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アイシャと王都
決着
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「くそ……あと一歩だったのに」
エレナはそう言って悔しそうに唇を噛む。しかしなおも彼女は降伏する気はなさそうだった。もっとも、降伏したところで命が助かることはないだろうから当然と言えば当然だが。
もはやエレナに手札は残っていなさそうなので、最後は魔術師らしく魔法で決着をつけることにする。
「これで終わりだ、アルケミー・ボム」
「マジック・バリア」
俺が放った爆弾をエレナが防ごうとする。エレナが張った防壁に爆弾がぶつかり、轟音とともに爆発する。爆風と煙で一瞬前が見えなくなる。そしてエレナが張った防壁は轟音とともに砕け散り、エレナ自身も爆発に巻き込まれる。
そして煙が収まると、そこには全身に火傷を負い、倒れているエレナの姿があった。
「これで終わりか」
彼女の遺体を見て俺はようやく息を吐く。元々そこまで魔術師として強力な力があったとは言えない彼女だが、王女という身分とその執念でよくここまでやったものだ。彼女の執念がもっといい方に向けば今頃もっと違った結果になっていただろうに。
そして、周囲で戦っていた騎士たちも動きを止めた。ケイン王子の首筋に剣を突き付けていた兵士も武器を捨てて逃亡した。
それを見てアイシャがケインに駆け寄る。ケインは魔力が回復しきっていないせいか弱々しい手つきでアイシャを抱き寄せる。
俺の元にはゴーレムを倒したマキナが歩いて来る。
「さすがアルスだった」
「マキナもよくやった」
俺たちは達成感に包まれているが、周囲は必ずしもそうではなかった。腹違いとはいえ実姉と戦うことになったミリアは落ち込んでいるし、戦うのをやめたエレナ派の騎士たちの一部はその隙に逃亡した。騎士や兵士たちもこれまで同僚だった者たち同士で刃を向け合ったこともあり、手放しで勝利を喜んでいる者は少ない。
さらに俺たちの戦いを聞きつけた他の家臣や兵士、貴族たちが早くも騒ぎを起こしているようで、王宮からはうっすらと騒ぎが聞こえてくる。とはいえ王宮の問題は俺の手には負えないし、どうしたらいいのかも分からない。
仕方なく俺は再会を喜び合っているケインとアイシャに声をかける。彼に任せていいのかも分からないが、今エレナに代わって国を治めるとしたら彼しかいないだろう。
「二人とも、この騒ぎをどうにか収拾してくれ」
「ああ。あなたも助けてくれてありがとう」
俺に声をかけられて、ケインは思い出したように俺に礼を言う。
「俺は賢者の石をどうにかしてくる。ここは任せたぞ」
「わ、分かった」
「それならわらわも行く」
王宮に向かおうとする俺についてこようとしたのはマキナだった。
「いや、石は危険だ。それに冷たいようだが、知識のない人間が向かっても役に立たない」
普通の人でも危険なのに、魔王の力を持つマキナが近づけばどうなるか分かったものではない。とはいえそれを口に出せる場面でもない。が、マキナは俺の視線を受けてそれを分かってくれたようだった。
「分かった」
こうして俺は一人で王宮へ入った。
「うっ」
王宮に入った瞬間、俺は全身から力が吸い取られていくのを感じる。そもそも俺は技術や知識が人より多いだけで、魔力は大したことがない。このままでは全ての魔力が吸い取られてしまう。まるで貧血で頭がくらくらしている時のようで、油断すると倒れてしまいそうだ。
それでも俺は自分の剣を杖のようにして賢者の石がある部屋まで歩いていく。あれほど栄えていた王宮の中はすでに廃墟のようであった。置いてあった魔法の品は全て黒ずんでひび割れており、誰ともすれ違わない。中には火事場泥棒にでもあったのか、荷物が散らかったままになっているところすらあった。
部屋に近づくと一段と魔力の吸引が強くなり、俺はひからびてしまいそうになる。ドアを開けると、中では俺が作った賢者の石が怪しげな光を放ちながら周囲の魔力を吸っていた。
早速石を見てみると、魔法の効果を出力する術式が間違っている。石が周辺から魔力を吸うのは石を永久に起動したままにしておくために必要なのだが、本来は空気などから吸える魔力で十分なはずだった。
しかし吸った魔力を結界に変えて発動する術式に狂いが生じている。本当は少量の魔力を何千倍にもして発動する術式のはずだったのだが、それが失敗しているせいで大量の魔力が必要になってしまっている。
「よし、後は直すだけだ」
幸い術式の書き換えは魔力がなくても可能だ。しかし魔力をほぼ失っているせいで頭痛と吐き気、そして意識が飛びそうになっているせいで全然集中出来ない。
「うっ」
俺は頭を抱えながら術式を見ていく。最初は正しい術式だったはずなのに石が起動しているうちにひずみが生じている場所を見つけ、記憶を辿りに元の内容に戻していく。薄れそうな意識の中、繊細な術式を微調整する。少しでも手元が狂えば石が大暴走する可能性も秘めているが、どうに直し終えた。
「ふぅ」
