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出発
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さて、そんなことをしているうちにいよいよ私が王宮を出る日がやってくる。王女が王宮を出るとなれば大きな事ではあるが、所詮隣国に人質に行くだけだ。そのため、私は王宮の裏門からまるで都落ちする貴人のようにこそこそと送り出されることになった。
私を見送ったのはアンジェラ、ハロルド、キャサリンといういつもの三人で、父上に至っては私の方から「行ってきます」と挨拶すると「おお」と返事がきただけだった。
私は地味な旅装に身を包み、用意していた荷物を持って外に出る。
人質とはいえ我が国を代表して赴く以上正装用のきれいなドレスや豪華な土産物ぐらいは持参した方がいいだろう、と思って準備していた。
しかし目の前の馬車は平民が使うような普通のもので、護衛も御者の隣に一人兵士が乗っているだけで万全とは言えない。私が本気で逃げ出そうとしたら逃げられそうだし、そうでなくとも山賊辺りに襲われればたちどころに餌食になってしまうだろう。
私がそれを口にしようとしたところだった。
「あら、随分と大荷物ね。一体何が入っているの?」
そんな私の荷物を見たキャサリンが尋ねる。
疑問に思うような口調だったが、一体私が何を持ち出すと思ったのだろうか。
「正装用のドレスやスタンレット王国への土産の品ですが」
私が答えるとアンジェラの表情が変わる。
「何なのそれは! あなたはスタンレット王国にピクニックか舞踏会にでも行くつもりなの!?」
「いえ、そういう訳ではありませんが」
訳が分からない反論に私は困惑する。一体どうしてそんな風に言われるのか意味が分からない。
すると、アンジェラは得意げに指摘してきた。
「人質がきちんと着飾っていたら変でしょう! それに、土産物だなんてそんな媚びるような真似はしなくていいの。奴らは私たちを倒した敵なんだから」
「そうだ、俺たちは戦いに負けたとはいえ心まで屈してはいけないんだ」
ハロルドまで得意そうに乗っかってくる。
あまりに訳の分からない理屈で非難されたので、いつもは適当に流すのだが国の評判に関わることでもあるのでさすがに私は反論した。
「あの、まず人質というのは価値ある人物だからこそ出されるものだと思うのですが。国にとって無価値な人物を人質として要求する国はありません。そのため、最低限王族らしい装いぐらいはしていかないとこの国の品位を下げることにもなりますが」
「はあ、何を言っているの? あなたはこの国に無価値な人物だから人質に出されるのよ。価値があるとか思い上がりも甚だしいわ」
アンジェラの言葉に私は耳を疑った。嫌がらせをしてくるのはまだしも、会話すら成立しないのだろうか。
が、左右を見るとハロルドもキャサリンもアンジェラの言葉にうんうんと頷いている。私に嫌がらせをしてくるのはまだしも、ここまで愚かな人たちだとは思わなかった。
「と言う訳でお前の荷物は置いていきなさい」
「大丈夫、ドレスはいい布だから仕立て直させて有効利用してあげるわ」
そう言ってハロルドとキャサリンはひったくるように私の荷物を奪い取り、ドレスや高価な土産物を奪い取る。もはや何を言っても無駄な以上、私はなすすべもなくそれを見ているしかなかった。
「はい、あなたにはこれで十分よ。荷物を軽くしてあげたし、これで馬車馬も喜ぶでしょうね」
数十分後、そう言ってアンジェラが随分小さくなった荷物を私に渡してくる。おそらく最低限の身の廻りの物しか入っておらず、着替えも下着ぐらいしかなさそうだ。
今着ているのは地味な旅装だが、これで隣国の偉い人に会うのか、と思うと暗澹たる気持ちになる。
粗相があれば恥をかくのは私だ。
こんな様子では護衛を増やしてもらうなど夢のまた夢だろう。そう思った私は暗い気持ちで馬車に乗り込むのだった。
私を見送ったのはアンジェラ、ハロルド、キャサリンといういつもの三人で、父上に至っては私の方から「行ってきます」と挨拶すると「おお」と返事がきただけだった。
私は地味な旅装に身を包み、用意していた荷物を持って外に出る。
人質とはいえ我が国を代表して赴く以上正装用のきれいなドレスや豪華な土産物ぐらいは持参した方がいいだろう、と思って準備していた。
しかし目の前の馬車は平民が使うような普通のもので、護衛も御者の隣に一人兵士が乗っているだけで万全とは言えない。私が本気で逃げ出そうとしたら逃げられそうだし、そうでなくとも山賊辺りに襲われればたちどころに餌食になってしまうだろう。
私がそれを口にしようとしたところだった。
「あら、随分と大荷物ね。一体何が入っているの?」
そんな私の荷物を見たキャサリンが尋ねる。
疑問に思うような口調だったが、一体私が何を持ち出すと思ったのだろうか。
「正装用のドレスやスタンレット王国への土産の品ですが」
私が答えるとアンジェラの表情が変わる。
「何なのそれは! あなたはスタンレット王国にピクニックか舞踏会にでも行くつもりなの!?」
「いえ、そういう訳ではありませんが」
訳が分からない反論に私は困惑する。一体どうしてそんな風に言われるのか意味が分からない。
すると、アンジェラは得意げに指摘してきた。
「人質がきちんと着飾っていたら変でしょう! それに、土産物だなんてそんな媚びるような真似はしなくていいの。奴らは私たちを倒した敵なんだから」
「そうだ、俺たちは戦いに負けたとはいえ心まで屈してはいけないんだ」
ハロルドまで得意そうに乗っかってくる。
あまりに訳の分からない理屈で非難されたので、いつもは適当に流すのだが国の評判に関わることでもあるのでさすがに私は反論した。
「あの、まず人質というのは価値ある人物だからこそ出されるものだと思うのですが。国にとって無価値な人物を人質として要求する国はありません。そのため、最低限王族らしい装いぐらいはしていかないとこの国の品位を下げることにもなりますが」
「はあ、何を言っているの? あなたはこの国に無価値な人物だから人質に出されるのよ。価値があるとか思い上がりも甚だしいわ」
アンジェラの言葉に私は耳を疑った。嫌がらせをしてくるのはまだしも、会話すら成立しないのだろうか。
が、左右を見るとハロルドもキャサリンもアンジェラの言葉にうんうんと頷いている。私に嫌がらせをしてくるのはまだしも、ここまで愚かな人たちだとは思わなかった。
「と言う訳でお前の荷物は置いていきなさい」
「大丈夫、ドレスはいい布だから仕立て直させて有効利用してあげるわ」
そう言ってハロルドとキャサリンはひったくるように私の荷物を奪い取り、ドレスや高価な土産物を奪い取る。もはや何を言っても無駄な以上、私はなすすべもなくそれを見ているしかなかった。
「はい、あなたにはこれで十分よ。荷物を軽くしてあげたし、これで馬車馬も喜ぶでしょうね」
数十分後、そう言ってアンジェラが随分小さくなった荷物を私に渡してくる。おそらく最低限の身の廻りの物しか入っておらず、着替えも下着ぐらいしかなさそうだ。
今着ているのは地味な旅装だが、これで隣国の偉い人に会うのか、と思うと暗澹たる気持ちになる。
粗相があれば恥をかくのは私だ。
こんな様子では護衛を増やしてもらうなど夢のまた夢だろう。そう思った私は暗い気持ちで馬車に乗り込むのだった。
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