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魔王の娘 マキナ
マキナ Ⅰ
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ガウゼルが倒れたのを見て他の魔物たちは先を争って逃亡に移った。元々ミリアの魔法で一方的に苦戦していた魔物たちである。最強戦力であったガウゼルが倒れると勝ち目がないと考えても無理はない。
エアロ・ブラストの嵐が収まり生きていた魔物たちが逃げていくと、そこには体中に風穴が空いた魔物たちの死体が大量に転がっている。敵とはいえ、凄惨な光景に少し身震いしてしまう。
魔物たちが逃げ帰っていくのを見て俺はミリアの元に向かった。さすがに短時間の間に大技を二回も使ったミリアは少し疲れているように見えた。
「大丈夫だったか?」
「はい、しかし本当に魔王軍の幹部を倒してしまうとは凄いですね」
ミリアは俺のことを感心の眼差しで見てくるが、それはこっちの台詞だ。
「むしろミリアはガウゼル以外の全員を一人で相手にしたんだ、それも十分に凄いと思うぞ」
「はい、でも私はあくまで精霊たちに力を借りただけですから」
見るとミリアの側にはたくさんのシルフたちが集まっている。何にせよ、これだけの精霊を一度に集められるミリアの力は凄まじいが、本人は自分の力ではないと思っているのだろう。それはミリアの美徳だが、辛くならないのだろうかと心配になってしまう。
「無事に帰れそうか? もしかしたら帰り道でも敵の残党と遭遇するかもしれないが」
「はい、少し疲れていますが大丈夫だと思います」
こうして俺たちは再び空に舞い上がり、家まで飛んで帰ることにする。
ガウゼルの敗北が伝わったのだろう、地上を見下ろすとぽつぽつと逃げ帰る魔物たちの姿が見える。さらに東の方を見ると王国側の軍勢が打って出て、魔族軍に攻撃を仕掛けていた。魔族側はガウゼルの死により統制が乱れており、逃げるものと戦うものでごった返しており、全体で見ると押されている。先ほどの戦いで消耗した俺たちは残念ながら俺たちには彼らを助けるほどの魔力は残っていない。
彼らを横目に飛んでいくと、ふと戦場の端に一人の少女が倒れているのが見えた。全身に傷があり、今も矢が体が刺さって血を流している。
しかし着ているものがところどころ破れているとはいえ黒と赤のゴシックドレスのようなもので、人間と魔族の戦場には不似合いな姿だった。横顔も髪が乱れ汚れがついているが、きれいに見える。
「どうしたのでしょうか?」
「分からない。しかしこのままでは流れ矢に当たるか、たまたま出会った魔族に殺される可能性がある。助けよう」
「分かりました」
俺たちは仰向けに倒れている少女の元まで降下していく。
少女は年齢は十五くらいに見えるが、全身にたくさんの傷を負い、特に胸元に刺さった矢が一番見ていて痛ましい。美しい顔立ちときれいな黒の長髪を見ると何か由緒ある人物ではないかと思えるが、何にせよ助けるのが先だ。
「ミリア、行けるか?」
「はい、スピリット・ヒーリング」
ミリアは光の精霊の力を借りて少女に魔力を注ぎ込む。俺は傷口が開かないように慎重に彼女の胸元に刺さった矢を抜く。やがて全身の傷は塞がったものの、目を覚ます様子はない。ミリアの回復魔法の効果だろう、呼吸は規則正しくなっている。
「すみません、魔力が足りなかったようで完全には回復していないようです」
「とりあえず一命はとりとめたようだし、大丈夫だ。ここに放置していくのもなんだし、連れ帰るか」
俺は彼女を抱え上げる。
そこでふと俺は違和感を覚えた。普通の人間から感じる気配とは違う、魔物の気配が腕を通して微かに伝わってくる。しかしもし魔物が人間を騙すために擬態した存在であれば、抱きかかえるぐらいの距離まで近づけばもっと気配を感じるはずだし、第一今すぐ俺に襲い掛かってくるだろう。
「彼女、精霊が嫌がっています」
精霊は魔物の気配を嫌う傾向があるが、たまたま濃い気配の魔物と戦って気配が残っているという可能性もある。
「とはいえ、魔物そのものにしては気配が薄い。倒れる間際まで魔物と戦っていたとか、後に影響が残るような魔法を受けただけかもしれない。いったん連れ帰ろう」
俺は腕に抱えた彼女を家まで運んで飛んでいく。すぐ近くで戦闘はあったものの、俺の家付近は特に変わった様子はなく、ほっとする。俺は少女をベッドに寝かせるとほっと一息つく。
「疲れたので軽くお食事を作りますね」
「ありがとう」
俺の方はベッドの上ですうすうと寝息を立てている少女を見守る。見れば見るほど何か曰くありげな彼女だったが、横になっているうちに消耗した魔力が回復してきているらしく、だんだん魔力の気配も濃くなっていく。
この世界の一般人はほとんどの魔力を持たないが、ミリアのような生まれつきの魔力を持つ人間からは俺はその魔力量の気配を感じ取ることが出来る。
「回復途中でこれなら、元々は相当の魔力の持ち主だったんじゃないか?」
俺が言った時だった。突然彼女の寝息がぴたりと止まり、これまでずっと閉じていた目が開く。そしてゆっくりとこちらを見た。
「大丈夫か!?」
俺は思わず声をかける。
が、彼女は俺を見るなり目をかっと見開き、声を上げる。
