弟子に”賢者の石”発明の手柄を奪われ追放された錬金術師、田舎で工房を開きスローライフする~今更石の使い方が分からないと言われても知らない~

今川幸乃

文字の大きさ
32 / 56
魔王の娘 マキナ

アイシャ

しおりを挟む
 こんこん、と離宮のドアがノックされてエレナはため息をつく。
 国は大騒動になっているが、役に立つ人間があまりにも少ない。クルトのように役に立たない人間でもまだ魔力があるだけましだ。大臣のムムーシュは特に有能でもないのに魔力がないから石の供物にぶち込む訳にもいかず、相変わらず大臣を務めている。

 さらに最悪なのは日頃からエレナに恨みを持っていたり、今回の件とは特に関係なく冷遇されていた者たちがここぞとばかりにエレナに文句を言ってきたことだ。面倒になったエレナはそういう人物を見つけると片っ端から牢にぶちこむか賢者の石の供物部屋にぶちこむことにしている。

 まさに恐怖政治であったが、止めることが出来るほどの者が皆石によって魔力を吸われている上、現状エレナのやり方に代わる方法を考えつく者もいなかった。

「誰かしら」

 疲れ切ったエレナが問いかける。

「はい、私はアイシャと申します。今日はケイン殿下の件で参りました」

 アイシャというのは有力貴族の娘で、エレナの兄にあたる王太子ケインの婚約者でもある。そして王家の血をもっとも濃厚に引き継いでいるケインは優れた魔力を持つため、最初に石の供物にされていた。
 どうせそれについて文句を言いに来たのだろうし追い返そうとも思ったが、適当に理由を付けて牢にぶちこんでしまおうか、とエレナは思い直す。

「入りなさい」
「失礼します」

 言葉尻は丁寧だったが、アイシャの眼にはエレナへの敵意に満ちていた。
 アイシャは王宮ではエレナと並ぶ美貌の持ち主であるという評判が高く、どちらかというと近寄りがたい美しさを持つエレナに対し、アイシャはどちらかというと女の色香があり、スタイルも良い。今も純白のドレスから胸の辺りがしっかりと自己主張をしている。ケインの婚約者に収まったのも色仕掛けのせいではないかという悪評も一部ではたっているほどだった。

「エレナ殿下、ケイン殿下を解放してはいただけないでしょうか」
「そうはいかないわ。ケイン殿下の魔力は他の王族とは桁が違う。彼を解放すれば再び石が暴走して大変なことになるわ」

 実際のところ、エレナの本心は本来この状況で一番発言力があるから黙らせたということだったが。
 するとエレナは悲痛な表情を浮かべ、あろうことか宿敵であるエレナに頭を下げる。

「お願いします、私に出来ることでしたら何でもします。ですから殿下を解放してください!」
「ふーん、何でもねぇ」

 そう言いつつエレナはアイシャを見つめる。魔力を持たないアイシャは石の供物には向かないが、同性であるエレナから見ても彼女の体は魅力的に見える。特に頭を下げたからこそ緩い胸元からのぞく大きな胸はエレナも触ってみたいと思ってしまうほどだった。

「そこまで言うなら考えてあげてもいいわ」

 そう言ってエレナは彼女に近づいて胸に腕を伸ばす。エレナにしてみれば彼女に屈辱を与えようというぐらいの軽い気持ちだったが、アイシャにとっては待ち望んだ瞬間だった。

「女狐、覚悟!」

 突然エレナは胸元からナイフを取り出すと目にも留まらぬ速さでエレナに向かって突き出す。エレナは驚いたが、あまりに一瞬のことに回避も間に合わない。アイシャのナイフはまっすぐにエレナの首筋に迫り、そして。
 カン、と音がして目に見えない壁に防がれる。

「う、そ……」

 それを見てアイシャは呆然とした表情になる。

「ふざけるな!」

 すぐに護衛の兵士が殺到してアイシャの腕を抑え、床に組み伏せる。非力なアイシャは屈強な護衛たちによって瞬く間に腕をねじり上げられて床に組み敷かれた。
 それを見てエレナはつまらなさそうに言う。

「うーん、あなたは一大決心でやったのかもしれないけど、同じようなことをしてくる奴はすでに三人ぐらいいるから私からすると今更って感じなんだよね。だから常に自分には防御魔法をかけてるって訳」
「な、何だと……」
「殿下、こやつをいかがいたしましょう」

