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Ⅱ
ローウェル家 ハンナの報い
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キャロルがアーノルド家に向かってから一か月ほどが経過した。
「ちょっと、あの娘、仕事に来ないなんてどういうこと!?」
ある日の朝、日が高くなっても新人メイドが出勤してこないため、腹を立てたハンナは床に雑巾を叩きつける。新人が来なければ彼女に押し付けていた仕事を全部自分でやらなければならなくなるためだ。
そんなキャロルを見てエイダはため息をついた。
「ちょっと、キャロルが出ていってからもう三人目よ。一体何人辞めさせたら気が済むの?」
苛立っているハンナを見てエイダも苛々しながら言う。
キャロルが出ていった後、その穴埋めで新人メイドを雇ったのだが、これで辞めていったメイドは早くも三人になる。そもそもキャロルが家を出て、その穴埋めでメイドを雇っていること自体がおかしいのだが、雇われたメイドはキャロルがやらされていた仕事を全部押し付けられた。しかもハンナは特に教え方がうまい訳でもない。
キャロルは家事が出来たし、カレンも長い事勤めているから仕事が出来るのが当然であるが、給料も低い貧乏貴族にそうそう腕がいいメイドがやってくる訳もない。
そこへろくに教えもせず仕事を押し付けるのだからミスは相次ぎ、そのたびにハンナがキレ、嫌になって出ていくというのが三回も続いたため、元々ハンナと仲が良かったエイダも腹を立てていた。
「全く。あなたは長く勤めていてろくに新人教育も出来ないのかしら?」
「お言葉ですが奥様、そもそも奥様の採用に問題があるのです。ろくに仕事も出来ず、根性もない者ばかりを採用したのがそもそもの原因です」
ハンナはハンナで素直に引き下がらず、苛立った二人による口論になる。
「はあ? 寄りにもよって使用人の分際でこの私に口答えするつもり!?」
「メイドがいなければいなくなったで困る癖に!」
「別にあなたのようにろくに仕事も出来ないメイドはいなくなっても困らないわ!」
言い合いになったが、こうなってくると劣勢なのはハンナであった。
これまで好き放題してきたハンナはこの家を辞めて他の家に就職すれば一番新参とした仕事を始めなければならないことに堪えられない。
一方のエイダは別にハンナを首にすることにそこまでの抵抗はなかった。
「……分かりました」
「次のメイドが見つかるまで、せいぜい二人分働くことね」
仕方なくハンナはこれまでキャロルに押し付けていた仕事を自分で行うようになった。
朝は遅く起きてきて夜はエイダとパーティー三昧の暮らしに慣れてしまったハンナにとって、朝早く起きて朝食を作り、屋敷中の掃除を行って洗濯を行い、夕食を作るという重労働はなかなか堪えられるものではなかった。しかも仕事を押し付ける相手もいないため、終わるまで寝ることも出来ない。
しかも、
「おいハンナ、わしの服、汚れが落ちてないんだが」
当主のバイロンは遠慮なく彼女の至らぬ点を指摘する。
これまで曲りなりにもキャロルがきちんと家事をしていたため、彼にはハンナの仕事の欠点が目について仕方なかった。
「申し訳ありません。しかし人不足でなかなか手が回らず……」
ハンナは頭を下げながらも言い訳をするが、バイロンはそれを聞いてちっ、と舌打ちする。
「言い訳か? 全く、キャロルは何を言っても言い訳せず完璧にこなしていたというのに。お前は本職のメイドなのにキャロル以下か」
「……」
今まで自分が馬車馬のようにこき使っていたキャロル以下、と言われハンナは悔しさで唇をかみしめる。
しかしバイロン相手ではエイダの時のように反論することも出来ない。
「床の掃除も汚れが残っているところも多いし、家具も全ての家具を同じように水拭きしていたら傷んでしまう。くそ、エイダも早くもっとましなメイドを雇えばいいのに」
「申し訳ございません」
慌ててハンナは頭を下げるが、バイロンはすたすたと歩き去っていく。
が、屈辱でうなだれていると、
「何さぼっているの!? 仕事は山ほどあるんだからきりきり働きなさい!」
