりもしばらくの間の隠れ家を探そう」
「はい」

 こうして二人は新居を探すのだった。
 新居を探していると、ジェニーはいよいよラインハルトと結ばれるという気持ちが高まって来たせいか、馬車旅でラインハルトが他の女と話していたのも本当に軽い気持ちだったのだろう、と思って忘れていくのだった。
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