すると、徐々に石の力が弱まっていく。良かった、これで直ったか、と思ったところで俺は意識を失った。
エレナはそう言って悔しそうに唇を噛む。しかしなおも彼女は降伏する気はなさそうだった。もっとも、降伏したところで命が助かることはないだろうから当然と言えば当然だが。
もはやエレナに手札は残っていなさそうなので、最後は魔術師らしく魔法で決着をつけることにする。
「これで終わりだ、アルケミー・ボム」
「マジック・バリア」
俺が放った爆弾をエレナが防ごうとする。エレナが張った防壁に爆弾がぶつかり、轟音とともに爆発する。爆風と煙で一瞬前が見えなくなる。そしてエレナが張った防壁は轟音とともに砕け散り、エレナ自身も爆発に巻き込まれる。
そして煙が収まると、そこには全身に火傷を負い、倒れているエレナの姿があった。
「これで終わりか」
彼女の遺体を見て俺はようやく息を吐く。元々そこまで魔術師として強力な力があったとは言えない彼女だが、王女という身分とその執念でよくここまでやったものだ。彼女の執念がもっといい方に向けば今頃もっと違った結果になっていただろうに。
そして、周囲で戦っていた騎士たちも動きを止めた。ケイン王子の首筋に剣を突き付けていた兵士も武器を捨てて逃亡した。
それを見てアイシャがケインに駆け寄る。ケインは魔力が回復しきっていないせいか弱々しい手つきでアイシャを抱き寄せる。
俺の元にはゴーレムを倒したマキナが歩いて来る。
「さすがアルスだった」
「マキナもよくやった」
俺たちは達成感に包まれているが、周囲は必ずしもそうではなかった。腹違いとはいえ実姉と戦うことになったミリアは落ち込んでいるし、戦うのをやめたエレナ派の騎士たちの一部はその隙に逃亡した。騎士や兵士たちもこれまで同僚だった者たち同士で刃を向け合ったこともあり、手放しで勝利を喜んでいる者は少ない。
さらに俺たちの戦いを聞きつけた他の家臣や兵士、貴族たちが早くも騒ぎを起こしているようで、王宮からはうっすらと騒ぎが聞こえてくる。とはいえ王宮の問題は俺の手には負えないし、どうしたらいいのかも分からない。
仕方なく俺は再会を喜び合っているケインとアイシャに声をかける。彼に任せていいのかも分からないが、今エレナに代わって国を治めるとしたら彼しかいないだろう。
「二人とも、この騒ぎをどうにか収拾してくれ」
「ああ。あなたも助けてくれてありがとう」
俺に声をかけられて、ケインは思い出したように俺に礼を言う。
「俺は賢者の石をどうにかしてくる。ここは任せたぞ」
「わ、分かった」
「それならわらわも行く」
王宮に向かおうとする俺についてこようとしたのはマキナだった。
「いや、石は危険だ。それに冷たいようだが、知識のない人間が向かっても役に立たない」
普通の人でも危険なのに、魔王の力を持つマキナが近づけばどうなるか分かったものではない。とはいえそれを口に出せる場面でもない。が、マキナは俺の視線を受けてそれを分かってくれたようだった。
「分かった」
こうして俺は一人で王宮へ入った。
「うっ」
王宮に入った瞬間、俺は全身から力が吸い取られていくのを感じる。そもそも俺は技術や知識が人より多いだけで、魔力は大したことがない。このままでは全ての魔力が吸い取られてしまう。まるで貧血で頭がくらくらしている時のようで、油断すると倒れてしまいそうだ。
それでも俺は自分の剣を杖のようにして賢者の石がある部屋まで歩いていく。あれほど栄えていた王宮の中はすでに廃墟のようであった。置いてあった魔法の品は全て黒ずんでひび割れており、誰ともすれ違わない。中には火事場泥棒にでもあったのか、荷物が散らかったままになっているところすらあった。
部屋に近づくと一段と魔力の吸引が強くなり、俺はひからびてしまいそうになる。ドアを開けると、中では俺が作った賢者の石が怪しげな光を放ちながら周囲の魔力を吸っていた。
早速石を見てみると、魔法の効果を出力する術式が間違っている。石が周辺から魔力を吸うのは石を永久に起動したままにしておくために必要なのだが、本来は空気などから吸える魔力で十分なはずだった。
しかし吸った魔力を結界に変えて発動する術式に狂いが生じている。本当は少量の魔力を何千倍にもして発動する術式のはずだったのだが、それが失敗しているせいで大量の魔力が必要になってしまっている。
「よし、後は直すだけだ」
幸い術式の書き換えは魔力がなくても可能だ。しかし魔力をほぼ失っているせいで頭痛と吐き気、そして意識が飛びそうになっているせいで全然集中出来ない。
「うっ」
俺は頭を抱えながら術式を見ていく。最初は正しい術式だったはずなのに石が起動しているうちにひずみが生じている場所を見つけ、記憶を辿りに元の内容に戻していく。薄れそうな意識の中、繊細な術式を微調整する。少しでも手元が狂えば石が大暴走する可能性も秘めているが、どうに直し終えた。
「ふぅ」
すると、徐々に石の力が弱まっていく。良かった、これで直ったか、と思ったところで俺は意識を失った。
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