すぐに近くを通りかかったエイダが怒鳴りつける。
こうして仕方なくハンナは仕事に戻るのだった。
「ちょっと、あの娘、仕事に来ないなんてどういうこと!?」
ある日の朝、日が高くなっても新人メイドが出勤してこないため、腹を立てたハンナは床に雑巾を叩きつける。新人が来なければ彼女に押し付けていた仕事を全部自分でやらなければならなくなるためだ。
そんなキャロルを見てエイダはため息をついた。
「ちょっと、キャロルが出ていってからもう三人目よ。一体何人辞めさせたら気が済むの?」
苛立っているハンナを見てエイダも苛々しながら言う。
キャロルが出ていった後、その穴埋めで新人メイドを雇ったのだが、これで辞めていったメイドは早くも三人になる。そもそもキャロルが家を出て、その穴埋めでメイドを雇っていること自体がおかしいのだが、雇われたメイドはキャロルがやらされていた仕事を全部押し付けられた。しかもハンナは特に教え方がうまい訳でもない。
キャロルは家事が出来たし、カレンも長い事勤めているから仕事が出来るのが当然であるが、給料も低い貧乏貴族にそうそう腕がいいメイドがやってくる訳もない。
そこへろくに教えもせず仕事を押し付けるのだからミスは相次ぎ、そのたびにハンナがキレ、嫌になって出ていくというのが三回も続いたため、元々ハンナと仲が良かったエイダも腹を立てていた。
「全く。あなたは長く勤めていてろくに新人教育も出来ないのかしら?」
「お言葉ですが奥様、そもそも奥様の採用に問題があるのです。ろくに仕事も出来ず、根性もない者ばかりを採用したのがそもそもの原因です」
ハンナはハンナで素直に引き下がらず、苛立った二人による口論になる。
「はあ? 寄りにもよって使用人の分際でこの私に口答えするつもり!?」
「メイドがいなければいなくなったで困る癖に!」
「別にあなたのようにろくに仕事も出来ないメイドはいなくなっても困らないわ!」
言い合いになったが、こうなってくると劣勢なのはハンナであった。
これまで好き放題してきたハンナはこの家を辞めて他の家に就職すれば一番新参とした仕事を始めなければならないことに堪えられない。
一方のエイダは別にハンナを首にすることにそこまでの抵抗はなかった。
「……分かりました」
「次のメイドが見つかるまで、せいぜい二人分働くことね」
仕方なくハンナはこれまでキャロルに押し付けていた仕事を自分で行うようになった。
朝は遅く起きてきて夜はエイダとパーティー三昧の暮らしに慣れてしまったハンナにとって、朝早く起きて朝食を作り、屋敷中の掃除を行って洗濯を行い、夕食を作るという重労働はなかなか堪えられるものではなかった。しかも仕事を押し付ける相手もいないため、終わるまで寝ることも出来ない。
しかも、
「おいハンナ、わしの服、汚れが落ちてないんだが」
当主のバイロンは遠慮なく彼女の至らぬ点を指摘する。
これまで曲りなりにもキャロルがきちんと家事をしていたため、彼にはハンナの仕事の欠点が目について仕方なかった。
「申し訳ありません。しかし人不足でなかなか手が回らず……」
ハンナは頭を下げながらも言い訳をするが、バイロンはそれを聞いてちっ、と舌打ちする。
「言い訳か? 全く、キャロルは何を言っても言い訳せず完璧にこなしていたというのに。お前は本職のメイドなのにキャロル以下か」
「……」
今まで自分が馬車馬のようにこき使っていたキャロル以下、と言われハンナは悔しさで唇をかみしめる。
しかしバイロン相手ではエイダの時のように反論することも出来ない。
「床の掃除も汚れが残っているところも多いし、家具も全ての家具を同じように水拭きしていたら傷んでしまう。くそ、エイダも早くもっとましなメイドを雇えばいいのに」
「申し訳ございません」
慌ててハンナは頭を下げるが、バイロンはすたすたと歩き去っていく。
が、屈辱でうなだれていると、
「何さぼっているの!? 仕事は山ほどあるんだからきりきり働きなさい!」
すぐに近くを通りかかったエイダが怒鳴りつける。
こうして仕方なくハンナは仕事に戻るのだった。
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