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エピローグ
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こうして私たち周辺を騒がせたジェニーとラインハルトの駆け落ち事件は終了した。
当然ラインハルトとの婚約はなかったことになり、私の婚約者も白紙となった。
しばらくの間、他家からはジェニーの不始末のせいで白い目で見られたが、父上は“黒い爪”から取り戻した財産で領内を復興することに注力していた。
元々うちの領地が苦しかったのはほとんどが“黒い爪”のせいだったこともあり、その後はめざましい速度で回復していった。
ちなみに今回の件で失笑をかったラインハルトはメイウェザー男爵により教会に入れられたという。基本的に教会に入れられた人物はもう貴族家に戻ってくることはない。これは事実上の勘当だろう。
一方のジェニーは世間的には被害者と見られているため勘当こそされていないものの、あの時の手紙を見た父上はジェニーに対する怒りを解かなかった。
もしかすると貴族ではない、豪商や豪農などの有力者にでも嫁に出されるのかもしれない。
こうして数か月ほどが経ち、人々の記憶からもようやくあの件のことが消え始めたころのことである。
久しぶりに我が家にレオルが訪れた。
事件の後処理が残っていた時は頻繁に訪れていたレオルも最近は来るのが珍しくなっていたが、久しぶりに彼がやってくると聞いて私は少し嬉しくなる。
「久しぶりです」
そう言ってやってきた彼は、少し前に会った時とは打って変わって堂々とした様子で我が家を訪れる。
何というか、ラドフォード家の跡取りとしての風格のようなものを纏わせていた。
「おお、元気そうで何よりだ」
「また会えて嬉しいです」
そんな彼を再び父上ともども出迎える。
「何というか、少し経っただけなのに随分大人びて見えます」
「ありがとうございます。とはいえ、それもカトリナさんのおかげです。あの時背中を押してもらって、それ以来意識的に堂々と振る舞うようにしていたら学問や家臣との人間関係など何事もうまくようになったんです」
「そうかな?」
私のおかげと言われると少し照れてしまう。
「とはいえ、仮に背中を押されたとしても今一人でうまくやっていられるのであればそれはレオルの実力だと思うけど」
「ありがとうございます……さて、今日は折り入って用件があって来たんです」
不意にレオルの表情が引き締まる。
それを見て雰囲気の変化を感じ取った私と父上も姿勢を正す。
レオルは父上に向き直ると、真剣な口調で言った。
「ブレンダ男爵、カトリナさんを僕と婚約させていただけないでしょうか」
彼の言葉は半ばよそうしていたものだったが、私の心臓は鼓動が早くなる。
そしてどきどきしながら父上の様子をうかがった。
が、父上は全く驚くことなく答える。
「わしは構わぬ。後はカトリナに訊くがいい」
その様子を見て私は密かに思う。恐らく父上は元からその話を知っていたのではないかと。きっとレオルの父、ラドフォード男爵あたりから事前に訊いていたのだろう。
父上の言葉を受けてレオルはこちらを見る。
「カトリナ、僕と婚約してくれないか? 今のブレンダ男爵家は領内も活気を取り戻し、勢いがあるからという理由はもちろんある。だが僕はあの時勇気をくれたカトリナと婚約したいんだ」
その堂々とした様子に私は胸を打たれる。
そもそも政略結婚の婚約など本人からではなく親を経由して告げられることも多いというのにわざわざ本人がやってきて、直接好意を伝えてくれることは珍しい。
最初に会った時からレオルは見た目が冴えないだけで実は優秀な人物ではないかと思っていたが、今では最初に見た時とは別人かと思うような姿になった。
そんな彼に婚約を申し込まれて異論などある訳がない。
「ありがとう。私の方こそ喜んで」
「良かった、もし受けてもらえなければどうしようかと思っていた」
そう言ってレオルはほっと胸をなでおろす。