「汚らわしい人間め!」
そしてベッドの上で飛び起きるなり俺に向かって右こぶしを振り上げる。まさか目覚めた瞬間攻撃を受けると思っていなかった俺は殴られることを覚悟する、
が、次の瞬間、傷がまだ治っていなかったのだろう、彼女は胸の辺りを抑えてベッドの上に崩れ落ちる。
「うっ、痛い……」
続く話なので明日は午前にももう一話更新します。
エアロ・ブラストの嵐が収まり生きていた魔物たちが逃げていくと、そこには体中に風穴が空いた魔物たちの死体が大量に転がっている。敵とはいえ、凄惨な光景に少し身震いしてしまう。
魔物たちが逃げ帰っていくのを見て俺はミリアの元に向かった。さすがに短時間の間に大技を二回も使ったミリアは少し疲れているように見えた。
「大丈夫だったか?」
「はい、しかし本当に魔王軍の幹部を倒してしまうとは凄いですね」
ミリアは俺のことを感心の眼差しで見てくるが、それはこっちの台詞だ。
「むしろミリアはガウゼル以外の全員を一人で相手にしたんだ、それも十分に凄いと思うぞ」
「はい、でも私はあくまで精霊たちに力を借りただけですから」
見るとミリアの側にはたくさんのシルフたちが集まっている。何にせよ、これだけの精霊を一度に集められるミリアの力は凄まじいが、本人は自分の力ではないと思っているのだろう。それはミリアの美徳だが、辛くならないのだろうかと心配になってしまう。
「無事に帰れそうか? もしかしたら帰り道でも敵の残党と遭遇するかもしれないが」
「はい、少し疲れていますが大丈夫だと思います」
こうして俺たちは再び空に舞い上がり、家まで飛んで帰ることにする。
ガウゼルの敗北が伝わったのだろう、地上を見下ろすとぽつぽつと逃げ帰る魔物たちの姿が見える。さらに東の方を見ると王国側の軍勢が打って出て、魔族軍に攻撃を仕掛けていた。魔族側はガウゼルの死により統制が乱れており、逃げるものと戦うものでごった返しており、全体で見ると押されている。先ほどの戦いで消耗した俺たちは残念ながら俺たちには彼らを助けるほどの魔力は残っていない。
彼らを横目に飛んでいくと、ふと戦場の端に一人の少女が倒れているのが見えた。全身に傷があり、今も矢が体が刺さって血を流している。
しかし着ているものがところどころ破れているとはいえ黒と赤のゴシックドレスのようなもので、人間と魔族の戦場には不似合いな姿だった。横顔も髪が乱れ汚れがついているが、きれいに見える。
「どうしたのでしょうか?」
「分からない。しかしこのままでは流れ矢に当たるか、たまたま出会った魔族に殺される可能性がある。助けよう」
「分かりました」
俺たちは仰向けに倒れている少女の元まで降下していく。
少女は年齢は十五くらいに見えるが、全身にたくさんの傷を負い、特に胸元に刺さった矢が一番見ていて痛ましい。美しい顔立ちときれいな黒の長髪を見ると何か由緒ある人物ではないかと思えるが、何にせよ助けるのが先だ。
「ミリア、行けるか?」
「はい、スピリット・ヒーリング」
ミリアは光の精霊の力を借りて少女に魔力を注ぎ込む。俺は傷口が開かないように慎重に彼女の胸元に刺さった矢を抜く。やがて全身の傷は塞がったものの、目を覚ます様子はない。ミリアの回復魔法の効果だろう、呼吸は規則正しくなっている。
「すみません、魔力が足りなかったようで完全には回復していないようです」
「とりあえず一命はとりとめたようだし、大丈夫だ。ここに放置していくのもなんだし、連れ帰るか」
俺は彼女を抱え上げる。
そこでふと俺は違和感を覚えた。普通の人間から感じる気配とは違う、魔物の気配が腕を通して微かに伝わってくる。しかしもし魔物が人間を騙すために擬態した存在であれば、抱きかかえるぐらいの距離まで近づけばもっと気配を感じるはずだし、第一今すぐ俺に襲い掛かってくるだろう。
「彼女、精霊が嫌がっています」
精霊は魔物の気配を嫌う傾向があるが、たまたま濃い気配の魔物と戦って気配が残っているという可能性もある。
「とはいえ、魔物そのものにしては気配が薄い。倒れる間際まで魔物と戦っていたとか、後に影響が残るような魔法を受けただけかもしれない。いったん連れ帰ろう」
俺は腕に抱えた彼女を家まで運んで飛んでいく。すぐ近くで戦闘はあったものの、俺の家付近は特に変わった様子はなく、ほっとする。俺は少女をベッドに寝かせるとほっと一息つく。
「疲れたので軽くお食事を作りますね」
「ありがとう」
俺の方はベッドの上ですうすうと寝息を立てている少女を見守る。見れば見るほど何か曰くありげな彼女だったが、横になっているうちに消耗した魔力が回復してきているらしく、だんだん魔力の気配も濃くなっていく。
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が、彼女は俺を見るなり目をかっと見開き、声を上げる。
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が、次の瞬間、傷がまだ治っていなかったのだろう、彼女は胸の辺りを抑えてベッドの上に崩れ落ちる。
「うっ、痛い……」
続く話なので明日は午前にももう一話更新します。
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