 兵士がエレナに向かって問いかける。
 それを聞いてエレナは首をかしげる。

「どうしよう。特に使い道もないし、腹いせに慰み者にしてもいいけど……そうだ、あなたさっき何でもするって言ったね」
「そんなの聞く訳ないでしょ!?」
「この前手違いで追い出しちゃったアルスっていう錬金術師が国境のすぐ外に住んでいるらしいからどんな手段でもいいから連れ戻してきなさい。別に本人が望むなら金も名誉もクルトの首も何でも差し出すわ」
「そ、そんなこと出来る訳ない!」

 お前が元凶じゃないか、と思うアイシャだったが言葉には出せない。
 拒否しようとするアイシャにエレナは切り札を切る。

「もし失敗したらケイン殿下は亡き者になるから。殿下と同じように彼もたぶらかせてきたらいいんじゃない?」
「わ、私と殿下はそういうのじゃ!」
「はいはい、手段は何でもいいからそういうことで頑張ってね」

 そう言われてしまえばアイシャにはもはや選択は残っていなかった。エレナの言うことは信用出来なかったが、アルスを連れ戻して賢者の石がどうにかなれば少なくともケインは解放される。そう思ってアイシャは唇をかみしめながら頷いた。

「……分かりました」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

最強付与術師の成長革命 追放元パーティから魔力回収して自由に暮らします。え、勇者降ろされた? 知らんがな

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
旧題:最強付与術師の成長革命~レベルの無い世界で俺だけレベルアップ!あ、追放元パーティーから魔力回収しますね?え?勇者降ろされた?知らんがな ・成長チート特盛の追放ざまぁファンタジー! 【ファンタジー小説大賞の投票お待ちしております!】  付与術のアレンはある日「お前だけ成長が遅い」と追放されてしまう。  だが、仲間たちが成長していたのは、ほかならぬアレンのおかげだったことに、まだ誰も気づいていない。  なんとアレンの付与術は世界で唯一の《永久持続バフ》だったのだ!  《永久持続バフ》によってステータス強化付与がスタックすることに気づいたアレンは、それを利用して無限の魔力を手に入れる。  そして莫大な魔力を利用して、付与術を研究したアレンは【レベル付与】の能力に目覚める!  ステータス無限付与とレベルシステムによる最強チートの組み合わせで、アレンは無制限に強くなり、規格外の存在に成り上がる!  一方でアレンを追放したナメップは、大事な勇者就任式典でへまをして、王様に大恥をかかせてしまう大失態!  彼はアレンの能力を無能だと決めつけ、なにも努力しないで戦いを舐めきっていた。  アレンの努力が報われる一方で、ナメップはそのツケを払わされるはめになる。  アレンを追放したことによってすべてを失った元パーティは、次第に空中分解していくことになる。 カクヨムにも掲載 なろう 日間2位 月間6位 なろうブクマ6500 カクヨム3000 ★最強付与術師の成長革命~レベルの概念が無い世界で俺だけレベルが上がります。知らずに永久バフ掛けてたけど、魔力が必要になったので追放した元パーティーから回収しますね。えっ?勇者降ろされた?知らんがな…

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

【薬師向けスキルで世界最強!】追放された闘神の息子は、戦闘能力マイナスのゴミスキル《植物王》を究極進化させて史上最強の英雄に成り上がる!

こはるんるん
ファンタジー
「アッシュ、お前には完全に失望した。もう俺の跡目を継ぐ資格は無い。追放だ!」  主人公アッシュは、世界最強の冒険者ギルド【神喰らう蛇】のギルドマスターの息子として活躍していた。しかし、筋力のステータスが80%も低下する外れスキル【植物王(ドルイドキング)】に覚醒したことから、理不尽にも父親から追放を宣言される。  しかし、アッシュは襲われていたエルフの王女を助けたことから、史上最強の武器【世界樹の剣】を手に入れる。この剣は天界にある世界樹から作られた武器であり、『植物を支配する神スキル』【植物王】を持つアッシュにしか使いこなすことができなかった。 「エルフの王女コレットは、掟により、こ、これよりアッシュ様のつ、つつつ、妻として、お仕えさせていただきます。どうかエルフ王となり、王家にアッシュ様の血を取り入れる栄誉をお与えください!」  さらにエルフの王女から結婚して欲しい、エルフ王になって欲しいと追いかけまわされ、エルフ王国の内乱を治めることになる。さらには神獣フェンリルから忠誠を誓われる。  そんな彼の前には、父親やかつての仲間が敵として立ちはだかる。(だが【神喰らう蛇】はやがてアッシュに敗れて、あえなく没落する)  かくして、後に闘神と呼ばれることになる少年の戦いが幕を開けた……!

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

処理中です...