とはいえその様子にもどこか余裕が感じられた。
こうして私たちは新たな一歩を踏み出すことになったのだった。
当然ラインハルトとの婚約はなかったことになり、私の婚約者も白紙となった。
しばらくの間、他家からはジェニーの不始末のせいで白い目で見られたが、父上は“黒い爪”から取り戻した財産で領内を復興することに注力していた。
元々うちの領地が苦しかったのはほとんどが“黒い爪”のせいだったこともあり、その後はめざましい速度で回復していった。
ちなみに今回の件で失笑をかったラインハルトはメイウェザー男爵により教会に入れられたという。基本的に教会に入れられた人物はもう貴族家に戻ってくることはない。これは事実上の勘当だろう。
一方のジェニーは世間的には被害者と見られているため勘当こそされていないものの、あの時の手紙を見た父上はジェニーに対する怒りを解かなかった。
もしかすると貴族ではない、豪商や豪農などの有力者にでも嫁に出されるのかもしれない。
こうして数か月ほどが経ち、人々の記憶からもようやくあの件のことが消え始めたころのことである。
久しぶりに我が家にレオルが訪れた。
事件の後処理が残っていた時は頻繁に訪れていたレオルも最近は来るのが珍しくなっていたが、久しぶりに彼がやってくると聞いて私は少し嬉しくなる。
「久しぶりです」
そう言ってやってきた彼は、少し前に会った時とは打って変わって堂々とした様子で我が家を訪れる。
何というか、ラドフォード家の跡取りとしての風格のようなものを纏わせていた。
「おお、元気そうで何よりだ」
「また会えて嬉しいです」
そんな彼を再び父上ともども出迎える。
「何というか、少し経っただけなのに随分大人びて見えます」
「ありがとうございます。とはいえ、それもカトリナさんのおかげです。あの時背中を押してもらって、それ以来意識的に堂々と振る舞うようにしていたら学問や家臣との人間関係など何事もうまくようになったんです」
「そうかな?」
私のおかげと言われると少し照れてしまう。
「とはいえ、仮に背中を押されたとしても今一人でうまくやっていられるのであればそれはレオルの実力だと思うけど」
「ありがとうございます……さて、今日は折り入って用件があって来たんです」
不意にレオルの表情が引き締まる。
それを見て雰囲気の変化を感じ取った私と父上も姿勢を正す。
レオルは父上に向き直ると、真剣な口調で言った。
「ブレンダ男爵、カトリナさんを僕と婚約させていただけないでしょうか」
彼の言葉は半ばよそうしていたものだったが、私の心臓は鼓動が早くなる。
そしてどきどきしながら父上の様子をうかがった。
が、父上は全く驚くことなく答える。
「わしは構わぬ。後はカトリナに訊くがいい」
その様子を見て私は密かに思う。恐らく父上は元からその話を知っていたのではないかと。きっとレオルの父、ラドフォード男爵あたりから事前に訊いていたのだろう。
父上の言葉を受けてレオルはこちらを見る。
「カトリナ、僕と婚約してくれないか? 今のブレンダ男爵家は領内も活気を取り戻し、勢いがあるからという理由はもちろんある。だが僕はあの時勇気をくれたカトリナと婚約したいんだ」
その堂々とした様子に私は胸を打たれる。
そもそも政略結婚の婚約など本人からではなく親を経由して告げられることも多いというのにわざわざ本人がやってきて、直接好意を伝えてくれることは珍しい。
最初に会った時からレオルは見た目が冴えないだけで実は優秀な人物ではないかと思っていたが、今では最初に見た時とは別人かと思うような姿になった。
そんな彼に婚約を申し込まれて異論などある訳がない。
「ありがとう。私の方こそ喜んで」
「良かった、もし受けてもらえなければどうしようかと思っていた」
そう言ってレオルはほっと胸をなでおろす。
とはいえその様子にもどこか余裕が感じられた。
こうして私たちは新たな一歩を踏み出すことになったのだった。
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