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出発

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 それから数日して、アーノルド家の屋敷に再び商人たちがやってきました。
 この前私のドレスやアクセサリーを一緒に選んでくれた方が不慣れな私に着付けをしてくれました。

 着付けが終わった私は鏡を見て息をのみました。
 そこに立っていたのは幼いころ行ったパーティーで見た年上の女性と同じかそれ以上に綺麗になった自分の姿だったからです。

 鏡の中に映る私は青を基調としたドレスを纏っています。どちらかというと露出も少なく色合いも大人しいですが、襟元や袖口にはフリルがあしらわれており、ところどころにリボンで装飾もされています。

 また、いつもは家事に便利なようにポニーテールにしていた髪型もきちんと手入れして先端を巻いてもらっていました。
 顔にもしっかりとお化粧してもらったこともあり、本当に別人のようです。

 前回もドレスや装飾自体は見ていましたが、こうして実際に着てみると、印象はまるで違います。また、サイズもぴったりと私に合うように調整されていました。

 そのため、今回改めて私は驚いたと言う訳です。
 着替え終わって私が鏡に見入っていると部屋にブラッドが入ってきます。

「キャロルのドレス姿はどんな感じだ……あ」

 ブラッドは私の姿を見るとそのまま固まってしまいます。
 が、私は私でブラッドの姿に見とれていました。この国の男性貴族は建国当初に皆軍人であったことに由来していわゆる騎士服と言われるような服装を基調とした装いを正装とするのですが、彼の立ち姿もとても絵になるものでした。また、普段は身に着けていない特別な意匠の鞘に入った剣を腰に佩いています。

 私がブラッドをじっと見つめていると、少しして彼ははっとして口を開きました。

「……済まない、普段の姿しか見ていないからつい驚いてしまった。会った時から実は綺麗な方なのではないかと思っていたが、やはり僕の目に狂いはなかった」
「ありがとうございます。ブラッド殿もとても凛々しいお姿です」
「ありがとう。僕もこういう服を着るのは初めてだから落ち着かないが、そう言ってもらえると嬉しい」

 彼は少し照れたように頬をかきました。

「それはお互い様ですね」

 そう言って私たちは笑い合います。

「衣装も立派ですが、その剣も綺麗ですね」
「ああ、これか? これは我が家に先祖代々伝わるものだそうだ。こんな機会しか使うことがなくていつもは誇りを被らせてしまっていて非常に申し訳ないぐらいだが」
「とはいえ、剣を使う機会がないのはいいことですよ」
「それはそうだ」

 私たちが話し合っていると、やがてアーノルド男爵夫妻も支度を終えたようで、玄関先に集まります。
 二人とも普段の質素な服装とは別人のように着飾っており、その様子はおそらくもっと位が高い貴族と比べてもそん色ないでしょう。
 特に男爵夫人に比べると毎晩のようにパーティーに通っていたエイダの恰好を思い返すと、成金のように思えてきてしまいます。

「やはりたまにはきちんと正装をする機会を設けた方がいいな。そうでないと自分たちが貴族であるという自覚が失われてしまう」

 皆の恰好を見て男爵が言います。
 確かに、私も仕方ないこととはいえ気分は貴族令嬢というよりも使用人に近づいてしまっていたところがあります。

「日頃は貧乏貴族とか言われているけどこれなら堂々と他家の方々の前に出られるわね」

 男爵夫人もほっとしたように言います。

「それでは出発しようか」
「はい」

 こうして私たちは馬車に乗り、王宮に向かうのでした。
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